(旧版)高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第2版
第1章 高尿酸血症・痛風の最近のトレンドとリスク
3. 高尿酸血症のリスク
6)悪性腫瘍
6)悪性腫瘍
|
尿酸は抗酸化活性を有することから,発癌を抑制する可能性が以前から示唆され,その可能性を検討するため,悪性腫瘍との関連についての前向きコホート研究が行われてきた(表1)1),2),3),4),5),6),7),8),9),10),11)。これらの研究では,ほとんどの場合,観察開始時の血清尿酸値とその後の悪性腫瘍による死亡との関連が検討されている。血清尿酸値に性差があることから,男女で分けて検討してある報告が多い。当然のことながら,これらの検討では,発癌に影響を与える,年齢,喫煙,アルコール,体重などを考慮して解析が行われている。
米国における16万人以上を対象とした大規模な検討3)では,全癌,肺,大腸,前立腺,乳腺,子宮の癌について調査され,いずれの部位においても観察開始時の血清尿酸値と悪性腫瘍による死亡との間に有意な関連は認められなかった。一方,同じく米国において,女性の全癌による死亡率が観察開始時の血清尿酸値と有意に関連して高くなるとする報告4)や,男性において膵臓癌による死亡が血清尿酸値とともに有意に増加したとする報告がある7)。なお,1983年のスウェーデンからの報告1)は,血清尿酸値が観察開始後2年半の間の癌による死亡の増加とのみ関連したことから,血清尿酸値測定時にすでに存在していた悪性腫瘍の存在を反映するものと論文中で解釈されている。最近のオーストラリアからの大規模な調査結果では,男女ともに血清尿酸値と悪性腫瘍による死亡とが有意な関連を有すると報告された10),11)。すなわち,血清尿酸値の上昇に伴って,悪性腫瘍による死亡の増加が報告されており,当初想定された尿酸の役割とは異なった結果が得られている。部位別では,全癌の他に,男性では呼吸器,消化器,女性では乳腺,生殖器の癌による死亡の増加が観察されている。これらの調査では,観察開始直後の2年間の死亡は除外してあり,観察開始時に存在した悪性腫瘍の影響はほぼ除外された状況で検討されている。
日本人については,ハワイ在住の男性について,血清尿酸値は全癌,胃,大腸,肺などの癌と関連しなかったと報告されている5)。広島・長崎の原爆被爆者を対象とした調査において,血清尿酸値と全癌による死亡との間に関連はなかったが,肺癌による死亡が血清尿酸値の上昇とともに低下する傾向が認められたとする学会報告がある12)。また,韓国人男性における大規模な検討で,血清尿酸値は癌による死亡と関連しなかったとされる9)。
悪性腫瘍の予後との関連についても報告されている。慢性リンパ性白血病13)および終末期の癌患者14)において,血清尿酸値の増加は乳酸脱水素酵素(LDH)などの補正後も,より短い生存期間と関連したことが示されている。
以前に仮定されていた尿酸の抗酸化作用による発癌抑制作用については,海外の報告では否定的なものが多い。むしろ,血清尿酸値の上昇とともに悪性腫瘍による死亡が増加することが示唆されている。一方,インスリン抵抗性や高インスリン血症は発癌との関連が示唆されており,血清尿酸値と悪性腫瘍との関連を考える際にはこれらの要因についても考慮が必要である。
表1 血清尿酸値と悪性腫瘍による死亡との関連:一般集団における前向きコホート研究
文献
米国における16万人以上を対象とした大規模な検討3)では,全癌,肺,大腸,前立腺,乳腺,子宮の癌について調査され,いずれの部位においても観察開始時の血清尿酸値と悪性腫瘍による死亡との間に有意な関連は認められなかった。一方,同じく米国において,女性の全癌による死亡率が観察開始時の血清尿酸値と有意に関連して高くなるとする報告4)や,男性において膵臓癌による死亡が血清尿酸値とともに有意に増加したとする報告がある7)。なお,1983年のスウェーデンからの報告1)は,血清尿酸値が観察開始後2年半の間の癌による死亡の増加とのみ関連したことから,血清尿酸値測定時にすでに存在していた悪性腫瘍の存在を反映するものと論文中で解釈されている。最近のオーストラリアからの大規模な調査結果では,男女ともに血清尿酸値と悪性腫瘍による死亡とが有意な関連を有すると報告された10),11)。すなわち,血清尿酸値の上昇に伴って,悪性腫瘍による死亡の増加が報告されており,当初想定された尿酸の役割とは異なった結果が得られている。部位別では,全癌の他に,男性では呼吸器,消化器,女性では乳腺,生殖器の癌による死亡の増加が観察されている。これらの調査では,観察開始直後の2年間の死亡は除外してあり,観察開始時に存在した悪性腫瘍の影響はほぼ除外された状況で検討されている。
日本人については,ハワイ在住の男性について,血清尿酸値は全癌,胃,大腸,肺などの癌と関連しなかったと報告されている5)。広島・長崎の原爆被爆者を対象とした調査において,血清尿酸値と全癌による死亡との間に関連はなかったが,肺癌による死亡が血清尿酸値の上昇とともに低下する傾向が認められたとする学会報告がある12)。また,韓国人男性における大規模な検討で,血清尿酸値は癌による死亡と関連しなかったとされる9)。
悪性腫瘍の予後との関連についても報告されている。慢性リンパ性白血病13)および終末期の癌患者14)において,血清尿酸値の増加は乳酸脱水素酵素(LDH)などの補正後も,より短い生存期間と関連したことが示されている。
以前に仮定されていた尿酸の抗酸化作用による発癌抑制作用については,海外の報告では否定的なものが多い。むしろ,血清尿酸値の上昇とともに悪性腫瘍による死亡が増加することが示唆されている。一方,インスリン抵抗性や高インスリン血症は発癌との関連が示唆されており,血清尿酸値と悪性腫瘍との関連を考える際にはこれらの要因についても考慮が必要である。
