有効性評価に基づく前立腺がん検診ガイドライン
VI.考察
6. がん検診におけるインフォームド・コンセント
我が国でのがん検診全般について認められることであるが、その利益と不利益については、現状では十分な説明が行われていない。PSA検診についても、市町村においてインフォームド・コンセントが行われているという状況は考えがたく、受診者が適切な情報のもとに、受診の判断を行いうる状況が整備されているとはいえない142)。諸外国においても、前立腺がん検診の普及は、精密検査や術後の合併症を含め、様々な問題を提示している。前立腺がん検診を対策型検診として導入している国はないが、任意型検診としての普及は容認せざるを得ない状況にあることも事実である。その際、Shared Decision MakingやInformed Decision Makingを行える環境を整備し、個人の嗜好を加味した上で正しい判断が行える環境整備が求められている140),141)。英国では、前立腺がん検診を対策型検診としては推奨していないが、任意型検診として行われている現状に配慮し、NHS National Cancer Screening Programmesで受診者に向けて説明のためのパンフレットの作成など、前立腺がん検診に関する情報提供を行うと共に、前立腺生検について検討を行っている133)。
検診の提供者ならびに検診実施団体は、受診者への情報提供という観点において、利益を過大評価することなく、どのような科学的根拠があるか、またそれは適切と判断しうるものか、さらに利益と同等に不利益に関する情報を伝達する必要がある。そのためには、検診従事者ががん検診ガイドラインについて十分理解すべきことはいうまでもない。本ガイドラインの評価を真摯に受けとめ、対策型検診においては、市町村の保健行政担当者が実施の適否に関する適切な判断をすることが期待される。また、任意型検診を行う場合には、がん検診提供者は、死亡率減少効果が不明であり、不利益が無視できないことを検診受診者に十分に説明する責任を有する。ただし、個人のリスクを低減することを目的とした任意型検診においては、受診者の価値観を踏まえた上で選択する余地は残されている。この場合、医療従事者は科学的根拠を明確にした上で、受診者の選択を支援するための情報提供を行うことが基本である140),141)。しかしながら、市町村においてがん検診を担当する保健師とそれを指導する立場にある医師の間では、がん検診に関する知識に大差がないということが指摘されている142)。今後、科学的根拠に基づくがん検診を推進し、適切な情報提供を行うためには、検診従事者への啓発・教育も今後取り組むべき課題である。