有効性評価に基づく前立腺がん検診ガイドライン

 
添付書類4

DRE:AF1 時系列研究(1文献)
ガイドラインNo 著者 題名 雑誌 Volumes Pages 公表年 検査法 対象数 対象集団の特性 対象集団の設定条件 検診群における受診率・要精検率 評価指標 評価指標の把握 結果 研究全般に関するコメント
23 Gilliland F, Becker TM, Smith A, Key CR, Samet JM. Trends in prostate cancer incidence and mortality in New Mexico are consistent with an increase in effective screening. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 3 105-11 1994 DRE (検診導入と、発症率、死亡率の時系列推移を検討) 10,387人 明確な記載なし(50-75歳以上?) ニューメキシコ、一般住民。 1990年以前にはPSAによる診断例はない。全体の受診率(数)は不明だが、1973-1991年に発見された前立腺がんのうち検診発見がんの割合は13.0%から41.2%に増加している。 前立腺がんのステージの割合の推移、死亡率の推移。 国家のがん登録データ、死亡診断書。 前立腺がんのうち、スクリーニングによって発見された割合は、1969-1972年の13%から1988-1991年に41%へと3倍に増加した。年齢調整した人口10万人あたりの罹患率は、この間に66.3人から122.3人まで増加した。限局性前立腺がんは77.5%から85.4%に増加し、遠隔転移がんは21.2%(論文中の記載では21.7%)から9.8%へと減少した。年齢調整した前立腺がんの人口10万人あたりの死亡率は、1978-1982年の23.0人から1988-1991年の21.6人と6.1%減少した。死亡率の減少は、遠隔転移がんが減少し、早期がんが増加したステージ変化と一致しており、前立腺がん検診の普及を反映している可能性がある。 5年生存率が向上しているが、早期がんに対する根治的切除術の頻度の増加、根治的切除術に伴うステージ変化(ウィルロジャーズ現象)、先行期間の偏り(リードタイム・バイアス)、罹病期間の偏り(レングスタイム・バイアス)など、いろいろな要因の可能性がある。この結果から因果関係があると明言することには注意が必要である。


DRE:AF1 症例対照研究(4文献)
ガイドラインNo 著者 題名 雑誌 Volumes Pages 公表年 検査法 対象数 対象集団の特性 対象集団の設定条件 検診群における受診率・要精検率 評価指標 評価指標の把握 結果 研究全般に関するコメント
24 Friedman GD, Hiatt RA, Quesenberry CP Jr, Selby JV. Case-control study of screening for prostatic cancer by digital rectal examinations. Lancet 337 1526-9 1991 DRE 症例群(遠隔転移した前立腺がん患者)139人
対照群139人
症例群は平均69.4歳(39-95歳)、対照群は平均69.1歳(40-93歳)。転移性前立腺がん患者(ケース)と誕生日、郵便番号、プログラム参加の日が近いという条件でマッチさせた対照者(転移性前立腺がんでない者)。 米国、サンフランシスコ湾岸のKPNW(ノースウェスト・カイザーパーマネント)の会員。 10年間で症例群は2.45回、対照群は2.52回受診。
DREによるスクリーニングは症例群69.7%、対照群70.6%。
転移がん KPNWのがん登録。医療記録。 スクリーニングとして直腸診を1回以上受診した者における転移性前立腺がんの(人種で調整した)相対危険度は、0.9(95%CI:0.5-1.7)であった。スクリーニングあるいは何らかの症状受診のための検査とした場合の相対危険度は0.7(95%CI:0.5-1.7)である。 1)ルーチンの直腸診スクリーニングは、転移性前立腺がんを予防する効果がほとんどないように思える。
2)スクリーニングの対象としては不適切と考えられる高齢者が含まれている(39-95歳)。
25 Richert-Boe KE, Humphrey LL, Glass AG, Weiss NS. Screening digital rectal examination and prostate cancer mortality: a case-control study. J Med Screen 5 99-103 1998 DRE 症例群(前立腺がんで死亡)150人、対照群299人、1:2でマッチング。 1981-1990年に前立腺がんで死亡した者(診断時40-84歳)と同一の年齢、保険加入日をマッチさせた対照者(誤差それぞれ1歳、1年未満)。 KPNW(ノースウェスト・カイザーパーマネント)の会員で、無作為抽出された者(症例群は1981-1990年に前立腺がんで死亡した者)。 症例群 77%
対照群 80%
死亡(症例群/対照群のオッズ比) KPNWのがん登録の記録に基づく。 DREを検診目的に限定し、10年間に少なくとも1度でも受診した場合、症例群/対照群のオッズ比は0.84(95%CI:0.48-1.46)。診断目的を含んだ場合、10年間に少なくとも1度の受診者オッズ比は0.84(95%CI:0.43-1.64)である。したがってDREによる死亡率減少効果をみとめられない。 1)DREによる死亡率減少効果はみられない。
2)診断・検診目的別DREを分けて解析している。検診目的に限定した場合でも直近3年までのオッズ比が1を超えるのは、本来の検診を目的としない検診にまぎれこんだため。検診と診断の区別の困難な例が含まれている。
26 Weinmann S, Richert-Boe K, Glass AG, Weiss NS. Prostate cancer screening and mortality: a case-control study (United States). Cancer Causes Control 15 133-8 2004 多くがDRE (PSAも含む) 症例群(前立腺がんで死亡)171人、対照群342人、1:2でマッチング。 症例群/対照群:1992-1999年に死亡した者(ケース、 45-84歳)と同一の性、年齢、保険プラン、加入日、期間をマッチさせた対照者。 KPNW(ノースウェスト・カイザーパーマネント)の会員で、無作為抽出された者。 受診率:症例群74.6%・対照群74% 死亡率(症例群/対照群のオッズ比) ヘルスプランがん登録の記録コードの正確さを担保するため、カルテと死亡診断書を再検討。 DREあるいはPSAいずれかの検診を受けた場合のオッズ比は0.70(95%CI:0.46-1.1)。スクリーニングの大半はDREであり、PSA単独の評価はできなかった。 オッズ比 0.70、95%信頼区間が 0.46-1.1であり、有意差はないが、死亡率を30%低下させるかもしれない。サンプル数が増えれば、有意差が認められる可能性はある。
バイアス、交絡因子を調整しており、よく吟味された症例対照研究と思われる。
27 Jacobsen SJ, Bergstralh EJ, Katusic SK, Guess HA, Darby CH, Silverstein MD, Oesterling JE, Lieber MM. Screening digital rectal examination and prostate cancer mortality: a population-based case-control study. Urology 52 173-9 1998 DRE 症例群173人
対照群346人
症例群の死亡時の平均年齢79歳(73-85歳、それぞれ25、75パーセンタイル値)、対照群は誕生日でマッチング。白人が96%で、多くが中流階級、82%が高卒以上。住民の多くが健康産業関連の仕事に従事している点を除いて、他の米国白人たちと同様。 米国、ミネソタ、オルムステッド地域。メイヨー・クリニックと関連病院で、医療記録が把握されている者。 診断含むDRE受診率:症例群75% 対照群84%
スクリーニング:症例群61% 対照群87%
死亡率 医療記録 症状受診も含む10年以内でDRE受診による前立腺がんは49%減少した(オッズ比0.51、95%CI:0.31-0.84)。さらに検診目的に限定すると前立腺がん死亡は69%減少した(オッズ比0.31、95%CI:0.19-0.49)。学歴や婚姻の有無で調整しても同様の効果がみられた。 1)2人の評価者が、独立して医療記録に基づきDRE受診の有無を評価。評価者内の一致率κは0.81、評価者間は0.84(3ヶ月毎の有無の場合)。
2)DRE検診は、理想的には、前立腺がんによる死亡の50-70%を防ぐ可能性がある(全員が受診すると、17%の死亡率の低下に該当する)。ただし、健康な人がスクリーニングを受けていることの偏りの可能性が不明である点、医療関係の仕事に従事する者が多い地域で職業による交絡の影響が未検討である点から、断定は困難である。


DRE:AF3 検査精度(1文献)
ガイドラインNo 著者 題名 雑誌 Volumes Pages 公表年 研究方法 検査法 対象集団の特性 評価指標 結果 研究全般に関するコメント
28 Mistry K, Cable G. Meta-analysis of prostate-specific antigen and digital rectal examination as screening tests for prostate carcinoma. J Am Board Fam Pract 16 95-101 2003 検査精度(メタ・アナリシス) PSAとDRE OVIDデータベース(1966-1999年)の文献検索。
13の研究のプール(様々な国の50歳以上の男性)。
感度、特異度、陽性適中率、限局がんの割合。 前立腺がんの全体の発見率は1.8%であった。(生検による)83.4%は局所がん。
PSAの感度、特異度と陽性適中率は、72.1%、93.2%、25.1%。
DREの感度、特異度と陽性適中率は、53.2%、83.6%、17.8%。
1)13の研究における研究対象の年齢に幅がある。
2)6つの研究では年齢が40歳代も含まれている。
3)一部の研究は元データが得られたが、その他は発表論文の記載からデータ収集している。
4)出版バイアスの可能性がある。


PSA:AF1 RCT(4文献)
ガイドラインNo 著者 題名 雑誌 Volumes Pages 公表年 検査法 対象数 対象集団の特性 対象集団の設定条件 検診群における受診率・要精検率 評価指標 評価指標の把握 結果 研究全般に関するコメント
30 Labrie F, Candas B, Cusan L, Gomez JL, Belanger A, Brousseau G, Chevrette E, Levesque J. Screening decreases prostate cancer mortality: 11-year follow-up of the 1988 Quebec prospective randomized controlled trial. Prostate 59 311-8 2004 DRE・PSA 検診群 31,133人
非検診群 15,353人 (2:1)
45-80歳 一般人口 (ケベック、カナダ) 検診群に割り付けられた者のうち23.6%が受診、要精検率は不明。 前立腺がん死亡率 死亡登録 (Death Registry of the Health Department of the Province of Quebec) 検診群のコンプライアンスが極端に低かったため、無作為割付を放棄し、検診群のうち検診を実際に受診した7,348人と対照群のうち検診を受診しなかった14,231人を新たにコホートと定義し直して、両者の前立腺がん相対死亡率比0.38(98%CI:0.20-0.73)をもって、受診者における前立腺がん死亡率が有意に低下したと著者は報告している。 本論文は文献31の第2報で、11年間の追跡結果である。論文中の解析は、両群の比較性を棄却したものであり、RCTの結果ではない。無作為化比較試験の標準的方法であるintention-to-treat解析ではRR=1.01(0.76-1.33)であり、死亡率減少効果を認めないRCTの研究結果である。
31 Labrie F, Candas B, Dupont A, Cusan L, Gomez JL, Suburu RE, Diamond P, Lévesque J, Belanger A. Screening decreases prostate cancer death: first analysis of the 1988 Quebec prospective randomized controlled trial. Prostate 38 83-91 1999 PSA検診(逐年) 検診群 30,956人
非検診群 15,237人
(無作為割付時)
45-80歳 一般人口 (ケベック、カナダ) 検診者の23.1%が受診、要精検率は不明。 死亡率 死亡登録 (Death Registry of the Health Department of the Province of Quebec) 1989年から1996年にかけて、38,056人の非検診群(割付と無関係に、事実として期間中に受診しなかった者)の中から137人が前立腺がんで死亡した。検診群(割付と無関係に、事実として期間中に受診した者)では5人が前立腺がんで死亡した。(無作為割付を無視した場合の)10万人年あたりの前立腺がん死亡率は、それぞれ48.7人と15人(P=0.02)で、オッズ比は3.25(P<0.01)であった。検診を受けることにより、前立腺がんの死亡率を、67.1%減らすことができる。 著者らの結論は、無作為割付を無視しているため、そのままでは利用できない。intention-to-treat analysisの原則に従うと、非検診群では15,432人中73人が前立腺がんで死亡し、検診群では31,300人中140人が前立腺がんで死亡していた。前立腺がんの死亡率は、検診により、6%減らせるかもしれない(有意差の記載はない)という結論になる。
理想的な状況(健康に関心が高い希望者に検診)では、死亡率が最大67.1%低下する可能性がある。実際の状況(市町村で検診)では、6%低下する可能性がある。この論文は、主たる解析時に無作為割付を無視しているため、実質的にコホート研究と変わりなく、偏りが混入している可能性がある。
前立腺がんの検診の有効性を高めるためには、コンプライアンスの向上が重要になる。ただし、精密検査時の負担を考えると、23.1%を超えることは容易ではないように思われる。わが国で実施する際も、理想的な状況下と、実際の状況の数値に乖離が生ずる可能性があることに注意が必要である。
32 Sandblom G, Varenhorst E, Löfman O, Rosell J, Carlsson P. Clinical consequences of screening for prostate cancer: 15 years follow-up of a randomised controlled trial in Sweden. Eur Urol 46 717-24 2004 DRE(1987,1990) DRE+PSA(1993,1996) 検診群1,494人
非検診群7,532人
男性50-69歳 スウェーデン
ノルコーピング
受診率:
1987年77.8%
(1,161人/1,492人)
1990年70.2%
(957人/1,363人)
1993年74.0%
(895人/1,210人)
1996年73.6%
(446人/606人)

精検受診率:不明
死亡数・生存率 South-East Region Prostate Cancer Register 追跡人年が記載されていないが、両群の前立腺がん死亡数を登録人数で割ったものとの間には差が無く、本文中にも死亡率には差がなかったと記載されている。15年間の経過観察中、検診群からは85人(5.7%、うち42人は中間期がん)、非検診群からは292人(3.8%)の前立腺がんが発見された。発見がんのうち、局在がんは検診群48人(56.5%)、非検診群78人(26.7%)であった。前立腺がん患者の前立腺がん・全死因の生存率は両群で差がなかった。 1)無作為割付が適切に行われておらず、割付予測が可能である。
2)検診群・非検診群の前立腺がん死亡が示されているが相対リスクを算出しておらず、生存率解析の結果から最終的な結論を導きだしている。
3)前立腺がん死亡(対1,000)は検診群13.4、非検診群12.9で有意差なし。
4)全死因死亡のデータは発見がん患者に限られており、各群の全死亡ではない。
5)研究の前半はPSAが実施されていない(DREのみ)。
6)発見例の48.8%が待機療法(Expectancy)。
7)1987年より開始し、2003年まで追跡。ケベック研究とほぼ同時期の研究。
33 Aus G, Bergdahl S, Lodding P, Lilja H, Hugosson J. Prostate cancer screening decreases the absolute risk of being diagnosed with advanced prostate cancer--results from a prospective, population-based randomized controlled trial. Eur Urol 51 659-64 2007 PSA検査 検診群9,972人
対照群9,973人
男性 50-65歳 スウェーデン・ゴーテンデルクの住民。 受診率75% 転移がん発見数 がん登録 10年間で、前立腺がんと診断されたのは検診群が810人、非検診群が442人であり、検診群が非検診群の1.8倍であった。転移前立腺がんの症例数は検診群24人、非検診群47人であり、検診によって転移がんリスクは48.9%減少した(P=0.0084)。検診群で診断された転移がん24人のうち、13人は検診未受診であった。 1)検診による転移がんのリスク減少効果の可能性を示しているが、転移がんのサンプル数が少ない。
2)バイアスを回避するために、割付後にインフォームドコンセントを行っている。
3)代替指標であり、またM1が未確認なものも含む成績である。
4)両群における発見までの平均期間は示されていない。
5)代替指標による結果であることから、有効性評価の結論は出せない。


