有効性評価に基づく前立腺がん検診ガイドライン

 
III.方法

7. 推奨グレードの決定

がん検診の利益である死亡率減少効果と不利益とのバランスを考慮した上で、わが国における対策型・任意型検診としての実施の可否を推奨グレードとして決定する(表3)。対策型検診及び任意型検診の定義は、表1に示したとおりである。推奨グレードはAからD及びIの5段階で示した。経済評価、受診率や検診実施の障壁(バリア)に関する研究などは推奨の判断基準とはしない。
推奨は、有効性に関する証拠のレベルと不利益の大きさを勘案し、表3の原則に従い、最終的にガイドライン作成委員会の協議により決定する。推奨A及びBについては、死亡率減少効果を認め、かつ不利益も比較的小さいことから、対策型検診としても、任意型検診としても実施可能である。推奨Dは、死亡率減少効果がないことから、対策型・任意型のいずれのがん検診としても、実施すべきではない。
推奨Cについては、死亡率減少効果は認められるが、無視できない不利益があるため、対策型検診としての実施は望ましくない。しかし、任意型検診においては、安全性を確保し、不利益についての十分な説明を行った上での実施は可能である。
推奨Iは、死亡率減少効果の有無を判断するための研究が不十分なことから、対策型検診としては推奨できない。任意型検診として実施する場合には、がん検診の提供者は、死亡率減少効果が証明されていないこと、及び、当該検診による不利益について十分説明する責任を有する。その説明に基づく、個人の判断による受診は妨げない。推奨Iの判定を受けた検診は、有効性評価を目的とした研究の範囲で行われることが望ましい。ただし、ここでいう研究とは単なる発見率などの報告ではなく、死亡率減少効果を証明するための系統的アプローチの基盤となる精度や生存率の検討、無作為化比較対照試験をはじめとした死亡率をエンドポイントとした研究に限定される。推奨Iの判定を受けた検診は、一定の評価を得るまで公共政策として取り上げるべきではない。該当する検診を現在実施している場合、継続の是非を再検討すべきである。


表3 推奨グレード
推奨 表現 対策型検診 注1)
(住民検診型)
任意型検診 注2)
(人間ドック型)
証拠のレベル
A 死亡率減少効果を示す十分な証拠があるので、実施することを強く勧める。 推奨する 推奨する 1++/1+
B 死亡率減少効果を示す相応な証拠があるので、実施することを勧める。 推奨する 推奨する 2++/2+
C 死亡率減少効果を示す証拠があるが、無視できない不利益があるため、対策型検診として実施することは勧められない。
任意型検診として実施する場合には、安全性を確保し、不利益に関する説明を十分に行い、受診するかどうかを個人が判断できる場合に限り、実施することができる。
推奨しない 条件付きで
実施できる
1++/1+/2++/2+
D 死亡率減少効果がないことを示す証拠があるため、実施すべきではない。 推奨しない 推奨しない 1++/1+/2++/2+
I
注3)
死亡率減少効果の有無を判断する証拠が不十分であるため、対策型検診として実施することは勧められない。
任意型検診として実施する場合には、効果が不明であることと不利益について十分説明する必要がある。その説明に基づく、個人の判断による受診は妨げない。
推奨しない 個人の判断に
基づく受診は妨げない
1-/2-/3/4
注1) 対策型検診は、公共的な予防対策として、地域住民や職域などの特定の集団を対象としている。
その目的は、集団におけるがんの死亡率を減少させることである。
対策型検診は、死亡率減少効果が科学的に証明されていること、不利益を可能な限り最小化することが原則となる。
具体的には、市区町村が行う老人保健事業による住民を対象としたがん検診や職域において法定健診に付加して行われるがん検診が該当する。
注2) 任意型検診とは、医療機関や検診機関が任意で提供する保健医療サービスである。
その目的は、個人のがん死亡リスクを減少させることである。
がん検診の提供者は、死亡率減少効果の明らかになった検査方法を選択することが望ましい。
がん検診の提供者は、対策型検診で推奨されていない方法を用いる場合には、死亡率減少効果が証明されていないこと、及び、当該検診による不利益について十分説明する責任を有する。
具体的には、検診センターや医療機関などで行われている総合健診や人間ドックなどに含まれているがん検診が該当する。
注3) 推奨Iと判定された検診の実施は、有効性評価を目的とした研究を行う場合に限定することが望ましい。


