(旧版)関節リウマチ診療ガイドライン 2014
第1章 本ガイドラインを有効に活用していただくために |
1.わが国における関節リウマチ診療ガイドライン2014
東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター所長 山中 寿
RA診療は過去15年間で大きく様変わりした。bDMARD(生物学的製剤)をはじめとする新しいクラスの治療薬が次々と臨床応用されて,患者の疾患活動性がかなり制御できるようになり,治療方針も大きく変わった。短期的QOL改善を目的とする医療から,長期的予後の改善を目指す医療に大きく舵が切られ,いわゆるパラダイムシフトと呼ばれる変革が起きた。
一方で,多様化した医療を標準化するための努力も行われており,その1つがガイドライン(指針)やリコメンデーション(推奨)である。
わが国におけるRA診療ガイドラインとしては,1997年に現・公益財団法人日本リウマチ財団(以下,日本リウマチ財団)が発行したものが最初である。2004年にはこの改訂版が日本リウマチ財団から出版された1)。これは,1999年から開始された厚生労働省のエビデンスに基づく診療ガイドライン作成研究班(班長:越智隆弘)により作成されたものである。
このたび,2011年度より厚生労働科学研究費補助金免疫アレルギー疾患等予防・治療研究事業指定研究「我が国における関節リウマチ治療の標準化に関する多層的研究」(研究代表者:宮坂信之)の分科会として関節リウマチ診療ガイドライン作成分科会(分科会長:山中 寿)が立ち上げられ,治療が大幅に変遷した現状を反映した, 「関節リウマチ診療ガイドライン2014」を作成した。
一方で,多様化した医療を標準化するための努力も行われており,その1つがガイドライン(指針)やリコメンデーション(推奨)である。
わが国におけるRA診療ガイドラインとしては,1997年に現・公益財団法人日本リウマチ財団(以下,日本リウマチ財団)が発行したものが最初である。2004年にはこの改訂版が日本リウマチ財団から出版された1)。これは,1999年から開始された厚生労働省のエビデンスに基づく診療ガイドライン作成研究班(班長:越智隆弘)により作成されたものである。
このたび,2011年度より厚生労働科学研究費補助金免疫アレルギー疾患等予防・治療研究事業指定研究「我が国における関節リウマチ治療の標準化に関する多層的研究」(研究代表者:宮坂信之)の分科会として関節リウマチ診療ガイドライン作成分科会(分科会長:山中 寿)が立ち上げられ,治療が大幅に変遷した現状を反映した, 「関節リウマチ診療ガイドライン2014」を作成した。
診療ガイドラインとは,「特定の臨床状況において,適切な判断を行うため,臨床家と患者を支援する目的で(assist practitioner and patient decisions)系統的に作成された文書」(米国医学研究所(Institute of Medicine;IOM),1990)と定義されている。国内では公益財団法人日本医療機能評価機構の医療情報サービス事業Mindsが,近年の国際的動向を踏まえて,「診療ガイドラインは,診療上の重要度の高い医療行為について,エビデンスのシステマティックレビューとその総体評価,益と害のバランスなどを考量して,患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する文書」(2014)という定義を提示している。
ガイドライン(指針)に類する表現として,指令(directive),規制(regulations),推奨(recommendation) などがあるが,一般的には規制(regulations)>指令(directive)>推奨(recommendation)>or=指針(guideline) の順でより遵守が求められると考えられる。歴史的にみると,診療ガイドラインはその名称から「拘束力をもつ」ものと暗黙のうちに了解されてきた2)。しかしながら,上記の表現で明らかなように,ガイドラインはあくまで臨床的判断を支援するものであり,拘束するものでなければ規制するものでもない。また,多彩な症例が混在する臨床の現場においては不確実性のなかで診療が行われており,すべての診療がガイドラインどおりに行われることはありえない。ガイドラインどおりに行った結果が不幸な転帰をとる可能性もあり,ガイドラインに強制力をもたせることは不可能である。したがって,ガイドラインの内容が医師の裁量権を侵すものではないし,ガイドラインどおりの治療を選択しないことを理由として医師が責任を問われることもない。
RA領域の診療においては,ガイドライン(指針)とリコメンデーション(推奨)が混在しており,この両者がどう違うのかは多くの人々がもつ疑問である。北米ではガイドライン(指針)とリコメンデーション(推奨)は同等とされているが,ACRが2002年までに発表したものはガイドラインで,それ以降はリコメンデーションである。一般に,ガイドラインは60~95%の患者に適応できる基準とされているが3),リコメンデーションはガイドラインに到達するための手段という意味合いが含まれるため,より拘束力は低いものの,より幅広い患者を対象とした文書と考えられる。
