(旧版)高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第2版
第3章 高尿酸血症・痛風の治療 |
3.合併症・併発症を有する患者の治療 |
5.メタボリックシンドローム |
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1.メタボリックシンドロームの治療目的
メタボリックシンドロームは,内臓脂肪蓄積を上流因子として,インスリン抵抗性/耐糖能異常,動脈硬化惹起性リポ蛋白異常,血圧高値を個人に合併する心血管系疾患易発症状態である。メタボリックシンドロームにおける高尿酸血症の病態意義は不明で,メタボリックシンドロームの診断基準項目に血清尿酸値は含まれていない。しかし,高尿酸血症・痛風はメタボリックシンドロームによくみられる病態であるというエビデンスは多い1)- 7)。したがって,高尿酸血症・痛風患者の実地診療にあたっては,メタボリックシンドロームの有無を検査し,血清尿酸値のみならず肥満,血圧,血清脂質,血糖値などについてもトータルなケアを行い,本症候群の臨床的帰結である動脈硬化性疾患や2型糖尿病の発症予防や進展阻止に努めることが重要である。同時にメタボリックシンドロームを是正することにより,血清尿酸値の改善効果も期待できる。
2.生活習慣の改善
メタボリックシンドロームが増加している背景には,過栄養や運動不足など,現代社会における悪しき生活習慣に負うところが大きい。したがって,メタボリックシンドロームの治療の基本は生活習慣の改善にあり,食事療法や運動療法により本症候群に伴う各種病態の改善が認められている。米国の糖尿病予防試験(Diabetes Prevention Program ; DPP)では,耐糖能異常者(総参加者3,234人のうち53%がメタボリックシンドロームを合併)に対して低カロリー・低脂肪食の食事療法と,少なくとも週に150分間以上の運動療法により7%の体重減量を目標とする治療介入を実施したところ,メタボリックシンドロームの軽快や発症阻止効果が認められた8)9)。さらに,糖尿病の新規発症予防には,メトホルミン(ビグアナイド薬)治療群を上回る効果が認められている10)。運動療法単独でもメタボリックシンドロームの各種病態の改善が認められるが,食事療法などと組み合わせて体重減少を伴うほうがその効果はより増強される11)12)。生活習慣を改善する努力は,たとえ薬物療法導入後も継続していく必要がある。そのためには,行動療法的な手法を取り入れながら,コメディカルを含む医療チームによって患者支援を行うことも重要である。
3.尿酸代謝に対する治療効果
体重減量治療により,内臓脂肪蓄積やインスリン抵抗性が改善し,血清尿酸値も低下する13)。体重減少に伴い,尿酸クリアランスは増加する14)。
4.薬物療法
メタボリックシンドロームに対する包括的な薬剤は開発されていない。生活習慣の改善のみでは効果が乏しい場合や,十分な効果が期待できない場合は,合併する個々の構成疾患に対する薬物療法を行う。この際,高尿酸血症・痛風合併例については,尿酸代謝への影響も考慮して薬剤を選択する。薬物療法の実際は,高血圧や脂質異常症については本ガイドライン⇒「高血圧・心血管系疾患」と「脂質異常症」を,糖尿病については,日本糖尿病学会編集の『糖尿病治療ガイド2008-2009』15)を参照されたい。動脈硬化性疾患の抑制効果に対しては,α グルコシダーゼ阻害薬,チアゾリジン薬および肥満糖尿病患者におけるメトホルミンに一定のエビデンスがある16)。
高尿酸血症に対する薬物療法は,メタボリックシンドローム合併時も,一般的な高尿酸血症治療法と同様に病型分類と尿路結石や腎障害の有無に基づいて尿酸降下薬を選択する。メタボリックシンドロームでは尿路結石の合併率が高いため17),尿量確保や尿アルカリ化薬投与など,尿路管理に留意する。
注意事項
①過度の食事療法による急激な体重減量によって,血清尿酸値が一時的に上昇する場合がある18。また,強い負荷の運動は無酸素運動に陥りやすく血清尿酸値を上昇させ,同時に関節組織への物理的加重も増大するため,痛風発作を誘発するリスクを伴う。食事療法や運動療法の導入は,痛風発作をきたしやすい時期を避け,患者の経過を観察しながら緩徐に実施していくべきである。日本肥満学会は,まず現在の体重ないしウエスト周囲径の5%程度の減少を目標とするよう勧告している19)。
②耐糖能が悪化して,尿糖陽性の糖尿病型となると,腎臓からの尿酸排泄は亢進し,血清尿酸値は低下する。良好な血糖コントロールが得られた時点で,血清尿酸値の再評価を行う必要がある。
①過度の食事療法による急激な体重減量によって,血清尿酸値が一時的に上昇する場合がある18。また,強い負荷の運動は無酸素運動に陥りやすく血清尿酸値を上昇させ,同時に関節組織への物理的加重も増大するため,痛風発作を誘発するリスクを伴う。食事療法や運動療法の導入は,痛風発作をきたしやすい時期を避け,患者の経過を観察しながら緩徐に実施していくべきである。日本肥満学会は,まず現在の体重ないしウエスト周囲径の5%程度の減少を目標とするよう勧告している19)。
②耐糖能が悪化して,尿糖陽性の糖尿病型となると,腎臓からの尿酸排泄は亢進し,血清尿酸値は低下する。良好な血糖コントロールが得られた時点で,血清尿酸値の再評価を行う必要がある。
文献
1) | Choi HK, Ford ES : Prevalence of the metabolic syndrome in individuals with hyperuricemia. Am J Med 120 :442-447, 2007![]() |
2) | Nakanishi N, Okamoto M, Yoshida H, et al : Serum uric acid and risk for development of hypertension and impaired fasting glucose or TypeⅡdiabetes in Japanese male office workers. Eur J Epidemiol 18 :523-530,2003![]() |
3) | Nakanishi N, Nishina K, Okamoto M, et al : Clustering of components of the metabolic syndrome and risk for development of type 2 diabetes in Japanese male office workers. Diabetes Res Clin Pract 63 :185-194,2004![]() |