PSA:AF1 系統的総括(1文献)
ガイドラインNo 著者 題名 雑誌 Volumes Pages 公表年 検査法 対象数 対象集団の特性 対象集団の設定条件 検診群における受診率・要精検率 評価指標 評価指標の把握 結果 研究全般に関するコメント
34 Ilic D, O'Connor D, Green S, Wilt T. Screening for prostate cancer: a Cochrane systematic review. Cancer Causes Control 18 279-85 2007 PSA・DRE・併用法
(PSA、DRE)
  • ケベック研究
    介入群:31,133人
    対照群:15,353人
     
  • ノルコーピング研究
    介入群:1,494人
    対照群:7,532人
ケベックの研究は45-80歳男性、ノルコーピングの研究は50-69歳男性。 ケベック研究
ノルコーピング研究
本論文中には記載なし。 前立腺がんの死亡率
全死因死亡率
ケベック研究(死亡登録)
ノルコーピング研究(がん登録)
ケベック研究は allocation concealment や結果の評価のブラインドが行われたか不明。ノルコーピング研究は割付方法に不備があり、allocation concealment ブラインドによる評価が不明。対照群の検診受診状況が不明。
ケベックの研究は検診受診者と非受診者を比較しRR=0.39(95%CI:0.19-0.65)と報告されているが、コンプライアンスが低い。Intention-to-treat 分析をすると1.01(95%CI:0.76-1.33)。Norrkopingの研究では1.04(95%CI:0.64-1.68)。両者をpooled analysisすると1.01(0.80-1.29)。
1)ケベックの研究は1988年開始46,193人を年齢と地域で2:1にランダム化、ノルコーピングの研究は1987年開始9,026人をランダム化と記載されているが、十分ではない。
2)ERSPC Rotterdam のパイロットスタディは検討段階で除外された。 二つの研究ともintention-to-treat分析をすると差がないという意味では矛盾しない成績である。この二つの無作為化比較試験としながらも、研究方法と解析方法に問題がある。現段階で確定的証拠はなく、適切な説明が必要である。


PSA:AF1 コホート研究(1文献)
ガイドラインNo 著者 題名 雑誌 Volumes Pages 発行年 検査法 対象数 対象集団の特性 対象集団の設定条件 検診群における受診率・要精検率 評価指標 評価指標の把握 結果 研究全般に関するコメント
35 Ciatto S, Gervasi G, Gorini G, Lombardi C, Zappa M, Crocetti E. Prostate cancer specific mortality in the Florence screening pilot study cohort 1992-1993. Eur J Cancer 42 1858-62 2006 PSA 6,861人のうち、検診参加 2,662人、拒否 3,448人、既往などで除外751人。 60歳-74歳 イタリア・フローレンス地方の中の郡部2ヶ所と都市部1ヶ所の住民。 38.8%(2,662人/6,861人) 死亡率
(前立腺がん、全死因)
地域がん登録、死亡記録、GPからの受診、既往歴など。 研究開始後5年以上経過した後の前立腺がん死亡率(SMR)は、検診受診者では0.48(95%CI:0.26-0.83)、拒絶者で0.99(95%CI:0.69-1.37)であった。しかし、検診受診者全死因死亡率は、0.73(95%CI:0.67-0.77)。この結果は、スクリーニングの有効性を示すかもしれないが、「healthy screening bias」(スクリーニングに参加する者ほど、健康志向が高いという選択の偏り)かもしれないので、確かな証拠にはならない。 著者の結論のとおり、スクリーニングに参加する者ほど、健康志向が高いという選択の偏りかも知れないので、明確な証拠にはならない点に注意が必要である。

PSA:AF1 症例対照研究(3文献)
ガイドラインNo 著者 題名 雑誌 Volumes Pages 発行年 検査法 対象数 対象集団の特性 対象集団の設定条件 検診群における受診率・要精検率 評価指標 評価指標の把握 結果 研究全般に関するコメント
36 中川修一,中村晃和,渡辺泱. 前立腺がん検診の有効性と適切な受診間隔を検討するためのケース・コントロール研究. 日本泌尿器科学会雑誌 89 894-8 1998 TRS、TRS+DRE、TRS+DRE+PSA、PSA単独方式が混在。 症例群31人
対照群155人
55歳以上(平均年齢:症例群71.6歳、対照群71.2歳) 全国34市町村 受診歴あり:
症例群23%
対照群45%
進行がん(stage C, D) 詳細不明(おそらく、検診後の追跡調査) 1975年から1997年までに同一市町村で2回以上検診を行った全国34市町村における検診受診者は26,270人であった。このうち2回目以降の検診で進行がん(stage C, D)と診断された31人を症例群とした。対照群は、検診実施年月、年齢、居住市町村を一致させた症例を1:5の比率で受診者名簿から選んだ。過去3年以内に検診受診歴のあるものを「受診歴あり」、それ以前に受診していた症例を「受診歴なし」とした。症例群の受診歴ありは23%、対照群のそれは45%であり、オッズ比は0.36 (95%CI:0.15-0.87)であった(P<0.05)。検診受診間隔からみた場合、オッズ比に有意差が認められたのは1年前の受診のみであったことから(オッズ比 0.22、95%CI:0.07-0.70)、検診受診間隔は1年ごとが適当と推測された。 1)症例群は検診発見がんから進行がんを選択している。一方、対照群は受診者名簿から選択している。検診の寄与を検討する場合であれば、対象地域の進行がん罹患を症例群とし、受診者名簿ではなく、受診対象となりうる、検診受診対象者名簿や住民基本台帳から対照群を抽出すべきである。
2)PSAに限定せず、前立腺がんの多種の方法による検診を評価しているため、PSAの評価には適切ではない。
3)研究方法に問題はあるが、国内で行われた唯一の症例対照研究である。
37 Concato J, Wells CK, Horwitz RI, Penson D, Fincke G, Berlowitz DR, Froehlich G, Blake D, Vickers MA, Gehr GA, Raheb NH, Sullivan G, Peduzzi P. The effectiveness of screening for prostate cancer: a nested case-control study. Arch Intern Med 166 38-43 2006 PSA・DRE 症例群501人
対照群501人
症例群は1991-1995年に診断され、1999年までに死亡。
男性 平均72.5歳
75歳以上の割合:
症例群251人(50%)
対照群244人(49%)
前立腺がん以外の合併症:
症例群72%
対照群56%
10 Veterans Affairs(New England) 受診率:
症例群14%
対照群13%
精検受診率:不明
前立腺がん死亡、全死因死亡。 医療記録(Veterans Affairs) 前立腺がん死亡について、PSAあるいはDRE受診の補正OR(人種と合併症で補正)は1.13(95%CI:0.63-2.06)。全死亡について、PSA受診の補正OR(人種と合併症で補正)は1.08(95%CI:0.71-1.64)。有症状の良性疾患(BPH)を含めた場合の補正OR(人種と合併症で補正)は1.22(95%CI:0.84-1.78)。 死因不明例は11%あるが、これを前立腺がんと仮定して解析しても結果は同じとしている。VA外来受診者コホートからも抽出しているので、検診・診断の区別が困難な点があり、検診の効果を過大に評価している可能性がある。
38 Kopec JA, Goel V, Bunting PS, Neuman J, Sayre EC, Warde P, Levers P, Fleshner N. Screening with prostate specific antigen and metastatic prostate cancer risk: a population based case-control study. J Urol 174 495-9 2005 PSA・DRE 症例群236人
対照群462人
40-84歳男性、症例群は平均68.2歳で診断、71.5歳で転移。転移の72.1%が骨スキャンによる診断。
対照群は年齢(5歳階級)と居住地でマッチング。
Canada Ontario州Toronto近郊5郡部(1998年8月-2002年5月) 症例群58人(24.6%)
対照群126人(27.3%)
精検受診率:不明
転移がん(1990年1月以降に前立腺がんと診断され、1999年8月-2002年5月までに転移がんに進展した例) がん登録・医療記録・電話、メールなど、インタビュー調査(泌尿器科医、がん専門医)。 PSA検診により、転移がんのリスクは35%減少(オッズ比0.65、95%CI:0.45-0.93)。年齢別にみると、45-59歳で48%減少(オッズ比0.52、95%CI:0.28-0.98)だが、60-84歳では33%減少するも有意ではない(オッズ比0.67、95%CI:0.41-1.09)。 1)症例群を発見10年後に転移がんに進展したものに限定している(1990年以降に診断され、1999年8月-2002年5月に転移がんとなった症例)。本来は、発見時の転移がんとすべきである。
2)受診歴の把握はアンケートと医療記録によるが、アンケートが主体である。アンケートの回答率は、症例群69%、対照群51%と低い。
3)症例群の診断直前までの検診歴が比較できていない。このためexposure observation timeによる補正をしている。
4)検診・診断の識別が不明確な点がある。
5)論文を元に計算すると受診率は全年齢(症例群25%、対照群27%)、45-59歳(症例群18%、対照群29%)、60-64歳(症例群30%、対照群26%)。こちらをもとに粗オッズ比は全年齢=0.86、45-59歳=0.53、60-84歳=1.21である。60-84歳では症例群の受診が対照群より高い。
6)年齢別の評価を行うにはパワー不足。
7)評価指標が転移がん(発見時ではなく後に進展したもの)であることから、死亡率減少効果を直接証明するものではない。