ガイドライン(指針)に類する表現として,指令(directive),規制(regulations),推奨(recommendation) などがあるが,一般的には規制(regulations)>指令(directive)>推奨(recommendation)>or=指針(guideline) の順でより遵守が求められると考えられる。歴史的にみると,診療ガイドラインはその名称から「拘束力をもつ」ものと暗黙のうちに了解されてきた2)。しかしながら,上記の表現で明らかなように,ガイドラインはあくまで臨床的判断を支援するものであり,拘束するものでなければ規制するものでもない。また,多彩な症例が混在する臨床の現場においては不確実性のなかで診療が行われており,すべての診療がガイドラインどおりに行われることはありえない。ガイドラインどおりに行った結果が不幸な転帰をとる可能性もあり,ガイドラインに強制力をもたせることは不可能である。したがって,ガイドラインの内容が医師の裁量権を侵すものではないし,ガイドラインどおりの治療を選択しないことを理由として医師が責任を問われることもない。
RA領域の診療においては,ガイドライン(指針)とリコメンデーション(推奨)が混在しており,この両者がどう違うのかは多くの人々がもつ疑問である。北米ではガイドライン(指針)とリコメンデーション(推奨)は同等とされているが,ACRが2002年までに発表したものはガイドラインで,それ以降はリコメンデーションである。一般に,ガイドラインは60~95%の患者に適応できる基準とされているが3),リコメンデーションはガイドラインに到達するための手段という意味合いが含まれるため,より拘束力は低いものの,より幅広い患者を対象とした文書と考えられる。
RA診療に関するACRガイドラインとしては,1996年に発表された2編が最初である。作成方法などについては明示されていないが,網羅的な教科書的記載である4)5)。
2002年のACRガイドラインは,1996年のガイドラインを薬物療法の進歩を勘案して改訂したものである。可能なかぎりエビデンスに基づくが,いくつかの推奨はコンセンサスに基づき作成したと記載されている6)。
RA診療のガイドラインを大幅に進化させたのは,EULARを中心とするエビデンスに基づいた医療(evidencebased medicine;EBM)を用いたガイドライン / リコメンデーション作成の一連の業績である。EULARは学会内に作業部会(task force)を組織し,系統的文献検索(systematic literature review;SLR)と専門医の意見に基づいて,複数のリコメンデーションを作成した。作業部会は5つに分かれ,(a)csDMARDs(従来型抗リウマチ薬)の単剤投与かステロイドを含まない併用療法,(b)ステロイド単独かcsDMARD(s)(従来型抗リウマチ薬)との併用療法,(c)bDMARDs(生物学的製剤)(d)治療戦略,(e)医療経済学的問題の課題をそれぞれ担当し,複数のリコメンデーションを作成した7)-12)。
現時点で最も新しい治療推奨は,EULARリコメンデーション2013更新版13)である。“Treat to Target(T2T)”の考えを取り入れたEULARリコメンデーション2010を,基本的な考え方は同じであるが薬剤に関するエビデンスの追加によりアップデートしたもので,より臨床に即応した具体的なものになっており,わが国のRA診療に応用しうるものである。
一方,ACRは同様にEBMに基づくリコメンデーションを2008年に発表した。これも,同様に作業部会を立ち上げ,SLRを行ったうえで専門医の意見も取り入れて作成されたものである14)。
ACRリコメンデーションで最も新しいものはこのACR 2008リコメンデーションの改訂版で,2012年5月に発表された15)。Core Expert Panel(CEP)と患者代表も含むTask Force Panel(TFP)を立ち上げ,SLRを行ったうえでパネル会議,臨床シナリオを作成してデルファイ法による合意形成などを行い,リコメンデーションを作成した。リコメンデーションは,① csDMARD(従来型抗リウマチ薬)やbDMARD(生物学的製剤)の開始,中止,追加,変更など,② bDMARD(生物学的製剤)を肝炎,悪性新生物,心不全などを有する患者に投与する場合,③ bDMARD(生物学的製剤)使用時の結核スクリーニング,④ csDMARD(従来型抗リウマチ薬)やbDMARD(生物学的製剤)投与中のワクチン接種について記載している。特に,②,④に関してはエビデンスレベルC(専門家の意見を主にしたコンセンサス)であるが,臨床的に問題となる点に対して学会として踏み込んだ推奨を提示しており,その姿勢は高く評価できる。
2002年のACRガイドラインは,1996年のガイドラインを薬物療法の進歩を勘案して改訂したものである。可能なかぎりエビデンスに基づくが,いくつかの推奨はコンセンサスに基づき作成したと記載されている6)。
RA診療のガイドラインを大幅に進化させたのは,EULARを中心とするエビデンスに基づいた医療(evidencebased medicine;EBM)を用いたガイドライン / リコメンデーション作成の一連の業績である。EULARは学会内に作業部会(task force)を組織し,系統的文献検索(systematic literature review;SLR)と専門医の意見に基づいて,複数のリコメンデーションを作成した。作業部会は5つに分かれ,(a)csDMARDs(従来型抗リウマチ薬)の単剤投与かステロイドを含まない併用療法,(b)ステロイド単独かcsDMARD(s)(従来型抗リウマチ薬)との併用療法,(c)bDMARDs(生物学的製剤)(d)治療戦略,(e)医療経済学的問題の課題をそれぞれ担当し,複数のリコメンデーションを作成した7)-12)。