4) | Novak S, Melkonian AK, Patel PA, et al : Metabolic syndrome-related conditions among people with and without gout ; Prevalence and resource use. Curr Med Res Opin 23 :623-630,2007![]() |
5) | Onat A, Uyarel H, Hergenξ G, et al : Serum uric acid is a determinant of metabolic syndrome in a population-based study. Am J Hypertens 19 :1055-1062,2006![]() |
6) | Lee J, Sparrow D, Vokonas PS, et al : Uric acid and coronary heart disease risk ; Evidence for a role of uric acid in the obesity-insulin resistance syndrome ; The Normative Aging Study. Am J Epidemiol 142 :288-294,1995![]() |
7) | Choi HK, Ford ES, Li C, et al : Prevalence of the metabolic syndrome in patients with gout ; The Third National Health and Nutrition Examination Survey. Arthritis Rheum 57 :109-115,2007![]() |
8) | Orchard TJ, Temprosa M, Goldberg R, et al ; Diabetes Prevention Program Research Group : The effect of metformin and intensive lifestyle intervention on the metabolic syndrome ; The Diabetes Prevention Program randomized trial. Ann Intern Med 142 :611-619,2005![]() |
9) | Ratner R, Goldberg R, Haffner S, et al ; Diabetes Prevention Program Research Group : Impact of intensive lifestyle and metformin therapy on cardiovascular disease risk factors in the diabetes prevention program. Diabetes Care 28 :888-894, 2005![]() |
10) | Knowler WC, Barrett-Connor E, Fowler SE, et al ; Diabetes Prevention Program Research Group : Reduction in the incidence of type 2 diabetes with lifestyle intervention or metformin. N Engl J Med 346 :393-403,2002![]() |
11) | Watkins LL, Sherwood A, Feinglos M, et al : Effects of exercise and weight loss on cardiac risk factors associated with syndrome X. Arch Intern Med 163 :1889-1895,2003![]() |
12) | Anderssen SA, Carroll S, Urdal P, et al : Combined diet and exercise intervention reverses the metabolic syndrome in middle-aged males ; Results from the Oslo Diet and Exercise Study. Scand J Med Sci Sports 17 :687-695,2007![]() |
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14) | Yamashita S, Matsuzawa Y, Tokunaga K, et al : Studies on the impaired metabolism of uric acid in obese subjects ; Marked reduction of renal urate excretion and its improvement by a low-calorie diet. Int J Obes 10 :255-264,1986![]() |
15) | 日本糖尿病学会編:糖尿病治療ガイド2008-2009.東京,文光堂,2008 |
16) | 日本糖尿病学会編:科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン(改訂第2版).東京,南江堂,2007 |
17) | Abate N, Chandalia M, Cabo-Chan AV Jr, et al : The metabolic syndrome and uric acid nephrolithiasis ; Novel features of renal manifestation of insulin resistance. Kidney Int 65 :386-392,2004![]() |
18) | Arai K, Miura J, Ohno M, et al : Comparison of clinical usefulness of very-low-calorie diet and supplemental low-calorie diet. Am J Clin Nutr 56(Suppl.):275S-276S,1992![]() |
19) | 肥満症治療ガイドライン作成委員会編:肥満症治療ガイドライン2006.東京,日本肥満学会,2006 |
本ページは、『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第2版[2012年追補版]』にもとづいて作成しています。