(旧版)高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第2版

 
第3章 高尿酸血症・痛風の治療
2.高尿酸血症の治療

3.痛風関節炎,痛風結節のない高尿酸血症(無症候性高尿酸血症)に対する治療

●ステートメント
無症候性高尿酸血症の段階で,高尿酸血症を基盤とする痛風関節炎,痛風結節,腎障害,尿路結石の発症を防ぐために血清尿酸値を低下させることが望ましい。エビデンス3コンセンサス2推奨度B

血清尿酸値を下げるために生活習慣の改善を指導することが重要であり,具体的にはアルコール飲料やプリン体,果糖,ショ糖やカロリーの過剰摂取を避け,また過激な運動は控えるように指導する。
エビデンス3コンセンサス1推奨度A

生活習慣の改善にもかかわらず血清尿酸値が9.0mg/dL 以上の無症候性高尿酸血症では薬物療法を考慮する。また尿路結石,腎疾患,高血圧などの合併がある場合は,血清尿酸値が8.0mg/dL 以上で薬物療法を考慮する。
エビデンス3コンセンサス2推奨度B


   痛風発作(急性痛風関節炎),痛風結節,腎障害などの臨床症状のない高尿酸血症を「無症候性高尿酸血症」と称する。この段階で高尿酸血症を基盤とする痛風関節炎,痛風結節,腎障害,尿路結石の発症を防ぐために血清尿酸値を低下させることが望ましい。

1.背景となるエビデンス
無症候性高尿酸血症を長年にわたって追跡すると,追跡開始時の血清尿酸値が高いほど痛風関節炎の発症率も高くなることが知られており,14年間の追跡調査において,血清尿酸値が7.0~7.9mg/dL で16%,8.0~8.9mg/dLで25%,9.0mg/dL 以上では90%が痛風関節炎を発症した1)。別の15年間にわたる健常男性の追跡調査では,追跡開始時の血清尿酸値が7.0mg/dL 未満で毎年0.1%,7.0~8.9mg/dL で毎年0.5%,9.0mg/dL 以上では毎年4.9%が痛風関節炎を発症した2)。さらに男性高尿酸血症例の5年間にわたる追跡調査では,痛風関節炎発症の予測因子として追跡開始時の血清尿酸値とその増加度,飲酒,体重の増加度が指摘されている3)
   高尿酸血症患者では尿路結石の発症も多いことが知られており,前向き追跡調査で,追跡開始時に高尿酸血症(血清尿酸値:男性8.0mg/dL 以上,女性6.8mg/dL 以上)の患者は尿路結石の年間発症率が0.3%(1/295)であり,一方,正常血清尿酸値群では0.1%(1/852)であった4)。また,無症候性高尿酸血症を尿酸降下薬治療群と無治療群で比較すると,44週間の経過観察後,尿路結石の発症は尿酸降下薬治療群で0%,無治療群では7.6%であった5)。痛風患者では高尿酸血症の持続により腎障害(痛風腎)が発症するが,高尿酸血症による腎障害が痛風関節炎発症前に出現するかどうかは明らかではない。しかしながら,IgA 腎症やその他の慢性糸球体腎炎の患者を長年にわたり追跡調査すると,調査開始時の血清尿酸値が高い群では正常群と比較して,腎機能の悪化が速い6)
   高血圧に伴う高尿酸血症は心血管イベントの危険因子である可能性が高いことが知られている7)8)。さらに高血圧をコントロールした高血圧患者の前向き追跡調査では血清尿酸値が男性7.5mg/dL 以上,女性6.3mg/dL 以上で心血管リスクが増加することも明らかにされている9)

2.治療の適応と実際
   血清尿酸値を下げるために生活習慣の改善を指導することが重要である。特にアルコール,プリン体摂取と肥満には注意する必要があり,アルコール飲料,プリン体やカロリーの過剰摂取は避ける10)11)。果糖,ショ糖は血清尿酸値を増加させるので,これらを多く含む飲料や果物の過剰摂取は注意が必要である12)。尿路の結石を予防するため,1日2,000mL以上の尿量の確保を目指し,水分をとるようにする。また,強い負荷の運動は無酸素運動に陥りやすく血清尿酸値を上昇させるので,控えるように指導する。生活習慣の改善にもかかわらず血清尿酸値が9.0mg/dL以上のいわゆる無症候性高尿酸血症では薬物療法を考慮する。また尿路結石,腎疾患,高血圧などの合併がある場合,血清尿酸値が8.0mg/dL以上で薬物療法を考慮する。血清尿酸値を増加させる薬剤(利尿薬,サリチル酸,ピラジナミドなど)の服用に注意を払い,なるべく血清尿酸値を上昇させないようにすることが大切である。

文献
1)Hall AP, Barry PE, Dawber TR, et al : Epidemiology of gout and hyperuricemia ; A long-term population study. Am J Med 42 :27-37,1967エビデンス2a[TY 追加]
2)Campion EW, Glynn RJ, DeLabry LO : Asymptomatic hyperuricemia ; Risks and consequences in the Normative Aging Study. Am J Med 82 :421-426,1987エビデンス2a
3)Lin KC, Lin HY, Chou P : The interaction between uric acid level and other risk factors on the development of gout among asymptomatic hyperuricemic men in a prospective study. J Rheumatol 27 :1501-1505,2000エビデンス2a[TY 追加]
4)Fessel WJ : Renal outcomes of gout and hyperuricemia. Am J Med 67 :74-82,1979エビデンス2a
5)細谷龍男,河野英男,池田斉,他:無症候性高尿酸血症の予後に関する研究-Ⅰ.リウマチ25:369-371,1985エビデンス3[TY 追加]
6)Ohno I, Hosoya T, Gomi H, et al : Serum uric acid and renal prognosis in patients with IgA nephropathy. Nephron 87 :333-339, 2001エビデンス2b[TY 追加]
7)Verdecchia P, Schillaci G, Reboldi G, et al : Relation between serum uric acid and risk of cardiovascular disease in essential hypertension ; The PIUMA study. Hypertension 36 :1072-1078,2000エビデンス2a[TY 追加]
8)Franse LV, Pahor M, Di Bari M, et al : Serum uric acid, diuretic treatment and risk of cardiovascular events in the Systolic Hypertension in the Elderly Program(SHEP). J Hypertens 18 :1149-1154,2000エビデンス2a
9)Alderman MH, Cohen H, Madhavan S, et al : Serum uric acid and cardiovascular events in successfully treated hypertensive patients. Hypertension 34 :144-150,1999エビデンス2a
10)Choi HK, Curhan G : Beer, liquor, and wine consumption and serum uric acid level ; The Third National Health and Nutrition Examination Survey. Arthritis Rheum 51 :1023-1029,2004エビデンス2a[TY 追加]
11)Choi HK, Liu S, Curhan G : Intake of purine-rich foods, protein, and dairy products and relationship to serum levels of uric acid ; The Third National Health and Nutrition Examination Survey. Arthritis Rheum 52 :283-289,2005エビデンス2a[TY 追加]
12)Choi JW, Ford ES, Gao X, et al : Sugar-sweetened soft drinks, diet soft drinks, and serum uric acid level ; The Third National Health and Nutrition Examination Survey. Arthritis Rheum 59 :109-116,2008エビデンス2a


本ページは、『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第2版[2012年追補版]』にもとづいて作成しています。

 
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