有効性評価に基づく前立腺がん検診ガイドライン

 
I.はじめに


前立腺がんの頻度と予後
わが国における、前立腺がんの罹患数は23,548人(2001年推定値)、死亡数は9,264人(2005年確定数)であり、男性では死因簡単分類中、罹患数で5番目、死亡数で7番目に多いがんである1)。死亡数は過去20年間で3.5倍に増加したが、年齢調整死亡率は、1996年以降ほぼ横ばいである。すなわち、高齢化の影響で死亡数が増加している。また、1998年以降年齢階級罹患率は急増し、罹患と死亡の乖離が進んでいる。
1年間の罹患率(人口10万人あたり)は、40歳代、50歳代、60歳代、70歳代でそれぞれ0.3、10.0、81.4、240.3であり(2001年推計値)、年齢と共に増加し、50歳以上では、1年あたりの罹患率が980人に1人以上となる。50歳の人が死亡するまでに前立腺がんに1度でも罹患する確率(累積罹患リスク)は6.7%で、50歳の人が前立腺がんで死亡する確率(累積死亡リスク)は3.2%である(罹患は2001年、死亡は2005年の値に基づく)。
大阪府がん登録(1994-98年診断例)によると2)、前立腺がんと診断された時点での病巣の広がりは、「限局」が44%、「領域リンパ節転移あり」が13%、「遠隔転移あり」が33%、「不明」が10%である。5年相対生存率は前立腺がん全体で67%、進展度別では「限局」が94%、「領域リンパ節転移あり」が69%、「遠隔転移あり」が32%と報告されている。早期に診断されるほど、高い5年生存率が期待できる。

前立腺がんのリスク要因
前立腺がんのリスク要因としては、人種、家族歴、食事などがある3)。前立腺がんの罹患には人種差があり、黒人が最も高く、日本人は白人に比較しさらに低い4)。ただし、ラテントがんの頻度には人種差はほとんどない5)。1親等の家族に前立腺がんがある場合、前立腺がんのリスクは2〜3倍である3)。複数の生態学的研究から、前立腺がん死亡率と、消費した脂肪から算出した平均総カロリーとは相関があることが示されている。日本からの移民に関する研究では、日本人の臨床的前立腺がんのリスクは最も低く、日系アメリカ人1世のものは中程度であり、2世以降のリスクは米国民と同等である。この他のリスク要因としては、乳製品及びカルシウム摂取がある6)。また、前立腺がんは、男性ホルモンに依存的であり、発生・進展に関与している3)

従来の国内での評価(久道班報告書第3版)
平成13年3月に公表された、平成12年度厚生労働省老人保健事業推進費等補助金 がん検診の適正化に関する調査研究事業 新たながん検診手法の有効性評価報告書(以下、久道班報告書第3版)7)において、前立腺特異抗原(Prostate specific antigen:以下PSA)による前立腺がん検診はII群「検診による死亡率減少効果を判定する適切な根拠となる研究や報告が、現時点で見られないもの。また、この中には、検査精度や生存率等を指標とする予備的な研究で効果の可能性が示され、死亡率減少効果に関する研究が計画または進められているものを含む」と判定されている。一方、直腸診による前立腺がん検診はI-c群「検診による死亡率減少効果がないとする、相応の根拠がある」と評価された。現在、PSA検診は、住民検診として、42%の市町村が実施している8)。また、一部の職域や人間ドックでも、同様の前立腺がん検診が行われている。

 

 
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