有効性評価に基づく前立腺がん検診ガイドライン
III.方法
3. Analytic Frameworkの設定
死亡率減少効果を示す指標は、直接的証拠と間接的証拠に大別される。
AFとは、検査や治療の結果を評価するために、検診、精密検査、治療の段階における評価指標(検診によりもたらされる中間結果)を明確にし、最終的な結果である死亡率減少にどのように結びついていくかを、一連の流れとしてまとめ、直接的証拠と間接的証拠の位置づけを明確にしたものである13)。このため、AFの各段階に対応したリサーチ・クェスチョンを設定し、その解決のために必要な文献を収集し、証拠としての妥当性や信頼性を吟味する。
前立腺がん検診のAF(図2)を作成し、直接的証拠と間接的証拠を分け、各段階の検討課題を示した。AF1は、死亡率減少効果を証明する直接的証拠とし、無作為化比較対照試験、症例対照研究、コホート研究、地域相関研究、時系列研究等を抽出した。AF2〜8は間接的証拠として、検査精度(感度・特異度)、発見がんの病期、治療法、生存率、不利益などの文献を抽出した。ただし、これらの間接的証拠を抽出するのは、個々の診断や治療の評価が目的ではなく、がん検診の有効性評価に重要な影響のある研究に限定する。なお、AF1以外の研究は、個々の研究だけでは、がん検診による死亡率減少効果を証明することが困難であり、間接的証拠のみでは証拠のレベルは決定しない。
死亡率減少効果を示す証拠として直接的証拠と間接的証拠の両者を採用するが、あくまでも直接的証拠を優先する。間接的証拠は、単独では死亡率減少効果を証明することはできない。直接的証拠により証拠が不十分とされた場合には、参考資料として本ガイドラインに記載するが、最終的な推奨にはなんら関与するものではない。間接的証拠は、単独ではなく、直接的証拠のある検診方法との比較検討が可能な場合にのみ、採用することを原則とする。ある検診方法の精度が、無作為化比較対照試験により死亡率減少効果が証明されている検診方法より優れている場合などが該当する。具体的には、便潜血検査における免疫法の評価に適用されている16)。すなわち、大腸がん検診では便潜血検査化学法が無作為化比較対照試験により死亡率減少効果が証明されている。そのため、大腸がん検診で各種の検診方法の有効性を検討する場合、便潜血検査化学法と精度を比較することで、間接的証拠を採用することができる。一方、比較対照となる検診方法の死亡率減少効果が、次善の方法である症例対照研究やコホート研究で証明された場合は、間接的証拠として採用する論拠とはならない。症例対照研究やコホート研究においては、たとえ研究の質が高い場合でも、バイアスの完全な制御は困難である。従って、いかなる場合も、単独の観察研究だけでは検診の有効性を示す確固たる証拠とはなりえない。また、症例対照研究をはじめとする観察研究による死亡率減少効果を証明された検査方法との精度の比較検討だけでは、直接的証拠と同等の証拠は得られないと判断する。
図2 前立腺がん検診のAnalytic Frameworkと対応する検討課題

併用法:PSA+直腸診+経直腸的超音波
AF1 | 無症状で平均的な集団に対して、がん検診を行うことにより、がん検診を行わない場合に比べて、対象となるがんの死亡(あるいは罹患)を減少できるか(検診による死亡率減少を示す直接的根拠) 1.PSA 2.PSA+直腸診 3.直腸診 4.併用法(PSA+直腸診+経直腸的超音波) |
AF2 | 特定の検査法や問診により、無症状で平均的な集団に比べて、ハイリスクな対象を特定することはできるか 1)問診:家族歴、既往歴 2)初回PSA値、PSA値増加率など |
AF3 | 検診の精度 1)精度(感度・特異度)は、他の方法と比べて高いか
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AF4 | 検診の不利益 1)偽陰性・偽陽性率は、他の方法と比べて、高い(低い)か 2)偶発症の種類や発生率は、他の方法と比べて、異なるか 3)過剰診断の可能性は、他の方法と比べて、高い(低い)か 4)受診者の負担は、他の方法と比べて、異なるか |
AF5 | 精密検査(系統的生検・狙撃生検)の精度 1)感度・特異度はどの程度か |
AF6 | 精密検査の不利益 1)偽陰性・偽陽性率は、どの程度か 2)偶発症の種類や発生率は、どの程度か 3)受診者の負担は、どの程度か |
AF7 | 適切な治療法を行った検診発見がんは、検診外発見がんに比べて、生存率が高いか 治療法の種類
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AF8 | 検診発見がんに対して治療を行うことにより、治療を行わない場合に比べて、不利益が起こるか 1)偶発症の種類は、どのようなものがあるか 2)偶発症の発生率は、他の治療法と比べて、大きいか 3)受診者の負担は、他の治療法と比べて、大きいか |