(旧版)高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第2版

 
 
総論


本ガイドラインの概要と評価
本ガイドライン改訂の経緯については前項に記載したが,ガイドライン評価に関わる概要に関して以下に記載する。

1 要約 Summary
日本痛風・核酸代謝学会が作成した『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(第2版)』は2010年1月1日に株式会社メディカルレビュー社より出版された。出版日より1年を経過した時点で,日本痛風・核酸代謝学会ホームページならびに財団法人日本医療機能評価機構のホームページMinds(http://minds.jcqhc.or.jp/)に掲載する予定である。

2 焦点 Focus
本ガイドラインは,血清尿酸値のリスクを解説し,高尿酸血症・痛風の診断・治療に焦点を当てている。
高尿酸血症・痛風の治療法として,薬物療法,食事療法について既存のエビデンスを検討し,推奨を行った。
日本で認められていない治療法,海外では質の高いエビデンスで有効性が示されているが国内での使用経験が乏しい治療法なども検討対象とし,エビデンスに基づいて推奨している。さらにエビデンスの十分でない分野を補完するためにデルファイ法を用いた合意形成を実施し,コンセンサスの程度を明示した。推奨度の決定はエビデンスレベルを基本とし,コンセンサスの程度を加味して行った。

3 目標 Goal
治療ガイドラインとは一般的に,「特定の臨床状況において,適切な判断を行うために,臨床家と患者を支援する目的で系統的に作成された文書」とされている。
本ガイドラインの目標は,「高尿酸血症・痛風の診断・治療における意思決定を支援する推奨を系統的に示すことで,高尿酸血症・痛風の診療全般の質を向上させること」である。

4 利用者・利用場面 Users/setting
本ガイドラインの主たる利用者は,高尿酸血症・痛風の診療にあたる医師(標榜科は問わない)を想定しているが,それらに限定するものではない。看護師,薬剤師,管理栄養士など高尿酸血症・痛風の診療に関与する医療関係者も含まれる。患者・その家族などによる本ガイドラインの利用については別に述べる。

5 対象集団 Target population
本ガイドラインの推奨は,外来,入院,または在宅における高尿酸血症・痛風の患者を対象とする。しかし,本疾患の多くが外来で治療を受けていることから,一般的な外来患者を主として想定している。

6 作成者 Developer
(1) 所属はフルネームで,関連資格を明示した。
(2) ガイドライン改訂作業に関わった委員のうち,ガイドライン改訂委員,エビデンスブック作成委員,リエゾン委員はいずれも日本痛風・核酸代謝学会の会員である。ガイドライン改訂委員長は,日本痛風・核酸代謝学会の理事長が指名し,理事会にて決定された。ガイドライン改訂委員,エビデンスブック作成委員,リエゾン委員はガイドライン改訂委員長が指名し,理事会にて決定された。
(3) 外部評価委員は全員,日本痛風・核酸代謝学会の非会員である。
(4) 利益相反の可能性については,本ガイドライン改訂委員会という組織レベルのものと,改訂委員の個人レベルのものがある。個人レベルの利益相反の適切な扱いは国内外で重要な課題と認識されているが,そのルールはそれぞれの作成主体(国レベル,各学会など)で模索されている状況である。本委員会では試行的に下記の方針を採った。詳細はガイドライン改訂作業の経過 13「高尿酸血症・痛風の診療ガイドライン」改訂に関する利益相反の取り扱いについてに記載した。
第1回ガイドライン改訂委員会の招集の前,1年以内に本ガイドラインが扱う内容と関連があるとみなされる企業から提供されたなんらかの謝金,研究費,その他の資金,同等とみなされる便宜について扱う。各委員は委員長,事務局にその事実を申告する。
大学などの研究機関においては,教授などの講座責任者の名義で,企業から講座に提供される奨学寄付金も含む。
本ガイドライン上での利益相反の開示は,個別ではなく,各委員から申告のあった企業名をリストとして提示する。


7 資金提供者・スポンサー Funding source/sponsor
本ガイドラインは日本痛風・核酸代謝学会の運営費によって作成された。その他,財団法人痛風研究会から2006年度に100万円の研究助成を受けた。
上記以外には,日本痛風・核酸代謝学会は本ガイドラインの作成に際して,特定の団体・企業からの支援を一切受けていない。
また,本ガイドライン改訂委員会は学会と別個に,製薬会社などの企業から資金やその他の支援は一切受けていない。

