有効性評価に基づく前立腺がん検診ガイドライン
要旨
背景
わが国における、前立腺がんの罹患数は23,548人(2001年推定値)、死亡数は9,264人(2005年確定数)であり、男性では死因簡単分類中、罹患数で5番目、死亡数で7番目に多いがんである。死亡数は過去20年間で3.5倍に増加したが、年齢調整死亡率は、1996年以降ほぼ横ばいである。現在、前立腺特異抗原(PSA)による前立腺がん検診は、住民検診として、約半数の市町村が実施している。また、一部の職域や人間ドックでも、同様の前立腺がん検診が行われている。
目的
本ガイドラインは、検診に関与するすべての人々へ前立腺がん検診の有効性評価に関する適正な情報を提供することを目的とする。前立腺がん検診による死亡率減少効果を明らかにするため、関連文献の系統的総括を行い、各検診方法の死亡率減少効果と不利益に関する科学的根拠を示し、わが国における対策型・任意型検診としての実施の可否を推奨として総括する。
対象及び方法
評価の対象とした方法は、現在、わが国で主に行われている直腸診及び前立腺特異抗原(PSA)である。根拠となる文献は、MEDLINE、医学中央雑誌を中心に、さらに関連学会誌のハンド・サーチを加え、1985年1月から2006年9月に至る関連文献を抽出した。各検診方法別の直接的及び間接的証拠に基づき、証拠のレベルと不利益について検討した。最終的に、証拠のレベル及び不利益の評価から、推奨グレードを決定した。
証拠のレベル
1)直腸診については、死亡率減少効果を検討した複数の直接的証拠を認めたが、一貫した結果が認められなかった(証拠のレベル 2-)。
2)前立腺特異抗原(PSA)については、死亡率減少効果を検討した複数の直接的証拠を認めたが、一貫した結果が認められなかった(証拠のレベル 1-/2-)。
不利益
前立腺がん検診の不利益として、前立腺特異抗原(PSA)による過剰診断、直腸診・前立腺特異抗原(PSA)に共通して、精密検査の合併症及び治療による合併症を認めた。
推奨グレード
直腸診については、死亡率減少効果の有無を判断する証拠が不十分であるため、対策型検診として実施することは勧められない。任意型検診として実施する場合には、効果が不明であることと不利益について適切に説明する必要がある(推奨グレード I)。
前立腺特異抗原(PSA)は、前立腺がんの早期診断をする上で有用な検査である。しかし、死亡率減少効果の有無を判断する証拠が現状では不十分であるため、現在のところ対策型検診として実施することは勧められない。一定の評価を得るまで公共政策として取り上げるべきではなく、現在実施している場合、その継続の是非を再検討すべきである。任意型検診として実施する場合には、効果が不明であることと過剰診断を含む不利益について適切に説明する必要がある。その説明に基づく、個人の判断による受診は妨げない。現在、欧米で重要な研究が進行中であるため、それらの研究の結果が明らかになり次第、速やかに改訂を検討する(推奨グレード I)。