PSA:AF1 地域相関研究・時系列研究(オーストリア・チロル地方以外13文献)
ガイドラインNo 著者 題名 雑誌 Volumes Pages 公表年 検査法 対象数 対象集団の特性 対象集団の設定条件 評価指標 評価指標の把握 結果 研究全般に関するコメント
39 Lu-Yao G, Albertsen PC, Stanford JL, Stukel TA, Walker-Corkery ES, Barry MJ. Natural experiment examining impact of aggressive screening and treatment on prostate cancer mortality in two fixed cohorts from Seattle area and Connecticut. BMJ 325 740 2002 PSA シアトル 94,900人
コネチカット 120,621人
65-79歳以上の男性でMedicare加入者。 両地区は65-79歳年齢階級前立腺がん死亡率が同じ。
白人155.8 vs 155.6(10万対)
黒人317.2 vs 323.3(10万対)
1987-1997年までの前立腺がん死亡率。 SEER 1)シアトルではPSAはコネチカットの5.39倍、生検は2.20倍実施されていた(1988-1990年)。1991-1993年にはPSAは1.61倍、生検は1.14倍となった。
2)前立腺がんの罹患は、1987-1990年にはシアトルはコネチカットより93%高かったが1991-1996年には11%高いだけで、その差は縮小した。
3)10年間の累積治療は
シアトル:前立腺全摘術2.7%・外照射3.9%
コネチカット:前立腺全摘術0.5%・外照射3.1%
4)両群の11年間の前立腺がん死亡率に差はなかった(RR=1.03, 90%CI:0.95-1.11)。
1987-1990年はMedicareでPSAがカバーされていない時期であり、PSAの実施率は過小評価の可能性がある。またシアトルはPSAの実施率が高い割に、生検率は2.2倍の差しかなく、外照射も合わせると治療率も2倍の差しかない。PSA・生検実施率をがん患者(100%)と非がん患者(5%)のサンプルから推定しており、実測ではない。内分泌療法の実施率についてはデータがない。追跡期間が短く10年では差を検出できない可能性が残る。
40 Perron L, Moore L, Bairati I, Bernard PM, Meyer F. PSA screening and prostate cancer mortality. CMAJ 166 586-91 2002 PSA 死亡率・罹患率のみの記載。 ケベック州在住50-79歳男性(1993年)。 ケベック州15地域の在住者。 1989-1993年の罹患率と1995-1999年の死亡率の変化、両者の相関係数。 ケベック州のがん登録。 1)年齢調整罹患率は1989-1993年にかけて47%増加(336→493/10万人年)。死亡率は1995-1999年にかけて15%減少(124→105/10万人年)。
2)15誕生コホート毎に解析すると、前立腺がん罹患は1989年と比較して1993年では22-178%増加、死亡は1995年と比較して1999年では3-50%減少。両者の変化の相関係数は0.33(P=0.89)。
3)ケベック州15地域毎に解析すると、前立腺がん罹患は1989年と比較して1993年で44-155%増加。死亡は1995年と比較して1999年には12-57%減少。両者の変化の相関係数は0.13(P=0.68)。
州全体の罹患率は一時的に50%上昇、2年後から死亡率はごくわずか減少。地域別に見ると罹患の上昇が著しいところが、死亡率の減少が大きいわけではない。内分泌療法などの治療の影響が示唆されるものの、データは示されていない。
41 Coldman AJ, Phillips N, Pickles TA. Trends in prostate cancer incidence and mortality: an analysis of mortality change by screening intensity. CMAJ 168 31-5 2003 PSA 前立腺がん(C61、sarcoma,leukemia, lymphoma, melanomaを除く)32,745人(1985-1989年7,730人、1990-1994年12,570人、1995-1999年12,445人)。 50-74歳男性(1985-1999年) Canada British Columbia州88SHAs(small health areas) 前立腺がん罹患率・死亡率の1985-1989年、1990-1994年、1995-1999年の変化割合。 がん登録(British Columbia Cancer Registry) Health Data Warehouse, British Columbia Minestry Health 1)罹患率は1985-1989年に比べて1990-1994年は53.2%上昇。死亡率は17.6%減少。
2)1985-1989年と1990-1994年の罹患率を年齢別に比較すると、50-74歳で53.2%、75歳以上で14.6%増加した。1985-1989年と1995-1999年の死亡率を比較すると、50-74歳で17.6%、75歳以上で7.9%減少した。
3)前立腺がんの普及が低率(30)、中等度(29)、高率(29)の3地域について、1985-1989年と1990-1994年の罹患率を比較すると、各々5.4%、53.6%、70.5%増加した。同様に、1985-1989年と1995-1999年の死亡率を比較すると、各々28.9%、18.0%、13.5%減少した。すなわち、罹患率を代替指標として88の地域を3群に分けて死亡率減少効果を見たが、もっとも減少していたのは罹患率が低い群であった。
個別の受診状況を把握した上での前立腺がん検診の普及としたのではなく、前立腺がんの罹患(1990-1994年)を代替指標として分類している。このため、受診そのものと罹患や死亡との関連が必ずしも明確ではない。検診と治療の影響の混在もあるが、その影響は分離しては評価できない点について言及している。追跡期間が不十分な可能性がある。
検診の普及の低い地域で、罹患率の増加が大きいにもかかわらず、死亡率の減少が最も大きかった。地域相関研究としては質の高い研究であるが、研究デザインの限界もあり、検診そのものの効果をそのまま評価できない。
42 La Rosa F, Stracci F, Minelli L, Mastrandrea V. Epidemiology of prostate cancer in the Umbria region of Italy: evidence of opportunistic screening effects. Urology 62 1040-4 2003 PSA 1978-1982の特別調査の522人、および1994-1999年のがん登録記録の2,007人について生存率を調査。 0歳以上の男性。(全年齢) イタリア・ウンブリア地方 前立腺がん発生率、死亡率、生存率。 1978-1982年の特別調査および1994-1999年のがん登録記録。死亡率動向は政府刊行物のデータ。 年齢調整罹患率は1979-1981年37.1から1997-1999年83.1に増加した(125%増加)。
死亡率に関しては明らかな傾向は見られなかった。生存率は大幅に上昇した。5年後の相対生存率は1978-1982年発生例で37%、1997-1999年発生例で74%であった。若年層と同様75歳以上も発生率および生存率において顕著な増加を示した。
イタリア南部ではPSA検診はそれほど普及していない。
1978-1982年に比べて1997-1999年の年齢調整罹患率は125%上昇。死亡率には減少傾向は認められない。生存率は37%から74%まで上昇。罹患者の発見数やその生存率は増加するが、全体の死亡率の減少は明らかでない。がん登録データでは検診発見と外来発見は識別できない。検診の効果があったとしても高齢者に限定される。しかし、積極的治療のリスクは高齢者に多く、高齢者におけるネットベネフィットを考慮すべきである。
43 Threlfall TJ, English DR, Rouse IL. Prostate cancer in Western Australia: trends in incidence and mortality from 1985 to 1996. Med J Aust 169 21-4 1998 PSA 不明(罹患・死亡数に記載なし) 50歳以上男性 Western Australia(1985-1996年) 前立腺がんの罹患・死亡 死亡・罹患(Western Australian Cancer Registry) 前立腺がんの罹患率(10万対)は、1985年42、1992年61、1994年134と増加し、1996年87に減少した。死亡率は、急激な増加や減少はなく、1985年から1996年まで毎年2.9%増加した。PSA検査は1995年5月まで増加し、以降減少した。PSA検査数と前立腺がん発見数は相関していた(P<0.01)。 1993年以来、オーストラリアでは、Prostate Awareness Weekによる普及活動が行われている。1993年からは、Medicareでカバーされるようになった。
罹患率は1992年から急増し、1994年をピークに減少。死亡率は変化なし。Lead timeを考慮し、さらに長期の経過観察が必要であるとしている。
前立腺がん検診の死亡率減少効果を示す証拠としては不十分である。
44 Skarsgard D, Tonita J. Prostate cancer in Saskatchewan Canada, before and during the PSA era. Cancer Causes Control 11 79-88 2000 PSA 1970年1月から1997年12月までに診断された13,079人の前立腺がんのうち、死亡票確定例(DCO)を除外した12,347人。 年齢中央値73歳 Canadian province of Saskatchewan(Saskatchewan Cancer Registry登録例) 前立腺がんの死亡率・罹患率 1)前立腺がんの罹患・死亡はSaskatchewan Cancer Registryから。
2)PSA受診率は医療記録(Royal University Hospital in Saskatoon, Pasqua Hospital in Regina)、PSAは1990年より導入し、すべてこの2病院でデータを把握している。
年齢調整罹患率(10万対)は、1970年60.5から1989年101.5、1993年がピークで163.1まで増加したが、以降減少している。1990年以降の急激な増加は、1990年のPSA導入の影響に起因する。相対生存率は、1970-1980年でほぼ一定だが、1990-1994年に改善している。年齢調整死亡率(10万対)は、1970-1974年(50-59歳7.4、60-69歳45.4、70-79歳171.6、80歳以上425.6)に比べ、1980-1984年では全年齢で増加(50-59歳11.1、60-69歳61.5、70-79歳236.1、80歳以上551.2)、以降は横ばい。1995-1996年では、50-59歳14.6、60-69歳58.1、70-79歳240.4、80歳以上641.0であった。 罹患率は1993年をピークに上昇。生存率も1990-1994年から上昇。前立腺がんの罹患率の急激な増加は、1990年のPSA導入の影響だが、死亡率については直近10年の変動はない。PSA検診が死亡率減少効果を導くかは不明。検診普及と診断・治療の影響が分離できないことは、考察でも言及している。
Saskatchewan Cancer Registryは1932年に開始、99%のがんを確定している。今回の検討のDCO把握例は除外している。
45 Majeed A, Babb P, Jones J, Quinn M. Trends in prostate cancer incidence, mortality and survival in England and Wales 1971-1998. BJU Int 85 1058-62 2000 PSA 前立腺がん罹患数:1971年6,174人、1993年17,210人 前立腺がん死亡数:1971年4,027人、1998年8,570人(他の年の記載なし) 50歳以上 England and Wales(1971-1998年) 前立腺がん罹患率・死亡率・粗生存率 National Cancer Registry、Population Censuses and Surveys (England and Wales,1971-1998年)。 前立腺がんの罹患率(10万対)は、1971年29から1993年59に増加した(104%)。年齢別にみると、60歳代の増加が最大であった(144%)。前立腺がんの死亡率(10万対)は、1971年20から1993年27に増加した(38%)。年齢別にみると、80歳以上の増加が最大であった。5年生存率は、1971-1975年33%、1986-1990年42%であった。生存率の改善は、1985年以降は認められなかった。 前立腺がんの罹患が大きく増加しているが、死亡率は微増にとどまっている。死亡率の増加の一因として、死亡診断書の記載の変更(死因の誤分類)をあげている。英国ではPSAの普及は直近10年の範囲なので、1990-1993年の罹患の急増はPSAが要因の1つと考えられるが、治療や環境・社会要因の影響もあるとしている。
46 Post PN, Kil PJ, Crommelin MA, Schapers RF, Coebergh JW. Trends in incidence and mortality rates for prostate cancer before and after prostate-specific antigen introduction. A registry-based study in southeastern Netherlands, 1971-1995. Eur J Cancer 34 705-9 1998 PSA 1971-1995年罹患数4,205人 45歳以上男性 Southeastern Netherlands 前立腺がん罹患率・死亡率 前立腺がん罹患率(Eindhoven Cancer Registry)・死亡率(Statistics Netherlands) 年齢調整罹患率(10万対)は、1971年36から、1989年55に増加した。この間、死亡率(10万対)にはほとんど変動がなかったが、55-64歳では1980年12から1989年25に増加した。1990年以降、罹患率は急増(1995年80)、主として限局性の早期がんが増加した。1993年以降の増加は、PSA検診によるところが大きい。 1970年から1995年までの罹患率を見ると、特に65歳未満が着実に上昇。1992年以降PSA検診開始とともに、罹患率は急上昇。死亡率は55-64歳が1975年から1989年までに2倍に上昇するも以後横ばい。他の年齢階層はこの25年間で大きな変化はなし。前立腺がん検診導入で罹患は急増したが、死亡率は変化なし。検診は罹患の増加の要因だが、検診としての効果は不明。
47 Brewster DH, Fraser LA, Harris V, Black RJ. Rising incidence of prostate cancer in Scotland: increased risk or increased detection? BJU Int 85 463-73 2000 PSA 不明(総罹患・総死亡数に記載なし) 50歳以上男性 Scotland(UK) 1981-1996年の前立腺がん罹患・死亡率(ICD-9 185)・生存率 前立腺がんの罹患(Scottish Cancer Registry)死亡(ICD-9 185)(General Register Office for Scotland による公式記録)TURP(NHS Scottish Morbidity Record 01)PSA(病院検査室の記録) 50歳以上の前立腺がん罹患率(10万対)は、1981年142.0から1996年240.9まで増加した。なかでも、1992年から1993年に急増していた。一方、死亡率は1993年までやや増加したが、以降、横ばいで1996年にはやや減少した。1981年から1998年では、罹患とTURP実施率が相関していた(r=0.98、P<0.001)。1989年から1996年では、罹患とPSA実施率が相関していた(r=0.98、P<0.001)。罹患率/死亡率について、1994年から1996年と1984年から1986年を比較すると、格差は拡大していた。
生存率は1968-1987年では全年齢で横ばいだが1988-1992年に急激に増加した。
罹患率は1994年をピークに上昇、死亡率は変化なし。PSA導入は1989年、1991-1999年PSA検査の捕捉率は83%、検査と検診に識別はされていない。罹患の増加は、TURPやPSAに起因する可能性が大きいが、死亡については不明。
48 Roberts RO, Bergstralh EJ, Katusic SK, Lieber MM, Jacobsen SJ. Decline in prostate cancer mortality from 1980 to 1997, and an update on incidence trends in Olmsted County, Minnesota. J Urol 161 529-33 1999 PSA 1980年1月から1997年12月までの死亡数184人。1983年から1995年までの罹患数687人(1983-1987年141人、1988-1992年375人、1993-1995年171人)。 男性(全年齢) 1980-1997年に前立腺がんで死亡・診断されたOlmsted County, Minnesotaの住民。 前立腺がん死亡率・罹患率 医療記録(Mayo Clinic, Olmsted Medical Center)、死亡票(Part1, Part2)。 1980-1984年を基準値として、以後5年区切りで前立腺がん死亡率の推移を比較。最後の5年間で死亡率22%減少するも統計学的な有意差はなし。年齢調整死亡率(10万対)は、1980-1984年25.8から1989-1992年34に増加し、1993-1997年には19.4となった(RR=0.78、95%CI:0.51-1.17)。年齢調整罹患率(10万対)は、1992年209から1995年132に減少した。罹患の減少は全年齢に見られた。限局性・転移性がんは、1993-1995年と比較して、1989-1992年には年12%の持続的低下傾向を示した(P=0.07)。 1)Olmsted Countyは米国の他の地域より比較的早くPSAが導入された(Urol Oncol 2005;95:951-955によると1987年)。罹患率・死亡率共に、1980年前半に比べ、1990年前半に減少している。罹患率と死亡率の減少は、1992年以降にほぼ平行して同時に起こっており、時間差がないことについては言及していない。
2)検診そのものの普及の程度については、比較対照がないので、どの程度普及しているのかは不明。
3)同様の報告を1995年(JAMA274:1445)にしているが、この時点では70歳以上の罹患減少しか認めていない。本研究では全年齢で減少したとしている。しかし、50-69歳では92年以降減少はしているが、80年前半のレベルには達しておらず、減少割合は小さい。また、70歳以上は、1989年から減少している。
4)Olmsted Countyは、米国の他の地域よりも前立腺摘除術の試行率が高い(10万対80.4、35.8)。一方、検診受診率は60歳代で43%、70歳以上で64%(1992年)。前立腺がん死亡の減少が検診によるものか診断・治療によるものかは識別できない。著者も、研究デザイン上の限界と指摘している。
5)白人のミドル・クラス以上が受診の検討対象であり、医療機関に受診する社会階層の偏りについて指摘している。
49 Shaw PA, Etzioni R, Zeliadt SB, Mariotto A, Karnofski K, Penson DF, Weiss NS, Feuer EJ. An ecologic study of prostate-specific antigen screening and prostate cancer mortality in nine geographic areas of the United States. Am J Epidemiol 160 1059-69 2004 PSA検診 10,000-450,000人 診断時に65-84歳の白人男性 アメリカ合衆国の9つのがん登録区域。 前立腺がん死亡率 SEER 1)受診率を2大別した。高受診率地域:アトランタ・デトロイト、低受診率地域:コネチカット・ハワイ・ニューメキシコ・ユタ・アイオワ。
2)ホルモン療法の利用は、PSA受診率と相関する。9つのがん登録地域では年間のホルモン療法施行は7-15%であった。
3)1991-1993年のPSA受診と前立腺がん死亡率の回帰係数は0.55(P=0.14)。一方、1985-1987年では0.12(P=0.80)。ホルモン療法で調整すると1991-1993年=0.33(P=0.28)、1985-1987年=0(P=0.82)。
4)joint-point analysisにより両群の死亡率の変化をみると1990年初期のPSA高受診地域で高かったが、1999年には両群に差はなかった(P>0.5)。
5)1991-1993年の前立腺がん死亡率の減少は高受診率地域22.2%(95%CI:15.2-28.9)、低受診率地域16.3%(95%CI:11.5-20.9)。1991-1999年の年間減少は高受診率地域4.4%(95%CI:3.2-5.5)、低受診率地域3.0%(95%CI:1.5-4.4)。
6)リードタイム5年、RR50%の仮定で前立腺がん死亡の減少率は高受診率地域23.6%(95%CI:18.0-21.3)、低受診率地域14.0%(95%CI:11.6-16.5%)。この結果は観察結果とほぼ同じ。
PSAの実施率と死亡率減少との間に弱い相関関係が認められ、lead timeを5年とした場合に他の因子を考慮に入れなくてもPSAの実施率と死亡率減少との関係は説明可能となったが、ホルモン療法で調整することにより相関関係は消失した。結果の解釈には注意を要すると筆者は述べている。モデルによる推定を行っており、がん検診を積極的に行っている地域の方が前立腺がんの死亡率が低いようにみえるが、ばらつきが大きく他の要因を入れると断定できない。
地域間のPSA検診率のわずかな違いによって、他の要因とあいまって、否定的な結果を生み出したのかもしれないと結論づけた。PSA検診の効果についての生態学的分析は注意深く解釈されるべきである。
50 Jemal A, Ward E, Wu X, Martin HJ, McLaughlin CC, Thun MJ. Geographic patterns of prostate cancer mortality and variations in access to medical care in the United States. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 14 590-5 2005 PSA 米国30地域 40歳以上男性(白人、黒人) 米国30地域 罹患率・死亡率 死亡(National Health Center for Statistics 1996-2000年)
罹患(North American Association of Central Cancer Registries 1995-2000年)
検診情報(Behavioral Risk Factor Surveillance System 2001年)
進行がん罹患率と死亡率は白人(r=0.38、P=0.04)・黒人(r=0.53、P=0.03)で有意な相関あり。PSA検診受診率(50歳以上)は全がんとは有意な相関(r=0.42、P=0.02)だが、進行がんとは負の相関(r=-0.58、P=0.009)。地方は都会に比べて、全がんの罹患率は低いが、死亡率も進行がん罹患率も高く、PSA受診率も低い。 PSAの普及は進行がん罹患と負の相関。人種別・地域(地方・都会)の検討を行っている。地域別に見ると、進行がん罹患率と死亡率の間に統計学的有意な相関関係が認められた。しかし、相関係数は白人0.38、黒人0.53であり、必ずしも相関は強くない。PSA実施率と罹患率との間に正の相関関係、PSA実施率と進行がん罹患率との間に負の相関関係が認められたが、都市部と非都市部で比較すると非都市部での死亡率が高く、医療事情の差が影響していると結論づけている。
51 Baade PD, Coory MD, Aitken JF. International trends in prostate-cancer mortality: the decrease is continuing and spreading. Cancer Causes Control 15 237-41 2004 PSA 24か国(カナダ、米国、オーストリア、ベルギー、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、イタリア、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、英国、ブルガリア、ハンガリー、ポーランド、ルーマニア、イスラエル、日本、オーストラリア、ニュージーランド) 50-79歳男性 先進国(24か国、Oliver SE, May MT, Gunnel D.International trends in prostate-cancer mortality in the 'PSA ERA'.Int J Cancer 2001:92;893-898と同じ対象) 前立腺がん死亡(ICD9-185) World Health Organization Mortality Database join point analysisによる解析。1979-2001年に、24か国中12か国(オーストラリア、カナダ、米国、オーストリア、フランス、アイルランド、ドイツ、イタリア、オランダ、スペイン、スウェーデン、英国)で年齢調整死亡率が減少に転じた。前立腺がん死亡の減少の要因として、治療法の変化とPSA検診の普及をあげている。アメリカ、イギリス、オーストリア、カナダ、イタリア、フランス、ドイツ、オーストラリア、スペインでは統計学的有意に死亡率減少。オランダ、アイルランド、スウェーデンでは減少傾向。PSAの実施率については入手不能と記載されている。 対象となる24か国の死亡率の推移のみをみている。PSA検診の普及については、代替指標(罹患など)も用いていない。前立腺がん検診の効果について擁護的であり、罹患の変化に平行した死亡の減少を容認している。
前立腺がん検診の死亡率減少効果としては不十分であり、傍証。
Oliver SE, May MT, Gunnel D.International trends in prostate-cancer mortality in the 'PSA ERA'.Int J Cancer 2001:92;893-898と同じ方法(検討対象も同じ)を用いている。