現時点で最も新しい治療推奨は,EULARリコメンデーション2013更新版13)である。“Treat to Target(T2T)”の考えを取り入れたEULARリコメンデーション2010を,基本的な考え方は同じであるが薬剤に関するエビデンスの追加によりアップデートしたもので,より臨床に即応した具体的なものになっており,わが国のRA診療に応用しうるものである。
一方,ACRは同様にEBMに基づくリコメンデーションを2008年に発表した。これも,同様に作業部会を立ち上げ,SLRを行ったうえで専門医の意見も取り入れて作成されたものである14)。
ACRリコメンデーションで最も新しいものはこのACR 2008リコメンデーションの改訂版で,2012年5月に発表された15)。Core Expert Panel(CEP)と患者代表も含むTask Force Panel(TFP)を立ち上げ,SLRを行ったうえでパネル会議,臨床シナリオを作成してデルファイ法による合意形成などを行い,リコメンデーションを作成した。リコメンデーションは,① csDMARD(従来型抗リウマチ薬)やbDMARD(生物学的製剤)の開始,中止,追加,変更など,② bDMARD(生物学的製剤)を肝炎,悪性新生物,心不全などを有する患者に投与する場合,③ bDMARD(生物学的製剤)使用時の結核スクリーニング,④ csDMARD(従来型抗リウマチ薬)やbDMARD(生物学的製剤)投与中のワクチン接種について記載している。特に,②,④に関してはエビデンスレベルC(専門家の意見を主にしたコンセンサス)であるが,臨床的に問題となる点に対して学会として踏み込んだ推奨を提示しており,その姿勢は高く評価できる。
わが国におけるRA診療ガイドラインとしては,前述のように1997年に日本リウマチ財団が発行したものが最初である。これは,リウマチ科の自由標榜が認められたことを契機として作成されたものである。2004年に出版された改訂版1)は1999年から開始された厚生労働省のエビデンスに基づく診療ガイドライン作成研究班(班長:越智隆弘)により作成されたものである。RA領域のエビデンスが十分でなく,あくまで初版を改訂することを基本として作成された。ただし,薬物療法の分野に関してはSLRを行ったうえで推奨度を決定した。さらに,このガイドライン導入前後におけるリウマチ専門医の診療パターンの変化も研究されている16)。
今回のガイドライン作成は,2011年度より厚生労働科学研究費補助金免疫アレルギー疾患等予防・治療研究事業指定研究「我が国における関節リウマチ治療の標準化に関する多層的研究」(研究代表者:宮坂信之)の分科会として関節リウマチ診療ガイドライン作成分科会が立ち上げられ,治療が大幅に変遷した現状を反映したものである。
今回のガイドライン作成は,2011年度より厚生労働科学研究費補助金免疫アレルギー疾患等予防・治療研究事業指定研究「我が国における関節リウマチ治療の標準化に関する多層的研究」(研究代表者:宮坂信之)の分科会として関節リウマチ診療ガイドライン作成分科会が立ち上げられ,治療が大幅に変遷した現状を反映したものである。
上記の総合的なガイドラインとは別に,JCRが作成した診療ガイドラインがいくつも発表されている。これらは,新しく診療に導入された薬剤や臨床的に問題のある点に関して,JCR調査研究委員会が臨床医の診療を支援する目的で作成し,薬剤の用法・用量を逸脱しない範囲における投与方法や投与上の注意点が記載されたものである。いずれもJCRウェブサイトに掲載されており,自由にダウンロードできるようになっているので,その活用範囲は広い。
おのおののガイドラインとURLを以下に記載する。
おのおののガイドラインとURLを以下に記載する。
1 関節リウマチ治療におけるメトトレキサート(MTX)診療ガイドライン
● 簡易版(http://www.ryumachi-jp.com/info/guideline_ mtx.html)
● 2011年版(http://www.ryumachi-jp.com/info/ newsMTX-text_2011.html)
「関節リウマチ治療におけるメトトレキサート(MTX)診療ガイドライン」は,公知申請により2011年2月にMTXの用法・用量が変更されたのを機に日本リウマチ学会MTX診療ガイドライン策定小委員会が作成し,出版したものである16)17)。JCRウェブサイトから簡易版がダウンロードできるようになっている。
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関節リウマチ(RA)に対するTNF阻害薬使用ガイドライン(2014年6月29日改訂版)(http://www.
ryumachi-jp.com/info/guideline_TNF.html)
3
4
最後に
診療ガイドラインやリコメンデーションは,情報量が加速度的に増大していることに加えて,ガイドライン作成法自体が進歩し,質も量も飛躍的に増大した。そして,エビデンスの質がそのまま推奨度につながっていた時代は過ぎて,利益と不利益,患者の価値観や医療経済学的視点も加えたうえで推奨度を設定することが求められる時代に突入している。臨床医としては,発表されるガイドラインやリコメンデーションを鵜呑みにするのではなく,それがどのような過程を経て作成されたかを理解したうえで評価し,日常診療に応用する姿勢が必要になるであろう。
References