(旧版)高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第2版

 
 
付録


患者からみた『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(第2版)』

日本医学ジャーナリスト協会 副会長
松井宏夫


『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(第2版)』に患者側からの意見が載る,という画期的なことが誕生した。しかし,少し考えてみると,不思議ではないように思えてきた。なぜなら,痛風は糖尿病,脂質異常症,高血圧などと同じく生活習慣病の代表疾患だからである。
生活習慣病の基本は,糖尿病がそうであるように,あくまでも患者が主体で,患者がいかに前向きに病気と付き合い,生活を改善して病気を上手にコントロールしていくか,である。つまり,医師はサポート役といえる。
ただし,私は医師をサポート役とは考えていない。患者と医師は手を握り合うパートナーと考えている。
一緒に歩む信頼できるパートナーだからこそ,医師は患者によりよい情報を与えてくれ,患者はそれを実践して,その効果の程を尿酸値の改善,コントロールのよさで裏づける。
もちろん,なかには患者にとってつらい生活改善を要求されることもある。患者としてはすべて鵜呑みにするわけではない。EBM(evidence-based medicine),科学的根拠があるのかどうかを知りたいのは当然である。
そのような場合に,患者もこのガイドラインを読むと,パートナーとしての絆は,より一段と強固なものになると思われる。
今回のガイドラインの改訂では,高血圧などのそれと同じく,表や図などが的確に挿入されており,よりわかりやすいものとなっている。
第1章の「高尿酸血症・痛風の最近の動向」では,成人男性の21.5%,あるいは26.2%が高尿酸血症と報告されている。まさに生活習慣病で,改善に努力するのは自分一人だけではない,ということがわかって心強い。
そして,「高尿酸血症のリスク」へと続く。痛風関節炎・痛風結節,腎障害,尿路結石,メタボリックシンドロームとの関連,悪性腫瘍等々。
高尿酸血症患者は多いが,糖尿病と違い,患者の多くはどういうわけか,合併症を怖いとは思っていない傾向が強い。主治医の多くが患者を合併症の恐怖に陥れないように配慮していると思われて嬉しい。だからといって,生活改善を緩めてよいというのではない。
生活習慣と痛風のコホート研究で,「肉類,砂糖入りソフトドリンクや果糖の摂取量の多い集団,BMIの高い集団は痛風になりやすい」とされた。また,「アルコール摂取量の多い集団ほど痛風リスクが高く」,「ビールやスピリッツは痛風発症リスクが1.5倍,1.2倍高かった」と示された。逆に「コーヒー摂取量が多い,ランニング距離が長い集団や適度な運動をする集団は痛風発症リスクが低かった」といわれている。
慢性腎臓病(CKD)と痛風を合併している人では,キレート治療で体内鉛蓄積を減少させると尿酸クリアランスは大いに改善する。これが「推奨度A」である。
確かに知っておくべきこと,状態によって治療に取り入れるべきことは推奨度が高くなっており,その評価も確実と思え,信頼性が高い。
そんな中,推奨度はBながら,「血清尿酸値の上昇に伴って,悪性腫瘍による死亡の増加」が報告された。少し知識のある患者であれば,尿酸は抗酸化に作用するので,逆に悪性腫瘍を抑えると思っていたはず。この点でも患者にとって甘えの道は,またひとつ閉ざされたと言ってよい。さらなる研究が望まれる。
そして,「高尿酸血症・痛風の診断」と「治療」。ここは,高尿酸血症・痛風の専門医のみならず,他の内科,整形外科,皮膚科などの各医師にも積極的に手にとって熟読してもらいたい。といっても難しいので,高尿酸血症・痛風の専門医には是非,この診断・治療を広く啓発していただきたい。それをあえて言うのは,実は的確な治療を受けていない患者が実に多いからである。
高尿酸血症・痛風は“代表的”生活習慣病である。それならばなおのこと,家庭医,プライマリ・ケア医も問題なく治療し,特別な場合は的確に専門医に患者を送ることができて当然と思われる。その道筋をつけるのに,本ガイドラインが役立つと思われる。
たとえば,皮膚科で痛風治療を受けており,痛風結節ができても的確な治療が行われていないケース,高血圧と痛風の治療を受けている人が痛風を起こす降圧薬と利尿薬の合剤を処方されているケースなどがあるからである。
生活指導の基本は「3食規則正しく腹八分,栄養バランスのよい食生活,そして適度な運動」である。できるようでできない,最も問題の多いところではあるが,ここは主治医と患者がパートナーとしてそれぞれに合ったやり方で効果を発揮するところであり,十人十色であろう。
最後に,これだけ素晴しいガイドラインができたのだから,今後,さらによいガイドライン作成につなげるために,患者側からの希望を少々箇条書きに記して終わりたい。
・  痛風を引き起こす可能性のある薬剤リストを掲載していただきたい。
・  食品のプリン体含有量リスト以外に,普通1食に食べる量の中にどれくらいプリン体が含有されているかのリストもあると,よりわかりやすい。
・  痛風とストレスは大きく関係すると思われるが,その点での項目を加えていただきたい。さらにいえば,日本痛風・核酸代謝学会から,『患者のための高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン』が出版されると,どんなにか喜ぶ患者は多いだろう。


 

 
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