PSA:AF1 地域相関研究・時系列研究(オーストリア・チロル地方2文献)
ガイドラインNo 著者 題名 雑誌 Volumes Pages 公表年 検査法 対象数 対象集団の特性 対象集団の設定条件 検診群における受診率・要精検率 評価指標 評価指標の把握 結果 研究全般に関するコメント
52 Oberaigner W, Horninger W, Klocker H, Schönitzer D, Stühlinger W, Bartsch G. Reduction of prostate cancer mortality in Tyrol, Austria, after introduction of prostate-specific antigen testing. Am J Epidemiol 164 376-84 2006 PSA オーストリア・チロル地方(2001年男性人口328,323人)、チロル以外の地域(3,559,913人)。 45-74歳男性 オーストリア・チロル地方 累積受診率75.1% 死亡率・罹患率 死亡率(Austrian Central Statistics Office:1970~)
罹患率(Tyrol Cancer Registry:1988~)
Age-period-cohort modelによるPSA検診導入前後時期の前立腺がん死亡率年次推移。60-64歳、1989-1993年、1882-1886年出生を、それぞれ、年齢、時期、出生コホートの基準として解析。1999-2004年の死亡リスクはチロル地方で0.81(95%CI:0.68-0.98)、チロル以外では1.00(0.95-1.05)。出生コホートではチロル地方は1917年以降出生では死亡リスクが有意に高いということは認められなくなっているが、チロル以外では依然として有意に高い。年齢調整罹患率のチロル地方での増加は、チロル以外に比べて顕著。2001年までのチロルの45-74歳男性のPSA検診累積受診割合は75.1%。 オーストリアチロル地方ではPSA検診を1988-1989年に導入し、1993年からは45-74歳男性に無料で実施するようになった。
同様の解析をしたVutuc C(Wien Klin Wochenschr 2005;117:457-461)との相違は
1)解析法(Vutuc Cはjoin-point analysis)。
2)本研究の追跡は1年長い。
3)本研究は4年単位の解析、Vutuc Cは1年単位。
4)両者の死亡数は同じだが罹患数はチロル、それ以外も本研究がVutuc C研究よりも多い。
ケベック研究のパー・プロトコル解析の結果をそのまま引用し、チロル研究の妥当性を支持する証拠の一つとして取り上げている。
53 Vutuc C, Schernhammer ES, Haidinger G, Waldhör T. Prostate cancer and prostate-specific antigen (PSA) screening in Austria. Wien Klin Wochenschr 117 457-61 2005 PSA 1985-2000年の前立腺がん死亡数、チロル地方、チロル地方以外のオーストリア。 50-89歳男性 オーストリア・チロル地方とそれ以外の地域 記載なし。 前立腺がんの死亡率、罹患率。 前立腺がんの死亡率(Statistik Austria)・罹患率(記載なし)。 1970-2002年の前立腺がんによる死亡率の推移をチロル地方と、それ以外の地方に分けて、Joint-point regression modelによるannual percent change (APC)を計算することによって検討。有意な死亡率の減少(APCで評価)はチロル地方も、それ以外の地方も、70-79歳の年齢階級のみで観察された。チロル地方では-6.42(95%CI:-8.92--3.86)joint-point 1991年、それ以外の地方では-2.36(-3.38--1.34)joint-pointは1989年。
※チロル以外
50-59歳、60-69歳では死亡率の有意な減少は無く、80-89歳では1970-2002年で有意に増加(APC1.64、95%CI:1.32-1.96)。
チロル地方
50-59歳、60-69歳では死亡率の有意な減少は無し。80-89歳でも有意な増加は無し(ACP1.16、95%CI:0.23-2.10)。
Bartschらによるチロル研究と同じデータ(罹患・死亡)を用いた解析。チロル地方で組織的な検診が始まったのは1993年、それ以外の地方でも1989年以前にPSAは普及していない。
チロル地方を含み、オーストリアではPSA導入直前から死亡率は減少している。前立腺がんのリードタイムが良いことを考えると、死亡率の減少はPSA導入だけでなく診療(特にホルモン療法)の影響が指摘されている。

PSA:AF2 受診者(ハイリスク)(2文献)
ガイドラインNo 著者 題名 雑誌 Volumes Pages 公表年 対象数 対象集団の特性 対象集団の設定条件 評価指標 評価指標の把握 結果 研究全般に関するコメント
54 Melia J, Dearnaley D, Moss S, Johns L, Coulson P, Moynihan C, Sweetman J, Parkinson MC, Eeles R, Watson M. The feasibility and results of a population-based approach to evaluating prostate-specific antigen screening for prostate cancer in men with a raised familial risk. Br J Cancer 94 499-506 2006 前立腺がん患者の一親等で、郵送による勧奨、あるいはクリニックからの勧奨に同意し、検査をうけた170人。 65歳以下の前立腺がん患者の一親等の親族で、45歳から69歳の人。 英国の研究。一親等は65歳以下に限定。 陽性適中率 医療記録、がん登録(Thames Cancer Registry、South West Cancer Intelligence Service、British Association of Urological Surgeons database)。 170人中の10%(17人)は、PSA>=4ng/mLであり、13.5%(23人)は、年齢別のカットオフ値を超えていた。受診勧告で紹介された21人のうち、5人が前立腺がんであった(陽性適中率24%、95%CI:8-47%)。65歳以下の前立腺がん患者の一親等の親族に、カウンセリングで受診勧告するとよいかもしれない(ただし、親族に話していない者もいるので、配慮が必要である)。 家族歴が影響する可能性がある。ただし、一親等のがん検出者が5人であり、小規模な研究である。そのため、信頼性は乏しい(信頼区間が広い)。
家族歴のある人に対する勧奨は、日本人ではどの程度影響するのか、人種差もあり不明である。
55 Catalona WJ, Antenor JA, Roehl KA, Moul JW. Screening for prostate cancer in high risk populations. J Urol 168 1980-4 2002 1)一般集団:15,964人
2)ハイリスク群:2,514人
50歳以上 1991年5月-2001年6月までに地域ボランティアとしてPSA検診に参加。 発見率・PPV・コンプライアンス調整発見率(割合) 問診票・検診結果・医療記録(と推測される) 50歳以上で、黒人/家族歴無し1,224人、非黒人/家族歴有り1,227人、黒人/家族歴有り63人。40-49歳については、これら3群でそれぞれ、358人、288人、35人。
50歳以上ではPPV及びコンプライアンス調整発見率は、上記3群でそれぞれ49と16.9%、38と16.0%、52と24.1%。40歳代では54と4.4%、50と3.3%、75と15.0%。
1)黒人、家族歴を有する群で発見率が高いことを報告している。
2)検診方法についての記載はあるが、どのような母集団から抽出されたか、データ収集の方法などの記載が不明確。


PSA:AF3 検査精度(10文献)
ガイドラインNo 著者 題名 雑誌 Volumes Pages 公表年 検査法 対象数 対象集団の特性 対象集団の設定条件 評価指標 評価指標の把握 結果 研究全般に関するコメント
28 Mistry K, Cable G. Meta-analysis of prostate-specific antigen and digital rectal examination as screening tests for prostate carcinoma. J Am Board Fam Pract 16 95-101 2003 PSAとDRE 対象数47,791人(13研究の対象数142-7,204人) OVIDデータベース(1966-1999年)の文献検索。
13の研究のプール(様々な国の50歳以上の男性)。
39-92歳(13研究すべて50-65歳は対象としている) 感度、特異度、陽性適中率、限局がんの割合。 記載なし。 前立腺がんの全体の発見率は1.8%であった。(生検による)83.4%は局所がん。
PSAの感度、特異度と陽性適中率は、72.1%、93.2%、25.1%。
DREの感度、特異度と陽性適中率は、53.2%、83.6%、17.8%。
1)13の研究における研究対象の年齢に幅がある。
2)6つの研究では年齢が40歳代も含まれている。
3)一部の研究は元データが得られたが、その他は発表論文の記載からデータ収集している。
4)出版バイアスの可能性がある。
56 Labrie F, Dupont A, Suburu R, Cusan L, Tremblay M, Gomez JL, Emond J. Serum prostate specific antigen as pre-screening test for prostate cancer. J Urol 147 846-52 1992 PSA 1,002人 ケベック州在住の45-80歳男性。 既診断例を除外(何例除外したか書いていない)。 感度、特異度、陽性反応的中度、陰性反応的中度。 同時法による診断。 1)カットオフ値を3.0µg/lとすると感度80.7%、特異度84.6%、陽性反応適中度24.1%、陰性反応適中度98.6%になる。
2)カットオフ値を4.0µg/lとすると感度71.4%、特異度91.1%、陽性反応適中度32.5%、陰性反応適中度98.2%になる。
1)ケベックスタディに基づく研究。
2)生検法が現行とは異なる(経直腸的前立腺生検 automatic Biopsy System、18ゲージ)。
3)同時に行ったDRE、TRUSの感度、特異度は算出されていない。
57 Stenman UH, Hakama M, Knekt P, Aromaa A, Teppo L, Leinonen J. Serum concentrations of prostate specific antigen and its complex with alpha 1-antichymotrypsin before diagnosis of prostate cancer. Lancet 344 1594-8 1994 PSA 症例群44人
対照群74人
男性、45-79歳、調査対象の検診受診者は21,172人。 フィンランド 感度、特異度、PSA値別発症までの年数。 がん登録 検査の感度・特異度は、カットオフ値が2.5µg/lでは70%・92%、4.0µg/lでは57%・97%であった。カットオフ値が2.5µg/lの時、検査後5年以内に発症したがんに対する感度は95%、6-10年の間に発症したがんに対する感度は52%であった。PSA値が高いほど、発症までの時間が短くなる傾向があり、5年以内に発症した19人のうち18人がPSA値2.5µg/l以上であった。一方、6-10年の間に発症した25人では、13人がPSA値2.5µg/l以上であった。PSA値のDoubling timeは、平均3年であった。 検診時のPSA値が高いほど、前立腺がん発症までの時間が短くなる傾向を示したが、PSA値と発症時間の間に統計的に有意な相関があるかは確認していない。
PSAのカットオフ値の設定と受診間隔の検討に利用できる。
本論文の構成は、1)感度、特異度 2)PSA及びPSA-ACTの初期値とがん発症 3)PSA値別生存率で構成されている。コホート内症例対照研究と同様の形式で、症例群と対照群を抽出しているが、1)2)について両群を比較しているのみである。
58 Imai K, Ichinose Y, Kubota Y, Yamanaka H, Sato J. Diagnostic significance of prostate specific antigen and the development of a mass screening system for prostate cancer. J Urol 154 1085-9 1995 PSA(>6.0ng/mL単年度の値、2年間の変化velocity)・DRE・TRUS 3,526人に対して4,375回の検診が行なわれた。3種の方法でいずれも異常が認められなかった者は2,823人(normal subjectsと定義)。 50-79歳を対象。しかし40歳代と90歳代の希望者も含まれた。 群馬県内22地域。郵便と新聞で周知。 感度・PPV (おそらく)医療記録 1)PSA、DRE、TRUSのPPVは40.0%、3.0%、3.8%。感度は80.4%、49.0%、45.1%であった。
2)すべての発見がんの病期は、stageB 60.8%、stageC 27.5%、stageD 11.8%であった。PSAにより発見されたがんの61%はstageBであった。
1)3方法が全例に行われているわけではない。
2)biopsyは異常項目のあった566例中254例しか行われていない(44.9%)。
3)要精検者の精検受診率が50%以下の結果で、各方法の精度を評価することは困難。
59 Jacobsen SJ, Bergstralh EJ, Guess HA, Katusic SK, Klee GG, Oesterling JE, Lieber MM. Predictive properties of serum-prostate-specific antigen testing in a community-based setting. Arch Intern Med 156 2462-8 1996 PSA 症例群177人 対照群305人 (一般住民) 症例群
50-79歳
対照群
40-79歳
1990年と1991年のOlmsted Countyにおける全前立腺がん患者と一般住民を対象。後者は一般住民を年齢で層別して抽出、参加を依頼(参加割合55%)。 感度・特異度 がん登録 1)PSA値は症例で中央値9.4(25パーセンタイル-75パーセンタイルは、5.4-18.6)、対照で1.2(0.7-2.1)。AUCは0.94(SE0.01)。
2)カットオフ値4.0µg/lとすると、50-59歳、60-69歳、70-79歳の感度は83%、85%、82%、特異度は98%、87%、81%。
3)年齢別のカットオフ値を最適の3.5µg/l、4.5µg/l、6.5µg/l、に設定した場合、感度は83%、83%、65%、特異度は97%、91%、94%となる。
がん患者と検診受診者(前立腺がん除外)と組み合わせた仮想集団を対象とした検討。患者は検診、外来発見の両方を含む。また両群の年齢分布も異なる。
妥当性を検証するため、先行研究との比較を行っているが無症状の平均リスク集団を対象としたスクリーニングの精度ではないことに留意すべきである。
60 Ito K, Yamamoto T, Kubota Y, Suzuki K, Fukabori Y, Kurokawa K, Yamanaka H. Usefulness of age-specific reference range of prostate-specific antigen for Japanese men older than 60 years in mass screening for prostate cancer. Urology 56 278-82 2000 前立腺がん集団検診(PSA検査、直腸指診、TRUS)、TRUS-guided systematic sextant biopsies。 1994年から1998年の間に前立腺がん集団検診を受けた6,744人。 60歳以上 群馬県 感度・特異度 60歳以上の患者を5歳間隔でグループ分けし、それぞれのグループについて年齢別PSA参照域の境界値をROC曲線を分析して計算した。 ROC分析によると、60-64歳、65-69歳、70-74歳、75-79歳、80歳以上の各年齢の最適なカットオフ値は3.0、3.5、4.0、4.0、7.0ng/mL、感度は94.7%、96.3%、87.9%、90.9%、94%であった。特異度は92.1%、90.5%、91.5%、87.7%、95.8%であった。
カットオフ値を一律に4.0ng/mLとすると感度は78.9%、92.6%、87.9%、90.9%、94.4%、特異度は95.2%、92.5%、91.5%、87.9%、86.7%であった。
1)年齢群別によるPSAの基準値の設定により、より精度の高い検診が可能。
2)検討対象全例に生検が行われておらず、がん登録など他の方法も利用していない。
3)要精検者の16%は生検を受けておらず、感度が高く評価されている可能性がある。
61 Hakama M, Stenman UH, Aromaa A, Leinonen J, Hakulinen T, Knekt P. Validity of the prostate specific antigen test for prostate cancer screening: followup study with a bank of 21,000 sera in Finland. J Urol 166 2189-92 2001 PSA(>基準値4.0µg/l)
  • 症例群108人
    1)1968-1980年の間追跡した21,287人のうち44人発見。
    2)1973-1991年の間追跡した1,373人のうち64人発見。
  • 対照群394人
    1)2対照 74人
    2)5対照 320人
15歳以上 フィンランド25地域、1966-1976年に検診に参加し、血漿保存されている例。 PSA>4.0µg/lによる前立腺がんのORと、感度・特異度。 地域がん登録。 1)1966年から1972年に15歳以上のフィンランド在住男性に採血を施行し、血漿保存し、1992年にPSA測定。1980年までに44人のがんが発見。
2)その時代のPSAの検体がない1,373人の55-79歳の男性に対して1973年から1976年に採血をして1993年にPSAを測定。1991年までに64人のがんが発見。
3)PSAカットオフ値4.0µg/lとした場合、4以上の相対リスク(RR)は17.7(95%CI:7.9-40)。この場合の感度44%、特異度94%。
4)65歳以上に限定するとRR21.1(95%CI:4.8-92)、感度51%、特異度91%。
5)追跡期間を最初の5年間に限定すると全年齢のRR46.8(95%CI:6.2-350)、感度86%、特異度94%、65歳以上のRR26.1(95%CI:2.6-260)、感度60%、特異度91%。
1)対象はフィンランド25地域から抽出されているが全フィンランドを代表するものではない。但し、対象集団の罹患は全国とほぼ同様としている。
2)保存血漿を用いたPSAの解析結果とがん登録を照会している。全追跡に比べ、最初の5年間に限定した場合に感度が上がる。これらの結果から検診間隔の測定の検討が可能である。
62 van der Cruijsen-Koeter IW, van der Kwast TH, Schröder FH. Interval carcinomas in the European Randomized Study of Screening for Prostate Cancer (ERSPC)-Rotterdam. J Natl Cancer Inst 95 1462-6 2003 PSA、DRE、TRUS(4年間隔)。 検診群8,350人
対照群8,876人
(対象期間1993年10月-1996年12月)
55-74歳 オランダ・ロッテルダム 中間期がんの割合・感度 医療記録・がん登録 初回検診による前立腺がん発見数は412人。2回目の検診までの4年間で、対照群から135人、検診群から25人のがんが発見された。25人の中間期がんのうち、陽性であったが生検を受けなかったのは7人であり、残りの18人は全て早期がんであった。生検未受診の7人のうち、3人が進行がんであった。罹患率は、検診群で1,000人あたり21人、対照群で1,000人あたり3.9人であり、検診陰性者における期待がん数は123.8(=陰性者数7,938×3.9/1,000×検診間隔4年)であった。Proportional incidence methodによる感度は79.8%(=(123.8‐25)/123.8)、生検未受診の7人を除くと、85.5%であった。 1)ERSPC(Rotterdam)の中間期がん追跡調査に基づく感度の測定。検診群・対照群の中間期がんを把握し、感度の推定にIncidence methodもあり、感度を79.8%としている。中間期がんの定義を変える(精密検査未受診例を除外)と、85.5%。
2)感度の推定にIncidence methodを応用できる。受診間隔の検討にも利用できる。
63 Auvinen A, Määttänen L, Finne P, Stenman UH, Aro J, Juusela H, Rannikko S, Tammela TL, Hakama M. Test sensitivity of prostate-specific antigen in the Finnish randomised prostate cancer screening trial. Int J Cancer 111 940-3 2004 PSA検査(PSA値3.0-3.9ng/mLの者には補助的検査(DREかfreePSA割合)を実施) 検診群32,000人
対照群48,458人
55、59、63、67歳の男性 フィンランドのタンペレとヘルシンキ(ERSPC trialの一部)。 感度(incidence method) がん登録 検診群における受診率は69%(20,790/32,000)、がん発見率は2.6%(543/20,790)であり、検診陰性18,708人のうち中間期がんは24人(PSA値が<3.0ng/mLの者で19人、PSA値が3.0-3.9ng/mLかつ補助的検査陰性の者で5人)であった。一方、対照群48,458人においては、539人のがんが診断された。Incidence methodによる検診感度は、PSA基準値3.0ng/mLの場合0.89(95%CI:0.84-0.93)、PSA基準値4.0ng/mLかつ補助的検査施行の場合0.87(95%CI:0.82-0.92)であった。 感度の推定にIncidence methodを用いて過剰診断を考慮した上で、87-89%の高い感度を示している。
感度の推定にIncidence methodを応用できる。
64 McLernon DJ, Donnan PT, Gray M, Weller D, Sullivan F. Receiver operating characteristics of the prostate specific antigen test in an unselected population. J Med Screen 13 102-7 2006 PSA 19,660人 30歳以上 スコットランド(Tayside) 感度・特異度、PSA検査結果推移別の前立腺がん罹患リスク。 がん登録、Health Informatics centre。 1)1年間のPSA検査率は、1992年の1,000人につき5.1から、2001年には21.3に増加。
2)受診者1人当たりのPSA検査回数は1992年の1.11から2001年には2.57に増加。
3)60歳未満ではカットオフ値4ng/mLであれば、感度92.4、特異度90.7%。高齢者では特定のカットオフ値の設定は困難。
4)全PSA検査正常者を基準とすると、一度でも異常があった者の前立腺がんリスクはハザード比で10.43(95%CI 6.17-17.63)、初回異常値で再テストで正常者のリスクは1.63(0.65-4.07)。
がん登録や生化学データベースなどが整っているので実施できた研究と思われる。