表1 対策型検診と任意型検診の比較
検診方法 対策型検診
(住民検診型)
任意型検診
(人間ドック型)
Population-based screening Opportunistic screening
定義
目的 対象集団全体の死亡率を下げる 個人の死亡リスクを下げる
検診提供者 市区町村や職域・健保組合等のがん対策担当機関 特定されない
概要 予防対策として行われる公共的な医療サービス 医療機関・検診機関等が任意に提供する医療サービス
検診対象者 検診対象として特定された集団構成員の全員(一定の年齢範囲の住民など)。ただし、無症状であること。有症状者や診療の対象となる者は該当しない 定義されない。ただし、無症状であること。有症状者や診療の対象となる者は該当しない
検診費用 公的資金を使用。無料あるいは一部少額の自己負担が設定される 全額自己負担。ただし、健保組合などで一定の補助を行っている場合もある
利益と不利益 限られた資源の中で、利益と不利益のバランスを考慮し、集団にとっての利益を最大化する 個人のレベルで、利益と不利益のバランスを判断する
特徴
提供体制 公共性を重視し、個人の負担を可能な限り軽減した上で、受診対象者に等しく受診機会があることが基本となる 提供者の方針や利益を優先して、医療サービスが提供される
受診勧奨方法 対象者全員が適正に把握され、受診勧奨される 一定の方法はない
受診の判断 がん検診の必要性や利益・不利益について、広報等で十分情報提供が行われた上で、個人が判断する がん検診の限界や利益・不利益について、文書や口頭で十分説明を受けた上で、個人が判断する。参加の有無については、受診者個人の判断に負うところが大きい
検診方法 死亡率減少効果が示されている方法が選択される。有効性評価に基づくがん検診ガイドラインに基づき、市区町村や職域・健保組合等のがん対策担当機関が選ぶ 死亡率減少効果が証明されている方法が選択されることが望ましい。ただし、個人あるいは検診実施機関により、死亡率減少効果が明確ではない方法が選択される場合がある
感度・特異度 特異度が重視され、不利益を最小化することが重視されることから、最も感度の高い検診方法が必ずしも選ばれない 最も感度の高い検査の選択が優先されがちであることから、特異度が重視されず、不利益を最小化することが困難である
精度管理 がん登録を利用するなど、追跡調査も含め、一定の基準やシステムのもとに、継続して行われる 一定の基準やシステムはなく、提供者の裁量に委ねられている
具体例
具体例 老人保健事業による市町村の住民検診(集団・個別)
労働安全衛生法による法定健診に付加して行われるがん検診
検診機関や医療機関で行う人間ドックや総合健診
慢性疾患等で通院中の患者に、かかりつけ医の勧めで実施するがんのスクリーニング検査
注1) 対策型検診では、対象者名簿に基づく系統的勧奨、精度管理や追跡調査が整備された組織型検診(Organized Screening)を行うことが理想的である。
ただし、現段階では、市区町村や職域における対策型検診の一部を除いて、組織型検診は行われていないが、早急な体制整備が必要である。
注2) 2005年に公開した大腸がん検診ガイドラインでは、対策型検診を一元的にOrganized screeningとしたが、2006年の胃がん検診ガイドラインでは、わが国における対策型検診の現状を考慮し、現状の対策型検診(Population-based screening)と対策型検診の理想型である組織型検診(Organized screening)を識別し、その特徴を明らかにした。
注3) 任意型検診の提供者は、死亡率減少効果の明らかになった検査方法を選択することが望ましい。
がん検診の提供者は、対策型検診で推奨されていない方法を用いる場合には、死亡率減少効果が証明されていないこと、及び、当該検診による不利益について十分説明する責任を有する。

 

 
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