表1 血清尿酸値と悪性腫瘍による死亡との関連:一般集団における前向きコホート研究

文献
1) | Petersson B, Trell E: Raised serum urate concentration as risk factor for premature mortality in middle aged men; Relation to death from cancer. Br Med J(Clin Res Ed)287: 7-9,1983 ![]() |
2) | Takkunen H, Reunanen A, Aromaa A, et al: Raised serum urate concentration as risk factor for premature mortality in middle aged men. Br Med J(Clin Res Ed)288: 1161,1984 ![]() |
3) | Hiatt RA, Fireman BH: Serum uric acid unrelated to cancer incidence in humans. Cancer Res 48: 2916-2918, 1988 ![]() |
4) | Levine W, Dyer AR, Shekelle RB, et al: Serum uric acid and 11.5-year mortality of middle-aged women; Findings of the Chicago Heart Association Detection Project in Industry. J Clin Epidemiol 42: 257-267,1989 ![]() |
5) | Kolonel LN, Yoshizawa C, Nomura AM, et al: Relationship of serum uric acid to cancer occurrence in a prospective male cohort. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 3: 225-228,1994 ![]() |
6) | Mazza A, Casiglia E, Scarpa R, et al: Predictors of cancer mortality in elderly subjects. Eur J Epidemiol 15: 421-427, 1999 ![]() |
7) | Gapstur SM, Gann PH, Lowe W, et al: Abnormal glucose metabolism and pancreatic cancer mortality. JAMA 283: 2552-2558,2000 ![]() |
8) | Colangelo LA, Gapstur SM, Gann PH, et al: Colorectal cancer mortality and factors related to the insulin resistance syndrome. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 11: 385-391,2002 ![]() |
9) | Jee SH, Lee SY, Kim MT : Serum uric acid and risk of death from cancer, cardiovascular disease or all causes in men. Eur J Cardiovasc Prev Rehabil 11: 185-191,2004 ![]() |
10) | Strasak AM, Rapp K, Hilbe W, et al; VHM&PP Study Group : The role of serum uric acid as an antioxidant protecting against cancer; Prospective study in more than 28000 older Austrian women. Ann Oncol 18: 1893-1897,2007 ![]() |
11) | Strasak AM, Rapp K, Hilbe W, et al; VHM&PP Study Group: Serum uric acid and risk of cancer mortality in a large prospective male cohort. Cancer Causes Control 18: 1021-1029,2007 ![]() |
12) | 箱田雅之,笠置文善,藤原佐枝子:血清尿酸値と発癌との関連についての検討.痛風と核酸代謝 29:44,2005 ![]() |
13) | Lee JS, Dixon DO, Kantarjian HM, et al: Prognosis of chronic lymphocytic leukemia; A multivariate regression analysis of 325 untreated patients. Blood 69: 929-936,1987 ![]() |
14) | Shin HS, Lee HR, Lee DC, et al: Uric acid as a prognostic factor for survival time; A prospective cohort study of terminally ill cancer patients. J Pain Symptom Manage 31: 493-501,2006 ![]() |