PSA:AF4 過剰診断(6文献)
ガイドラインNo 著者 題名 雑誌 Volumes Pages 公表年 研究方法 検査法 対象数 対象集団の特性 対象集団の設定条件 評価指標 結果 研究全般に関するコメント
67 McGregor M, Hanley JA, Boivin JF, McLean RG. Screening for prostate cancer: estimating the magnitude of overdetection. CMAJ 159 1368-72 1998 シミュレーションモデルおよび感度分析。 PSA検査による過剰診断の割合を推定。 モデル人口1,000人 50-70歳 一般住民を想定 (Quebec, US dataを使用) 。 過剰診断の割合 (未治療でも死亡に至らない前立腺がんの割合)。 検診で発見可能な致死的前立腺がんは、1,000人あたり年間1.3人で、発見可能なすべての前立腺がんは8人と推定された。致命率は16%(1.3/8.0)であった(感度分析13-22%)。したがって、発見可能な前立腺がんの100人中16人だけが、外科的手術で利益が得られるが、残り84人は85歳までに前立腺がんで死亡することはないだろう(過剰診断の割合は84%)。 検診の有効性を検討する際には、利益(死亡率減少)とリスク(過剰診断)のバランスを吟味する必要がある。
計算に使用した数値は、実際の研究から得られた値である。また重要な変数に対して感度分析も実施している。したがって、この論文は、利益の大きさ、不利益の大きさを検討するうえで、一つの参考資料になる。ただし、人種の違いについては検討の余地がある。
推定値ではあるが、不確実な情報しか利用できない状況で意思決定を下すためには、こうしたリスク評価も考慮する必要があると思われる。
68 Hugosson J, Aus G, Becker C, Carlsson S, Eriksson H, Lilja H, Lodding P, Tibblin G. Would prostate cancer detected by screening with prostate-specific antigen develop into clinical cancer if left undiagnosed? A comparison of two population-based studies in Sweden. BJU Int 85 1078-84 2000 コホート研究 PSA 1913年生まれ658人
1930-1931年生まれ710人
1913年生まれの集団、1930-1931年生まれの集団の2種類 (67歳?)。 1)1913年生:1963年に開始したスウェーデン・イェーテボリの検診コホート。
2)1930-1931年生:ERSPC参加のスウェーデン・イェーテボリの検診群。
前立腺がん:罹患率・生存率 西スウェーデンのRegional Cancer Registry、カルテ、病理レポート、死亡診断書による確認。1967年から健康診断を開始。-70度で凍結保存された血液サンプルを使用してPSAを測定。1930-1931年集団は、PSA>=3ng/mLでDRE,TRUS,sextant biopsyの受診勧告。
1913年生まれでは、18人(2.7%)が前立腺がんで死亡しており、前立腺がんの累積発見率は11.1%であった(PSA<3ng/mLでは5.0%、PSA>3ng/mLでは32.9%、P<0.01)。1930-1931年生まれでは、前立腺がんの累積発見率は4.4%であり(PSA>3ng/mLでは22%)、発見された31人中の30人の腫瘍は組織限局であった。結論として、sextant biopsyの前に実施する単独のPSAスクリーニングだけでは、15年間で前立腺がんの40%しか発見できない。PSAが増加して臨床診断に至るまでのリードタイムは平均7年かかり、さらに15年以内に死亡する者は25%である。PSAスクリーニングをすべきかどうかの決定には、個人の選好、他の健康関連因子を検討しなければならない。
1)PSA単独では、15年間で前立腺がんの40%しか発見できないこと、PSAが増加して臨床診断に至るまで(リードタイムが)平均7年かかり、さらに15年以内に死亡する者は25%である。1回の検診では十分な成果が得られないことを示唆している。
2)1980年のPSA<3ng/mLのうち1995年までに前立腺がんが発見された。<3ng/mLの死亡例9人のうち6人が前立腺がんで死亡しているが、この例が中間期がんに相当する可能性があるとしている。但し、繰り返し検診を評価するまでにはいたらない。
69 Etzioni R, Penson DF, Legler JM, di Tommaso D, Boer R, Gann PH, Feuer EJ. Overdiagnosis due to prostate-specific antigen screening: lessons from U.S. prostate cancer incidence trends. J Natl Cancer Inst 94 981-90 2002 モデル解析 PSA 2,000,000人 60-84歳 1988年の合衆国 罹患率 1)統計学的モデルを使いながら、異なるリードタイム、PSA検診発見前立腺がん(検査後3ヶ月以内に診断されたものと定義)の前立腺がん中に占める割合(P)を当てはめて、前立腺がんの罹患率を予測。それをSEERの数値と比較。
2)白人、黒人、それぞれリードタイムを5年、7年とした場合にSEERの観測値と最も一致。過剰診断は29%、44%であった。
3)白人でリードタイム5年の場合には、P(PSA検診発見がんが前立腺がんにしめる割合)が1988年を0.3-1998年を0.7とし、各々を数値化させ、0.5-0.8、0.7-0.9とした場合、過剰診断割合はそれぞれ、29.33、28.77、28.59%。黒人の場合では、それぞれ32.36、32.61、32.31%。
1)統計学的モデルを使いながら、異なるリードタイム、PSA検診発見前立腺がん(検査後3ヶ月以内に診断されたものと定義)の前立腺がん中に占める割合(P)を当てはめて、前立腺がんの罹患率を予測。それをSEERの数値と比較。
2)検討対象年齢を60-84歳と高齢者に限定していること、検診と診断の区別が困難なことを問題点として挙げている。
3)ラテントがんのうち、PSAにより発見されて過剰診断に相当するのは白人15%、黒人37%と推測している。
70 Auvin A, Määttänen L, Stenman UH, Tammela T, Rannikko S, Aro J, Juusela H, Hakama M. Lead-time in prostate cancer screening (Finland). Cancer Causes Control 13 279-85 2002 モデル解析 PSA検診 ERSPCの枠組み内でのFinlandにおける検診群参加者10,308人より発見された前立腺がん292人。 フィンランド(ヘルシンキ・タンペレ周辺)在住の55・59・63・67歳。 1996-1997年にERSPCの検診介入群に選ばれ実際に受けた10,308人、うち前立腺がん292人発見。 罹患率(年齢調整、年齢・コホート調整)・リードタイム 1996-1997年に検診介入群で前立腺がん292人(55歳41人、59歳75人、63歳76人、67歳100人)発見された。1)年齢調整モデル 2)年齢+コホート調整モデルにより、累積発見が観察群と同数に達するまでの時間をリードタイムとして解析した。全年齢で 1)7.21年(95%CI:6.59-7.79) 2)4.66年(95%CI:4.35-4.97)であった。 1)RCTの結果をもとにしたモデル解析。リードタイムをProstate cancer screening trialで初回に発見されたがんと同数のがんが発見されるまでの期間と定義している。累積数のみで病期は検討していない。
2)前臨床期(DPCP=detectable, preclinical phase)を10-14年とし、その中間点で前立腺がんが発見されたとしている。
71 Draisma G, Boer R, Otto SJ, van der Cruijsen IW, Damhuis RA, Schröder FH, de Koning HJ. Lead times and overdetection due to prostate-specific antigen screening: estimates from the European Randomized Study of Screening for Prostate Cancer. J Natl Cancer Inst 95 868-78 2003 モデル解析(シミュレーションモデルMISCAN) PSA・直腸診・経直腸エコー 42,376人(検診群21,210人、対照群21,166人) 55-74歳 ERSPCロッテルダム lead times(year) overdetection(%) lifetime risk(%) 推定されたmean lead tmieは、55歳時の検診(1回)で12.3年(95%CI:11.6-14.1年)、overdetection rateは27%(95%CI:24-37%)。75歳時の検診(1回)で、mean lead tmieは6.0年(95%CI:5.8-6.3年)、overdetection rateは56%(95%CI:53-61%)。55-67歳の逐年検診で、mean lead tmieは12.3年(95%CI:11.8-13.3年)、overdetection rateは50%(95%CI:46-57%)。55-67歳の4年間隔の検診で、mean lead tmieは11.2年(95%CI:10.8-12.1年)、overdetection rateは48%(95%CI:44-55%)。55-67歳の逐年検診は、前立腺がんのlifetime riskを80%(95%CI:69-116%)増加させ、55-67歳の4年ごとの検診はlifetime riskを65%(95%CI:56-87%)増加させる。 年齢別の罹患率や発見率に関して、モデルの推定値と実測値との間にわずかな乖離(高齢層では推定値の方が高く、若年層では実測値の方が高い)があるので、モデルの当てはまりには若干の留意が残る。
前立腺がん検診を逐年あるいは4年ごとに実施すると、その半数が過剰診断となる可能性がある。
RCTデータに基づく過剰診断の推計。
72 Törnblom M, Eriksson H, Franzén S, Gustafsson O, Lilja H, Norming U, Hugosson J. Lead time associated with screening for prostate cancer. Int J Cancer 108 122-9 2004 コホート研究。がん登録との照合。 PSA、DRE、TRUS同時に実施で1回だけの検診(1988-1989年)。 検診群946人
対照群657人
検診群はストックホルムの南部在住の55-70歳の住民。対照群は、1913年生まれのGothenberg在住の住民で1980年の健康診査受診者(当時67歳)。 対照群は、健康診査(前立腺がん検診は含まれない)時の血清が保存できており採血時以前に前立腺がんの診断がなされていない例。このほかlead time測定のために、両群とも同地区の年齢をマッチさせたbackgroundを抽出し、累積の罹患率を比較している。 前立腺がん累積罹患率 PSA 3ng/mL以上の対照群の累積罹患率は約10.6年で検診群に追いついた。検診群のlead timeの中央値は、PSA基礎値が3.0ng/mL以上、3.0-9.9ng/mL、10.0ng/mL以上でそれぞれ4.5年、5.3年、3.5年であった。対照群では観察期間の設定を長くすると、遅くなって発見される臨床がんが増えるために、各PSA基礎値ごとのlead timeは長くなったが、20年の経過観察では、lead timeの中央値はPSA基礎値が3.0ng/mL以上、3.0-9.9ng/mL、10.0ng/mL以上でそれぞれ10.7年、11.2年、3.6年であった。 元々別の研究として設定されたコホートを用いた研究である。PSAの値ではなくDREとTRUSの結果で要精検と判定したこと、生検は細胞診で判定していたことなどから発見率が低い。他の文献と比べて、lead timeは短めに見積もられており、“20年の経過観察による結果”の方が適切であろう。


