(旧版)科学的根拠に基づく「快適な妊娠出産のためのガイドライン」

 
Research Question

 
RQ10 ルーチンの点滴

議論・推奨への理由(安全面を含めたディスカッション)

分娩進行中に母体への薬剤投与を必要とする場合に点滴を行うことがあるが、ここでは基本的に正常分娩例に対して予防的に静脈ラインを確保し、必要がなければ維持液の点滴のみで分娩終了後に点滴抜去されるルーチンの点滴について検討した。
分娩中に点滴を行うことは苦痛と行動の制限を伴う処置であるため、産婦の快適性の観点ではその適応は的確に判断されることが肝要である。上記表のハイリスク病院でない数施設のデータによれば500mL以上の分娩時異常出血は約11〜22%であった。本研究班の全国調査では分娩時出血多量9.2%、帝王切開15.8%、分娩時特に異常無かったのが65.8%であった。これらのことから、点滴を全例にルーチンで実施する必要があるとはいえないが、出血等のリスク因子1)の状況に応じて必要な場合には適時に実施されることが望ましい。リスクマネジメントとしての静脈ルートの確保は、ヘパリンロックでかつ分娩第1期後半以降が望ましい。
しかし、本研究班の出産施設の産科責任者を対象とした全国調査では、日本全国の分娩の46.6%を扱っている診療所は常勤医師1.4人であり、慢性的なマンパワー不足である。本研究班の母親の全国調査では、診療所で帝王切開(11.4%)を含めて約67.3%(経膣分娩正期産単胎例の64.7%)の産婦に点滴が実施されていた。従って、マンパワー不足で出血の初期対応が迅速にできない可能性のある時は、事前に産婦に説明を十分にし、同意を得て血管確保のために点滴をすることは、安全性の観点からはやむを得ない場合もあると考えられる。
日本では分娩時に可能な限り、食事と水分をしっかり摂取するのが一般的である。食事をとらない事による疲労や微弱陣痛を来すこともある。また、助産師がなるべく産婦の傍近くにいて、分娩進行中に異常と正常を適切に判断できれば、ルーチンの点滴や連続CTGの使用頻度が低下すると考えられる(RQ3参照)。
以上のことから、ルーチンの点滴は医師のマンパワーと助産師の判断能力により、リスクのある産婦に限定して実施されることが望ましい。


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