PSA:AF5・6 精密検査(13文献)
ガイドラインNo 著者 題名 雑誌 Volumes Pages 公表年 検査法 対象数 対象集団の特性 対象集団の設定条件 評価指標 評価指標の把握 結果 研究全般に関するコメント
73 Rietbergen JB, Kruger AE, Kranse R, Schröder FH. Complications of transrectal ultrasound-guided systematic sextant biopsies of the prostate: evaluation of complication rates and risk factors within a population-based screening program. Urology 49 875-80 1997 PSA・TRUS・DRE 初回スクリーニング受診者6,198人に対して、合計1,687(内36回は繰り返し)回の生検が行なわれた。 ERSPCのRotterdamセクション。 54-76歳男性。生検施行例。 合併症発生の頻度。 医療記録。
生検後2-3週のうちに、泌尿器医を受診時にインタビュー。
302人の前立腺がんが診断された。3日以上の肉眼的血尿、血精子症、直腸出血を訴えた者の割合は、それぞれ、23.6、45.3、1.7%。血精子症は比較的若年者ほど多く認められた。主要な合併症としては、疼痛7.5%、予防投薬された抗生物質へのアレルギー0.1%、会陰部腫脹0.1%、38.5度を超える発熱4.2%(内3人は敗血症[その1人はショックによりICU入院])。起炎菌はST合剤耐性大腸菌。前立腺炎、糖尿病、前立腺がんは、合併症のリスク要因ではなかった。 1)先行研究での血尿は13-58.4%、血精子症5-46%、直腸出血2.3-37.1%というバラツキがある。
2)抗生剤事前投与をしていたが4.2%の発熱あり。事前の抗生剤投与の有無により感染率は様々だが、必ずしも一定ではない。
74 Mkinen T, Auvinen A, Hakama M, Stenman UH, Tammela TL. Acceptability and complications of prostate biopsy in population-based PSA screening versus routine clinical practice: a prospective, controlled study. Urology 60 846-50 2002 PSAカットオフ4.0ng/mL 検診群100人
対照群100人
フィンランド前立腺がんスクリーニング試験参加者(RCTの検診群)、1997-2000年に有症状で病院を受診した55-67歳の対照群。 平均年齢:検診群63.2歳 対照群63.4歳 フィンランド 合併症と生検の頻度。 自己記入式質問票、医療記録。 1)生検に伴う重篤な合併症はなかったが、何らかの合併症は、検診群58人(58%)、症例群52人(52%)であった。直腸出血は検診群で57人、対照群で51人であった。
2)自記式アンケートの結果では、中等度以上の不快感を訴えるものは検診群69%、対照群61%であった(P=0.31)。同様に中等度の痛みは検診群52%、対照群63%であった(P=0.16)。両群とも必要であれば再度検査を受けると回答したのは80%以上であった。
3)後発の合併症としては、血尿70%、直腸出血59%であった。
1)自記式アンケートの回答率は両群で異なる。検診群97%、対照群58%。
2)生検の合併症が許容範囲内だが、合併症の頻度は有症状者のものと同程度に起こるので検診を遠ざける要因となるかもしれない。
3)対照群は1つの病院で生検を受けており、医療技術の差等などについては考慮されていない。
4)合併症は、許容性とスクリーニングの効果を損なう可能性があることも指摘。
75 Horninger W, Berger A, Pelzer A, Klocker H, Oberaigner W, Schönitzer D, Severi G, Robertson C, Boyle P, Bartsch G. Screening for prostate cancer: updated experience from the Tyrol study. Can J Urol 12 7-13 2005 オーストリア チロル地方ではPSA検診を1988-1989年に導入し、1993年からは45-74歳男性に無料で実施するようになった。 6,024人(1993-2001年の針生検実施) オーストリアチロル地方在住者 45-74歳男性。 合併症頻度 医療記録? 1)6,024人の生検における合併症発生率(割合):1日を越える肉眼的血尿 12.5%、血精子症 29.8%、重大な疼痛 4.0%、38.5度を越える発熱 0.8%、敗血症 0.3%。
2)1993年から2002年までの前立腺全摘を受ける患者のPSA値の平均は14.9ng/mLから4.8ng/mLへ低下、限局性がんの占める割合は28.7%から80%以上に増加。
3)1986-1990年の死亡率を基準とすると前立腺がんによるSMRは、1991-1993年は、114、101,121。1994-1998年にかけては97,101,79,67,58と低下。
PSA10ng/mL以上で針生検を勧められる。生検は超音波ガイド下で行われていたが、1995年以降は10ヵ所系統的生検。2000年以降はカラドプラーによる生検を追加している。
76 Kapoor DA, Klimberg IW, Malek GH, Wegenke JD, Cox CE, Patterson AL, Graham E, Echols RM, Whalen E, Kowalsky SF. Single-dose oral ciprofloxacin versus placebo for prophylaxis during transrectal prostate biopsy. Urology 52 552-8 1998 経直腸的前立腺生検 ciprofloxacin群269人、placebo群268人、計537人。 年齢41-88歳、平均年齢69.1歳。88%が白人。 適応基準は研究5施設で1992年1月-1993年3月に経直腸的前立腺生検を行った18歳以上の男性。除外基準は1)ciprofloxacin及びguinolone系抗生剤アレルギー 2)心弁膜症でciprofloxacin使用者 3)特殊な胃腸疾患や内服不能例 4)癲癇の既往 5)術前尿培養で細菌尿のあった人 6)登録7日前までの尿路鏡受診者 7)生検24時間前までの尿カテーテル使用者 8)顆粒球<1000/mm3 9)30日以内の治験薬投与 10)生検1週間以内の抗生物質使用者。適応者は、術前ciprofloxacin500mg×1回投与もしくはplacebo投与に1:1で割り付けられた。 細菌学的反応(細菌尿の有無)、自覚症状のある尿路感染症。 医療記録(術後2-6、9-15日での尿検査と尿培養、自覚症状の有無。) ciprofloxacin群とplacebo群では、事前の浣腸や抗生剤投与から検査までの時間、生検方法や生検回数に差はない。細菌尿を認めたのはciprofloxacin群3%(7人)、placebo群9%(21人)と有意差あり(p=0.007)。有症状の尿路感染症はciprofloxacin群で3%(6人)、placebo群で5%(12人)であり、有意差なし。入院加療を要する尿路敗血症はciprofloxacin群では0.4%(1人)、placebo群で1.5%(4人)であった。 1)前立腺生検を行うに至った理由(検診か外来か)は不明。自覚症状には尿路感染症に関係ないものも含まれる可能性もあるが、その影響は生検手技ほどではないとしている(生検手技は感染症の変数ではない)。その他、Confoundingな要因として、生検時のイベントに対する治療の影響が考えられると述べている。
2)先行研究では尿路感染発見率は0~31%だが、生検件数との影響はなし。
77 Cooner WH, Mosley BR, Rutherford CL Jr, Beard JH, Pond HS, Terry WJ, Igel TC, Kidd DD. Prostate cancer detection in a clinical urological practice by ultrasonography, digital rectal examination and prostate specific antigen. 1990. J Urol 167 966-75 2002 超音波・直腸診(DRE)・PSA 1,807人のうち835人が超音波検査、そのうち46.2%が生検。 年齢50-89歳 検診受診者ではない。有症状もしくは前立腺がん検査希望の泌尿器科外来受診患者。1987年1月12日-1989年1月22日に8人の泌尿器科医のもとで超音波、DRE、PSA検査を受けた患者。 前立腺がん発見率、偶発症発生率。 医療記録 1)前立腺生検は、超音波でがん疑いの患者(超音波陽性者)全員(835人)に行われ、生検施行率は46.2%。生検者中263人でがんが認められ、1,807人中のがん発見率は14.6%。DRE+超音波陽性者のPPV(43.2%)はPSA+超音波陽性者のPPV(48.4%)と有意差なく、DRE+PSA+超音波陽性者のPPVは61.8%。あくまで超音波でがん疑い例への生検によるがん例のみを発見がんとすると、DREの偽陰性は4.8%(60人)、PSAの偽陰性は4.3%(52人)、DRE+PSA陰性の偽陰性は2.1%(19人)。
2)偶発症は、検査(超音波、DRE、PSA)のみでは認めなかったが、生検後では軽度偶発症として血尿、血精子症、血便がわずかに見られ、重度偶発症として敗血症が5人(生検中0.60%、全対象中0.28%)、輸血を要する骨盤内血腫が1人に認められた。(超音波でがんが疑われなかった972人のうち、DREにて病変が疑われた123人は生検を施行したが、この123人は対象数には含まれるが超音波下生検によるがん発見率には含まれていない。この123人中のがんは4.9%(6人)であった。)
検診ではなく、臨床上のDRE・PSA・超音波による診断を検討している。
78 Rodríguez LV, Terris MK. Risks and complications of transrectal ultrasound guided prostate needle biopsy: a prospective study and review of the literature. J Urol 160 2115-20 1998 経直腸的超音波下前立腺生検 127人 年齢48-92歳(平均年齢70歳) 検診受診者ではない。(1995年8月-1996年4月に有症状もしくは前立腺がん検査希望にて泌尿器科外来を受診しPSA検査を受けた患者128人。このうち、アンケートに記載不備のあった1人を除外した127人が対象。) 前立腺生検後の偶発症発生率。 医療記録・アンケート・インタビュー(電話) 1)対象者の平均PSA値は7.7ng/ml(0.4-519ng/ml)、生検の平均実施回数は8回(6-13回)であった。生検後、77人(63.6%)に何らかの偶発症がみられたが、重度の偶発症は1人のみであった。
2)生検直後の合併症としては血尿が70.8%、断神経反応が5.3%みられた。
3)軽度偶発症で最も多く報告されたのは、持続的な血尿(47.1%)、疼痛(13.2%)、血精子症(9.1%)、発熱(1.7%)であった。入院歴はない。生検回数、生検中の不快感、尿路感染症の既往、10日以内のアスピリンや非ステロイド系薬剤の服用などの、予想される各リスクファクター項目と、偶発症との相関関係はなかった。
4)病理学的診断が可能だった126人のうち、45.2%が前立腺がんと判明し、PSA値と正の相関を示した(P=0.0001)。
1)検診ではなく診療における生検のリスク評価である。
2)生検後の3-7日にわたり、血尿がある。アスピリンやNSAIDなどの影響をないとしている。
3)先行研究(17件)は80-4,439人を対象としていた。重篤な合併症は0.7-4.3%、軽度な合併症は60.6-78.1%であった。発熱は0.1-5.4%、敗血症は0-5.4%であった。血尿は12.5-58.4%、血精子症は5.1-45.5%であった。
79 Djavan B, Waldert M, Zlotta A, Dobronski P, Seitz C, Remzi M, Borkowski A, Schulman C, Marberger M. Safety and morbidity of first and repeat transrectal ultrasound guided prostate needle biopsies: results of a prospective European prostate cancer detection study. J Urol 166 856-60 2001 経直腸的超音波下前立腺生検 全対象者数は1,051人。初回生検1,051人、再生検820人。 年齢は48-77歳で初回生検時平均年齢は66±6.6歳、再生検時平均年齢は68±8.5歳。 1997年1月-1999年3月に、European Prostate Cancer Detection Study(オーストリア、ベルギー、ポーランドの病院)参加者で、検診もしくは下部尿路症状での受診患者。PSA値4-10ng/mLで経直腸的超音波下前立腺生検(系統的6ヵ所+移行帯2点)を受診した患者。初回生検陰性例は6ヵ月後に再生検を施行。前立腺がん・前立腺炎・前立腺上皮内新生物の既往者、尿閉、内在性尿カテーテル、尿路感染症の患者は除外。生検前後4日間抗生剤の予防投与あり。 偶発症発生率(生検後1-7日) 医療記録(可視的アナログ疼痛スケールによる疼痛評価を含む) 初回生検1,051人のうち、がんは22%(231人)。再生検820人のうち、がんは10%(83人)。初回vs再生検において、生検後早期偶発症発生率は、軽度直腸出血2.1vs2.4%、軽度血尿62vs57%、重度血尿0.7vs0.5%、中等度~重度の血管迷走神経反射2.8vs1.4%(P=0.03)。晩期偶発症発生率は、発熱2.9vs2.3%、血精子症9.8vs10.2%、再発性軽度血尿15.9vs16.6%、持続性排尿障害7.2vs6.8%、尿路感染症10.9vs11.3%。重度偶発症としては、尿路性敗血症0.1vs0%、加療を要する直腸出血0vs0.1%。迷走神経反射以外の偶発症、疼痛スコア(2.4vs2.6)、不快(中等度~重度不快8vs11%)は、初回vs再生検で有意差はなし。また、60歳以下において疼痛スコアが高い傾向にあった。 1)対象者は検診と外来患者が混在している。
2)考察において、他文献の偶発症発生率を引用している(尿路感染症1~11.3%、発熱1.4~4.5%、敗血症0~39.3%、血尿12.5~62%、直腸出血2.1~37.1%、尿閉0~2.6%、排泄困難6.7~13.7%)。
80 Raaijmakers R, Kirkels WJ, Roobol MJ, Wildhagen MF, Schrder FH. Complication rates and risk factors of 5802 transrectal ultrasound-guided sextant biopsies of the prostate within a population-based screening program. Urology 60 826-30 2002 経直腸超音波ガイド下6ヶ所生検による精密検査。 検診群20,979人における初回生検の5,802生検 (対象期間:1994.6-2001.8)。 55-75歳男性 ERSPCのロッテルダムセクション、検診群のうち生検施行例(初回)。 生検による偶発症発症頻度。 医療記録?、偶発症調査票(外来で泌尿器科医がインタビューする)。 生検5,802人のうち、調査が可能であった5,676人が対象。偶発症の割合は、血精子症が50.4%、3日以上の血尿が22.6%、疼痛が7.5%、熱発が3.5%、尿閉が0.4%、入院が0.5%であった。入院27人(0.5%)のうち25人が、前立腺炎か尿路性敗血症の疑いで入院していた。 1)重度の偶発症もあるが、血精子症や血尿など比較的軽度な偶発症の発症は頻度が高い。各偶発症におけるリスクファクターについても検討している。
2)先行研究では血尿10-74.4%、血精子症9.8-78.3%の報告がある。
3)我が国における偶発症頻度との比較検討が必要である。
4)生検の偶発症に関する先行研究との比較を行っている。ただし、対象、生検方法、偶発症の定義や追跡方法などが異なるので、比較検討は慎重にすべきである。
81 Crawford ED, Haynes AL Jr, Story MW, Borden TA. Prevention of urinary tract infection and sepsis following transrectal prostatic biopsy. J Urol 127 449-51 1982 生検 63人(carbenicillin群とplacebo群の割付られた人数記載なし) 平均年齢carbenicillin群62歳、placebo群67.9歳。平均生検数は2。 適応基準は1979年10月-1980年12月に経直腸的前立腺生検を行った男性。除外基準は1)尿路感染症 2)人工器官移植者 3)リウマチ性心弁膜症 4)ペニシリンアレルギー 5)術前尿培養で細菌尿のあった人 6)登録7日前までの尿路鏡受診者 7)生検24時間前までの抗生物質使用者。 細菌学的反応(細菌尿の有無)、自覚症状のある尿路感染症。 医療記録(術後48時間後と2週間後での尿培養、術後15分後の血液培養、入院による術後48時間までの臨床症状モニタリング。) 評価対象はcarbenicillin群23人、placebo群25人。血液培養陽性者はcarbenicillin群22%(5人)、placebo群16%(4人)。48時間後に細菌尿を認めたのはcarbenicillin群8.6%(2人)、placebo群36%(9人)で有意差あり(p=0.017)。2週間後でもcarbenicillin群8.6%(2人)、placebo群20%(5人)と同様であった(p=0.028)。発熱または敗血症の有臨床症状者はcarbenicillin群で17%(4人)、placebo群で48%(11人)であり、有意差あり(p=0.026)。臨床症状者には、carbenicillin群で骨盤内血腫1人(1/23:4%)、持続性血尿をcarbenicillin群2人(2/23:9%)、placebo群2人(2/25:8%)認めた。 1)検診かどうかは不明(生検24時間前後の抗生剤予防投与の有無による経直腸的前立腺生検後血液・尿路感染症発生率の比較)。
2)対象者が63人と少ない。carbenicillin群とplacebo群のランダム割付方法・人数が不明。また、対象の年齢等の統計学的特徴も不明。前立腺生検を行うに至った理由(検診か外来か)も不明。
82 Aron M, Rajeev TP, Gupta NP. Antibiotic prophylaxis for transrectal needle biopsy of the prostate: a randomized controlled study. BJU Int 85 682-5 2000 経直腸的前立腺生検 231人 年齢55-85歳 1996年6月-1998年9月の外来患者のうち、研究対象の基準をクリアし、除外基準に該当しない者。研究対象の基準は、DREによる前立腺がん疑い、年齢55-85歳、今後のフォローアップに参加できること、インフォームドコンセントをうけて同意すること。研究対象の除外基準は、出血傾向、生検以前の未治療の尿路感染症、免疫不全、構造的心疾患、体内カテーテル、に該当する場合である。 経直腸的前立腺生検後の偶発症発生率。 医療記録 231人をランダムに3群に分類した。分類後、本研究から除外された患者はいない。分類は、生検実施後、患者に投与する薬剤によって決められ、その内訳は以下の様である。1)75人:平均年齢69歳。1日2回、3日間プラセボの錠剤を服用する群2)79人:平均年齢63歳。1日1回、ciprofloxacin 500mg、tinidazole 600mgを1錠づつ同時に1日投与、あと2日はプラセボ服用する群3)77人:平均年齢70歳。3日間2)と同じ薬剤を、1日2回服用する群。追跡調査のために、生検後48時間後に、全員の尿を採取し、また、血液は7日以内に発熱した者から採取して培養した。感染性の合併症発症率、非感染性の合併症発症率を3群で比較した。その結果、非感染性の合併症には、下部尿路障害、直腸出血、会陰部痛が含まれ、感染性の合併症には、尿路感染症や発熱が含まれていた。非感染性の合併症発症率については3群間で有意差は無かったが、感染性の合併症発症率は1群で有意に高かった(P=0.003)。感染性の合併症のなかでも、有意差が生じるのは尿路感染症のみ(P=0.01)であり、発熱に関しては3群間で有意差はなかった。したがって、抗生物質で感染症のコントロールを行わない生検はリスクが高い。
231人中前立腺炎は17人(7.4%)であった。1)18.7%(14/75) 2)5.1%(4/79) 3)7.8%(6/77)
患者の体調については、合併症発症時や発熱時に自ら電話をするなどの自己申告によって把握している。また、投薬について、コンプライアンスが保たれたかを調査する方法については明記されていない。
83 Norberg M, Holmberg L, Häggman M, Magnusson A. Determinants of complications after multiple transrectal core biopsies of the prostate. Eur Radiol 6 457-61 1996 経直腸的超音波下前立腺生検 347人 年齢37-88歳 検診受診者ではない。(1991年12月-1994年2月に泌尿器科外来を受診した患者のうち、直腸診もしくはPSA値上昇で前立腺がんが疑われた者。全員に、経直腸的超音波検査と超音波下生検が実施された。) 前立腺生検後の偶発症発生率。 医療記録 対象を2群に分類し、偶発症の評価を行った。A群は、ノルフロキサシンを生検直後および同日夕刻に投与した199人(生検平均施行回数8.8回)、B群は、ノルフロキサシンを生検の1時間前に投与し、かつその後3日間投与を続けた148人(生検平均施行回数11回)である。感染性発熱、出血、尿閉などの重度の合併症発生率は、A群で6.5%、B群で1.4%であり、ノルフロキサシンの長期使用が偶発症のリスクを有意に低下させた。また、予想される各リスクファクター(年齢、前立腺がんの有無、生検回数、投薬期間の差)と偶発症発生率との関係を多重解析したところ、投薬期間の差(A群かB群か)のみ偶発症発生率を下げ、その他の項目は影響しないことがわかった。特に偶発症のうち感染症+尿閉に関して、投薬期間が長い群は、偶発症を92%減らすことが明らかになった。 1)検診ではなく診療における投薬と偶発症リスクの評価。
2)考察において、投薬管理と偶発症発生率を評価した他文献を紹介し、投薬によって偶発症リスクはかなり軽減されるが、完全に排除されるものではないと述べている。
84 熊谷章,小川大輔,小山敏樹,竹内一郎,大山格. 経直腸的前立腺生検後にフルニエ壊疽を発症した管理不良な糖尿病患者の1例. 日本泌尿器科学会雑誌 93 648-51 2002 前立腺生検 1例報告 70歳男性 血清PSA高値(8.4ng/mL)。自覚症状なし。糖尿病通院加療中。 経直腸的前立腺生検に伴う偶発症。 医療記録 糖尿病で内科通院中に血清PSA高値を認めたため、経直腸的前立腺生検を施行。病理組織検査ではがんの所見なし。生検後に施行した尿道、膀胱鏡では出血などは認められなかったが、生検後より発熱、下腹部膨満感、排尿困難などが出現し、急性前立腺炎として治療を開始した。生検後3日目に会陰部の壊死状の変化を認め、DICと診断。フルニエ壊疽及び腸穿孔、後腹膜膿瘍にて開腹手術を施行した。多剤抗生剤投与、血漿交換等の治療を行うも、生検後10日目に多臓器不全のため死亡。 以下、著者らの考察を引用する。本症例では、術中採取した後腹膜脂肪、腹壁浸出液から病原性大腸菌O-6が検出されたことにより、これが急性細菌性前立腺炎の引き金になったと考えられた。本症例では、血管病変、腎障害等は認められなかった。
85 長谷川太郎,下村達也,山田裕紀,伊藤博之,加藤伸樹,長谷川倫男,浅野晃司,清田浩,池本庸,小野寺昭一,大石幸彦. 経直腸的前立腺針生検による敗血症性ショックの1死亡例. 感染症学雑誌 76 893-7 2002 前立腺生検 症例報告 46歳 血精子症、PSA高値持続(7.04→7.54ng/mL)以外異常なし。既往歴なし。MRI上はlow intensity areaのみ。 経直腸的前立腺針生検に伴う偶発症。 医療記録 血精子症、PSA異常高値持続にて、経直腸的前立腺針生検を7ヵ所施行。術後2日目より発熱、3日目より血圧低下、四肢チアノーゼ、無尿を認め、敗血症ショックによるDIC及び多臓器不全と診断し治療した。同日より呼吸困難も合併し、術後6日目に死亡。剖検では、前立腺左葉全体に膿瘍形成あり。前立腺生検の組織所見では悪性及び炎症所見なし。 著者も考察のなかで、文献的に発生頻度が低いながらも、腸内細菌による感染や合併症を再認識すべきである、と記述している。


PSA:AF7 治療(2文献)
ガイドラインNo 著者 題名 雑誌 Volumes Pages 公表年 研究方法 対象数 対象集団の特性 対象集団の設定条件 評価指標 評価指標の把握 結果 研究全般に関するコメント
65 Postma R, van Leenders AG, Roobol MJ, Schroder FH, van der Kwast TH. Tumour features in the control and screening arm of a randomized trial of prostate cancer. Eur Urol 50 70-5 2006 無作為化比較対照試験 検診群 1,596人
対照群 464人
55-75歳(各群とも発見がん症例) ロッテルダムの一般人口( ERSPCの一部として実施)。 発見がんの病期(グリーソンスコア、病理ステージ)。 病理組織診断 1)発見がんの病期は検診群/介入群で、T1c 42.9%/25.2%、T2 33.2%/24.1%、T3 12.3%/15.3%、T4/N1/M1 2.3%/10.1%であった。
2)根治的治療を受けたのは、検診群81.9%、対照群54.7%であった。
3)5年間PSA増加のなかった生存率は検診群89%、対照群68%であった(P<0.0001)。
検診で発見された前立腺がんは比較的良好という結論は参考になる。ただし、「検診で発見されるがんは、ゆっくりと進行するものが多く、進行がんは発見されにくい」という性質(罹病期間の偏り)があるため、死亡率減少については不明。(検診で見逃したもの[中間期がん]については、これから執筆すると記載してある)
66 Kubota Y, Ito K, Imai K, Yamanaka H. Effectiveness of mass screening for the prognosis of prostate cancer patients in Japanese communities. Prostate 50 262-9 2002 コホート研究 検診発見がん279人

外来発見がん624人
検診発見がん72.2歳
外来発見がん73.9歳
(P<0.05)
1981年から1996年に群馬県発見症例。
医療情報が収集可能であった症例。
生存率(実測・相対) がん登録、医療記録。 予後調査の期間は検診発見がんは1-197ヶ月(平均58.5ヶ月)、外来発見がんは1-202ヶ月(平均42.6ヶ月)であった。全症例、臨床病期別の相対生存率とがん特異生存率をKaplan-Meier法で分析した。検診発見がんは外来発見がんに比して早期がんの割合が多く、検診群と外来群の8年相対生存率は、それぞれ限局がんで104.7%、90.7%、局所浸潤がんでは125.8%、52.0%、周囲浸潤がん・転移がんでは68.3%、26.7%であり、局所浸潤がん、周囲浸潤がん・転移がんにおいて検診群の相対生存率が有意に高かったことを報告している。全病期の症例を合わせた場合、相対生存率の比較では検診群は外来群よりも有意に予後が良好であり、検診群の相対生存率が10年間にわたり100%前後であったのに対し、外来群では10年で40%と不良であった。 日本人の検診発見がんと外来発見がんの長期予後を分析した後ろ向き研究である。検診がんの予後は、全症例で有意に検診発見がんで優れており、臨床病期別に見た場合特に、病期Ⅲ、Ⅳで有意な差があった。治療の効果による予後の改善もあるが length bias、lead time bias、health screening effectは無視できない。


PSA:AF8 治療(10文献)
ガイドラインNo 著者 題名 雑誌 Volumes Pages 公表年 研究方法 治療法 対象数 対象集団の特性 対象集団の設定条件 評価指標 評価指標の把握 結果 研究全般に関するコメント
86 Stanford JL, Feng Z, Hamilton AS, Gilliland FD, Stephenson RA, Eley JW, Albertsen PC, Harlan LC, Potosky AL. Urinary and sexual function after radical prostatectomy for clinically localized prostate cancer: the Prostate Cancer Outcomes Study. JAMA 283 354-60 2000 ケース・シリーズ 前立腺切除術 原発性前立腺がん患者1,291人 39-79歳の原発性前立腺がん患者で、根治的前立腺切除術を受けた人。人種は黒人、白人、ヒスパニック系。
アトランタ16.9%、コネチカット17.3%、ロサンゼルス37.5%、ニューメキシコ10.4%、シアトル6.4%、ユタ11.5%。
Prostate Cancer Outcomes Study(PCOS)の対象者のうち、1994年10月1日から1995年10月31日までに原発性前立腺がんと診断され、6ヶ月以内に根治的前立腺除去を受けた患者。 術前、診断後6・12・24ヵ月後の、泌尿器および性機能における障害度の分布。 手紙および電話によるアンケート、臨床データについては医療記録を用いた。 1)前立腺切除から18ヶ月後、8.4%の男性が失禁を、59.9%が性的不能を訴えた。術前に性機能が正常だった男性のうち、術後18ヶ月以降に性的不能を報告する率は、術式により異なっていた(65.6%が神経温存なし、58.6%が片側神経温存、56.0%が両側神経温存)。また、術後18ヶ月以降に、41.9%の男性が性行動に多少の問題を生じたと報告している。
2)泌尿器及び性的機能は年齢によって異なっていた。すなわち、60歳以下では39.0%、60歳以上では15.3~21.7%が術後18ヶ月以降に性的能力があると答えており(P<0.001)、75-79歳では13.8%、より若い年齢層で0.7-3.6%が、術後18ヶ月以降に顕著な失禁があったと答えた(P=0.03)。また、性的機能は人種によっても多様性をみせ、黒人では38.4%、ヒスパニック系では25.9%、白人では21.5%が勃起障害はなかったと回答した(P=0.001)。
本研究の結果は、治療後の長期合併症に関する包括的・典型的な情報提供である。
術後患者個々人を対象とし、2年間の追跡調査を行っている。患者個人の評価であることやrecall biasにより、合併症が過大評価されている可能性がある。
87 Schover LR, Fouladi RT, Warneke CL, Neese L, Klein EA, Zippe C, Kupelian PA. The use of treatments for erectile dysfunction among survivors of prostate carcinoma. Cancer 95 2397-407 2002 ケース・シリーズ 限局性前立腺がん治療
(手術・放射線・ホルモン療法など)
Cleveland医療協会の前立腺がん登録から抽出した前立腺切除術患者1,207人、放射線治療患者1,429人、計2,636人。 患者年齢は42-88歳で、平均68.6±7.5歳。人種は多くが白人で、アフリカ系アメリカ人16%、その他1%未満。 Cleveland医療協会の前立腺がん登録上、1986-1999年にがん治療された患者。 性的機能障害(勃起障害:ED)、EDの治療の既往・種類・治療過程・治療受容度。 Cleveland医療協会の前立腺がん登録、質問表による調査(背景要因・治療歴・症状、他、Sexual Self-Schema Scale-Male Version、International Index of Erectile Function、LosAngels Prostate Cancer Index、SF36)。 質問表の回答率は49%。治療後平均4.3±2.9年経過している。回答者と非回答者の特徴では、性的活動により関心のある男性が、回答者の多くを占めた。前立腺がん治療前で36%、過去6ヶ月以内で85%の男性がEDであり、そのうち59%は最低1回EDの治療を受けていた。ED患者のうち、治療が多少でも性生活の改善に役立ったのは38%で、調査時に1種類以上の治療を続けているのは30%であった。ED治療の効果や治療継続に関連する要因としては、パートナーの有無、若年齢、性的機能を温存し易いがん治療方法の選択、補助療法(ホルモン療法)未施行があった。性的機能に大きな改善が見られた男性は、治療を継続する傾向にあった。 1)前立腺切除群と放射治療群の性的機能障害の比較はなされていない。
2)回答率が49%と低い。但し、回答者と非回答者の特性に関する比較検討は行っている。
88 Lu-Yao GL, McLerran D, Wasson J, Wennberg JE. An assessment of radical prostatectomy. Time trends, geographic variation, and outcomes. The Prostate Patient Outcomes Research Team. JAMA 269 2633-6 1993 地域相関研究 前立腺全摘除術 65歳以上のMedicare加入者のうち20%、14,887,000人、そのうち前立腺全摘除術を施行した10,598人。 65歳以上男性。
年齢分布
65-69歳:50.3%
70-74歳:37.6%
75-79歳:10.7%
80歳以上:1.5%
1984年から1990年にMedicare加入者となった患者。65歳未満、国外移住者、人種不明を除く。地域:アメリカにおける50の州およびコロンビア特別区。 前立腺全摘除術率、(術後)30日死亡率、心肺合併症や血管の合併症の発症率、前立腺切除後30日以内の外科的回復度。 Hospital claim(診療報酬明細書) 年齢や人種で調整した前立腺全摘除術率は、1990年には1984年の5.75倍に伸びており、その伸び率は全年齢層で同様の傾向を示した。1988-1990年において前立腺全摘除術率の地域格差は大きく、ニューイングランド及び中大西洋地域の前立腺全摘除術率は60/10万人対以下だったのに比べ、PacificおよびMountainに分類した地域では130/10万人対以上だった。術後1ヶ月以内の死亡率は75歳以下で1%以下、75歳以上は1.4%に増加、80歳以上では4.6%。心肺合併症は75歳以下で6%、75歳以上は8.5%に増加、80歳以上では11%となった。 アメリカにおける50の州およびコロンビア特別区の65歳以上のMedicare加入者のうち、20%をどのような方法で選択したかが不明。
89 Steineck G, Helgesen F, Adolfsson J, Dickman PW, Johansson JE, Norlén BJ, Holmberg L; Scandinavian Prostatic Cancer Group Study Number 4. Quality of life after radical prostatectomy or watchful waiting. N Engl J Med 347 790-6 2002 無作為化比較対照試験 前立腺全摘除術と無治療経過観察(watchful waiting)。 限局性前立腺がんの男性のうち、前立腺全摘除術による治療を受けたもの189人(うち166人受療)、無治療経過観察が行われた者187人(うち、160人受療)。 48-74歳。平均年齢:前立腺全摘除術群64.1歳(48-74歳)、無治療経過観察群64.8歳(51-74歳)。 1)1989年1月1日から1996年2月29日までの間に、Scandinavian Prostatic Cancer Group Study Number4に登録されたフィンランド人男性のうち、75歳以下かつ10年以上の寿命が予想された者。
2)未治療の局在がん(がんの既往や重篤な合併症のあるものは除く)。
性機能、泌尿器機能、消化管機能、心理的要素(不安、うつ、幸福度低下、QOLの低下)。 アンケート調査(郵送)。 前立腺全摘除術群と無治療経過観察群の比較を行った。勃起障害(80%vs45%)と尿失禁(49%vs21%)は、前立腺全摘除術での報告が多く、一方、排尿障害(28%vs44%)は無治療経過観察群での報告が多かった。消化管機能、不安、うつ、幸福度低下、QOL低下については両群に差はなかった。 1)本研究では、治療の選択(前立腺切除か経過観察か)を支援するような結論は得られなかった。著者も患者本人の状況に応じて判断するべき、としている。
2)無治療経過観察群であっても勃起障害、尿失禁の割合は一般集団より高い。
90 Potosky AL, Davis WW, Hoffman RM, Stanford JL, Stephenson RA, Penson DF, Harlan LC. Five-year outcomes after prostatectomy or radiotherapy for prostate cancer: the prostate cancer outcomes study. J Natl Cancer Inst 96 1358-67 2004 ケース・シリーズ 前立腺切除術群
放射線療法群
根治的前立腺切除術を受けた者901人、放射線外照射療法を受けた者286人。 55-74歳 Prostate Cancer Outcomes Study(PCOS)の登録患者のうち、1994年10月1日-1995年10月31日に限局性前立腺がんと診断され、根治的前立腺がん切除術か放射線外照射療法を、診断後1年以内に受けた者。 泌尿器機能、消化管機能、性的機能。 診断から5年後の、Quality of lifeのアンケート調査(Medical Outcomes Study SF-36 instrumentを使用)と医療記録(臨床データ)。 診断から5年後、前立腺切除術群、放射線外照射療法群の両グループで性的機能の衰えがみられたが、勃起障害は前立腺切除群でより頻度が高かった(79.3%vs63.5%、オッズ比2.5、95%CI 1.6-3.8)。失禁については、前立腺切除群で14-16%、放射線外照射療法群で4%の報告があった(オッズ比4.4、95%CI 2.2-8.6)。消化管機能低下、痛みが顕著な痔は放射線外照射療法群で統計的有意に多かった。 著者は両治療群の比較を診断直後から追跡しており、本研究は年間の追跡調査をまとめたものである。Discussionにおいて、放射線外照射療法群では、追跡開始後2-5年後に勃起障害がかなり進行した、と述べている。追跡が完全に行えたのは手術群79%、放射線群67%で脱落理由としては調査拒否が多かった。
91 Potosky AL, Legler J, Albertsen PC, Stanford JL, Gilliland FD, Hamilton AS, Eley JW, Stephenson RA, Harlan LC. Health outcomes after prostatectomy or radiotherapy for prostate cancer: results from the Prostate Cancer Outcomes Study. J Natl Cancer Inst 92 1582-92 2000 コホート研究 前立腺全摘除術と放射線外照射療法。 前立腺全摘除術者1,156人、放射線外照射療法者435人の計1,591人。 55-74歳 Prostate Cancer Outcomes Study(PCOS)の対象者のうち、Connecticut・Utah・New Mexico・Atlanta・LA・Seattleの6地域で、1994年10月1日-1995年10月31日に原発性前立腺がんと診断された患者。人種は75%以上が白人。 治療前(baseline)と治療後(6ヶ月,12ヶ月,24ヶ月)の身体機能(排尿・消化・性的機能)とQOL。 アンケート調査(郵送、自記式。未回答者に電話かインタビュー)、及び医療記録。 全調査の回答率は手術群で77%、放射線群で81%(有意差なし)。手術群は、放射線群より失禁者が多かった(9.6%vs3.5%、P<0.001)。また、インポテンスも高率であった(79.6%vs61.5%、P<0.001)。性機能の減少が統計学的に有意に見られた。放射線群は、手術群より消化管機能の低下が多かった。これらの差は、propensity score診断時の年齢、ベースラインの機能、人種、合併症、学歴で補正後も変わらなかった。両群のgeneral health-related quality of lifeは同様であった。
排尿機能は術後2ヶ月で放射線群はあまり変わらなかったが、手術群は術後低下したが24ヶ月後には回復していた。ただし手術群は、ベースラインレベルまでには回復していない。消化管機能は両群ともベースラインから24ヶ月後はほぼ一定であった。性機能は両群とも術後低下し、回復したが、24ヶ月後の時点でもベースラインまでは回復していない。
思い出しbias、response bias、脱落者、confounding factorについて考察しており、propensity scoreによる補正等で、biasは減少可能であったとしている。本研究の結果は、治療後の長期合併症に関する包括的・典型的な情報提供である。
92 Madalinska JB, Essink-Bot ML, de Koning HJ, Kirkels WJ, van der Maas PJ, Schröder FH. Health-related quality-of-life effects of radical prostatectomy and primary radiotherapy for screen-detected or clinically diagnosed localized prostate cancer. J Clin Oncol 19 1619-28 2001 ケース・シリーズ 限局性前立腺がん(検診発見及び臨床診断がん)に対する、二種類の治療法(前立腺切除術、放射線外照射療法)。 278人(前立腺切除術適用患者107人、放射線外照射療法171人、検診発見がん患者59%、臨床診断がん患者41%) 76歳以下 1996年6月-1998年5月に、4つのロッテルダムの病院の泌尿器科で、新たに前立腺がんが発見された男性368人のうち、限局性の前立腺がんと判明し、前立腺切除術もしくは放射線外照射療法を受け、かつアンケート回答を了承した患者。 baseline(診断直後)、半年後、一年後のQOLの評価SF36(身体機能、身体的役割、感情的役割、身体の痛み、健康、活動性、社会的機能、メンタルの健康)、UCLA Prostate cancer index、sexual functioning の質問。 アンケート調査(郵送) アンケートの回答率は93%(うち有効回答は88%)。放射線外照射療法適用患者は、前立腺切除術適用患者より有意に高齢だった(63vs68歳、P<0.01)。年齢や治療前の機能障害の程度を考慮して分析をしたところ、放射線療法後のQOLは低レベルだった。尿失禁(39-49%vs6-7%)や勃起障害(80-90%vs41-55%)は前立腺切除術適用患者で有意に多く、消化管機能障害は放射線療法適用者で有意に多かった(共にP<0.01)。また、検診発見がん、臨床診断がんのQOL傾向は近似していた。 先行研究では手術群の12ヵ月後の合併症として尿失禁7-23%、勃起障害69-91%。放射線療法では勃起障害61%、消化管障害12-14%であった。SF36によりHRQOLを検討しているがHRQOLは12ヵ月後には改善し、オランダの一般集団と差はなかった。HRQOLと合併症の両面から検討している。
93 Talcott JA, Rieker P, Clark JA, Propert KJ, Weeks JC, Beard CJ, Wishnow KI, Kaplan I, Loughlin KR, Richie JP, Kantoff PW. Patient-reported symptoms after primary therapy for early prostate cancer: results of a prospective cohort study. J Clin Oncol 16 275-83 1998 コホート研究 前立腺全摘除術・放射線外照射 前立腺全摘除術者125人、放射線外照射療法者135人の計260人(対象279人中、経過観察18人、その他治療1人は解析に含めず)。 41-86歳 (平均64.6歳) イギリスの指定病院(Dana-Farberがん協会泌尿器腫瘍病院、Brigham病院泌尿器科、New England Deaconess病院、放射線治療参加病院)で、1990年8月29日-1994年5月31日に原発性非転移性前立腺がんで初回治療の相談をした患者。組織診断が成されていない患者は除外。人種は白人が96%。 治療前(baseline)と治療後(3ヶ月、12ヶ月)の身体症状(排尿・消化器症状、尿失禁、性的機能)とQOL。 アンケート調査(質問表)、医療記録。 治療前において、膀胱・消化器症状及び尿失禁症状は少数であったが放射線治療後3ヶ月では、消化管症状(28%)の訴えがあったが、これらの症状は12ヶ月後では減少した。膀胱症状では頻尿が最も多く、手術・放射線両群で治療後3ヶ月が多く12ヶ月後には治療前レベルとなった。尿失禁症状のうち尿失禁/尿パッドはそれぞれ、手術3ヶ月後で24%/58%、12ヶ月後では11%/35%で認められ、65歳以下では減少した。尿失禁症状は手術群が放射線群より有意に多かった。性機能障害は治療前にも11-45%みられた。性機能障害のうち勃起障害は、手術後3ヶ月ではほぼ全員(96%)に認めたが、12ヶ月では主に65歳以下で改善があった。放射線治療後の性機能障害は手術後より有意に少なかった。 性機能障害に関する質問の回答率はbaselineでも63-72%(他の質問は100%)で、更に、3ヶ月、12ヶ月によりそれぞれの質問の回答率が異なる。本研究のoutcomeが他文献より悪い理由として、selection biasや偶発症につながる不適切な治療の存在を考察で述べているが、それらのbiasが 本研究で顕著という証拠はない。また、治療前の評価を行っていること、第三者的立場(医療担当ではない)でデータの収集を行ったことより、confoundingは回避されていると述べている。
94 Arai Y, Egawa S, Tobisu K, Sagiyama K, Sumiyoshi Y, Hashine K, Kawakita M, Matsuda T, Matsumoto K, Fujimoto H, Okada T, Kakehi Y, Terachi T, Ogawa O. Radical retropubic prostatectomy: time trends, morbidity and mortality in Japan. BJU Int. 85 287-94 2000 ケース・シリーズ 恥骨後式前立腺全摘除術 恥骨後式前立腺全摘除術後の患者638人。 年齢中央値67歳、年齢分布は60歳未満12.9%、60-69歳56.3%、70歳以上30.9%。 1991年1月-1998年8月に日本の7施設(倉敷中央病院、北里大学病院、国立がんセンター中央病院、原三信病院、四国がんセンター、関西医科大学、京都大学)で恥骨後式前立腺全摘除術を受けた患者。 術後30日までの偶発症発生率と死亡率。 医療記録 術中偶発症は24人(3.8%)で、そのうち直腸傷害が19人(3%)。術後30日以内の偶発症発生率は全体で20%であり、最も一般的な偶発症は瘡部関連(瘡部感染、血腫、解離等)7.5%と、吻合部リーク4.1%であった。重大な心血管偶発症は肺塞栓の2人(0.31%)であった。術後30日以内の脳出血による死亡が1人あり、術後30日死亡率は0.16%であった。術後30日以内の偶発症の発生は、stageや補助ホルモン療法には関係なく、年配(70歳以上)の患者で有意に多かった。 多施設共同の横断的研究で、手術の早期の障害を検討しているわが国の貴重な研究である。日本の近年の恥骨後式前立腺全摘除術(RRP)の傾向として、手術に適した症例を選択して行うようになっている。通常は余命が10年以上あることから75歳を上限としている。RRPの30日以内の偶発症発生率は低く、死亡や輸血必要例はほとんどない。本研究においても特別な血栓予防は成されていないが、重大な心血管系の偶発症は西洋人に比べて日本人は少ないことが示唆された。また、他文献の直腸傷害は0-4.3%で手術技術の進歩により多くは1%未満であり、術後30日以内の偶発症は肺塞栓0.31-3.1%、心筋梗塞0-0.7%、深部静脈血栓は0.16-3.7%、及び術後30日以内の死亡率は0-1.2%で多くは1%未満であると記載されている。報告バイアスに関しては、本研究の術者は必ずしも前立腺がん手術の専門家ではなく、むしろ7施設での担当者が行っているため、バイアスはいくらか軽減できるであろうと述べている。また、本研究はoperation-basedで行われたものではないと明記している。
95 Hisasue S, Takahashi A, Kato R, Shimizu T, Masumori N, Itoh N, Tsukamoto T. Early and late complications of radical retropubic prostatectomy: experience in a single institution. Jpn J Clin Oncol 34 274-9 2004 ケース・シリーズ 恥骨後式前立腺全摘除術 恥骨後式前立腺全摘除術後の患者123人(うち7人は途中で観察できず、晩期偶発症調査対象は116人)。 年齢は53-74歳で中央値66歳、観察期間は2-157ヶ月で中央値は44ヶ月。 1988年5月-2001年11月に札幌医科大学病院で恥骨後式前立腺全摘除術を受けた患者。 術中/早期(術後1ヶ月まで)/晩期偶発症 (尿路偶発症として、吻合部狭窄と尿失禁を調査) 医療記録 手術による死亡例はなし。術中偶発症は、直腸傷害6人(4.9%)、尿路傷害1人(0.8%)。手術手技に直接関係する早期偶発症は、瘡部感染17人(13.8%)でそのうちドレナージを要する重症感染症は1人(0.8%)、吻合部リーク4人(3.3%)、2週間以上のリンパ液リーク6人(4.9%)。手術手技に直接関係しない早期偶発症は6人(急性腎盂腎炎、麻痺性イレウス、肺塞栓、不整脈が各1人、狭心症が2人)でいずれも2%以下であった。晩期偶発症は、吻合部狭窄(排尿流量低下)16人(13.8%)、12ヶ月以上持続する緊張性尿失禁は13人(11.8%)であり、尿失禁の87.3%は12ヶ月以内に改善した。吻合部狭窄の予想因子はないが、出血量と手術時期は尿失禁の回復の予想因子であった。 1)晩期障害も含め、医療記録に基づく報告。患者への追加的な調査は行っていない。
2)手術時期は、1996年より術式が"bunching technique"となったこと、自己血輸血が可能となったことより、1988-1995年40人(32.5%)と1996-2001年83人(67.5%)の2群に分けて分析している。
3)考察内で、他文献の術中偶発症は0.8-3.7%で直腸傷害は0.5-3%、早期偶発症は6.9-43%で肺塞栓0.4-2.6%、狭心症0.5-5%、晩期偶発症として、吻合部狭窄0.48-32%、尿失禁5-19.9%と記載されている。

 

 
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