8 エビデンスの収集 Evidence collection
PubMed 検索は,1966年から2008年8月31日までを検索(すべてLimits: only items with links to full text,English OR Japanese,Humans)しても,以下の通り総数が少なかった。
Search urate 7,076件
Search gout 2,716件
Search hyperuricemia    1,396件
加えて,PICO,PECOをキーワードとして検索すると多くの文献が漏れることが判明したため,ガイドライン改訂作業の経過表4に示すように,研究デザインから包括的な検索を行った。総数1,058件のうち重複を除いた697件につき,ガイドラインの科学的根拠として必要な文献かの1次スクリーニングを行い,492件を章立てに従って振り分けた。

医学中央雑誌Webについても同様に検索した。
採択基準としては,ランダム化比較試験(RCT)のシステマティック・レビュー,個々のRCTの文献を優先し,それがない場合はコホート研究,ケースコントロール研究などの観察研究の文献を採用した。さらにそれらもない場合は症例集積(ケースシリーズ),横断研究の文献まで拡大した。
動物実験や基礎的な知見に関する文献は除外した。

9 推奨度決定基準 Recommendation grading criteria
本ガイドラインの作成にあたっては,コンセンサスレベルに基づき,推奨度を決定した。詳細はガイドライン改訂作業の経過 8コンセンサスレベル-デイファイ法を用いた合意形成についてに記した。

10 エビデンスの統合のための手法 Method for synthesizing evidence
エビデンスを統合するためには,個々の文献の主たる知見を抽出してエビデンス・テーブルを作成し,それぞれの特徴を比較・評価した。検索でシステマティック・レビュー,メタ・アナリシスの文献が得られた場合はその結果を参照した。本ガイドラインの作成に際して,新たにメタ・アナリシス,決断分析は実施しなかった。

11 リリース前のレビュー Prerelease review
本ガイドラインを一般公開する前に,記載形式についてはCOGS(conference on guideline standardization)の提案,記述内容についてはAGREE(appraisal of guidelines for research and evaluation instrument)の評価法を参照してレビューを行った。
本ガイドラインの公開に先立ち,2009年7月にはガイドラインの一般的な利用者と考えられる学会員を対象として,臨床での使い勝手について調査を行い,適宜,その結果を反映させた。
さらに,高尿酸血症・痛風と関連する領域の11の学会に所属し,当学会には所属しない11名の外部評価委員を委嘱し,ドラフト段階でガイドラインの外部評価を依頼した。指摘された問題点は内容の修正に反映した。外部評価委員の一覧は巻頭に示した。

12 更新の計画 Update plan
本ガイドラインは3年を目途に更新を行う予定である。
本ガイドラインの公開後は,新たな改訂委員会の組織化に向けて調整を開始する。
新しく発表されるエビデンスを系統的に把握してレビューを行い,ガイドライン更新に供する資料とするためのワーキンググループを設置する。
ガイドラインの部分的更新が必要となった場合は,適宜,学会ホームページに掲載する。

13 定義  Definitions
以下のように語句を統一した。
尿酸産生阻害薬     →     尿酸生成抑制薬    
尿酸過産生型 尿酸産生過剰型
痛風性関節炎 痛風関節炎
血清尿酸 血清尿酸値
尿酸塩蓄積症 尿酸塩沈着症


14 推奨および理由説明 Recommendations and rationale
推奨と,その根拠となる文献の具体的な関係は,ガイドライン本文の各項目で記述する。
本ガイドラインでは系統的に臨床的疑問を挙げ,それらに対して9で示した方式に沿ってエビデンスをレビューし,推奨度を示した。しかし,本ガイドラインの示す推奨は,経験のある医療者の判断に代わるものではなく,あくまでも意思決定を支援するものであることを重ねて強調する。

15 考えられる利益と害 Potential benefits and harms
本ガイドラインの推奨を実施することで,高尿酸血症・痛風の診療の質が向上することが期待される。
推奨の実施による利益と害については,必要に応じて各項目で述べる。

16 患者の希望 Patient preferences
本ガイドラインにおける推奨の決定に際して,患者または介護者の希望を積極的に考慮することはしていない。しかし,個々の患者,臨床状況に対応する際に,ガイドラインの推奨を一律に適用することは,ガイドラインの趣旨に照らして本末転倒といえる。
現場での意思決定は,常に,ガイドラインをはじめとするエビデンスや推奨,医療者の経験・専門性,そして患者・介護者の希望,価値観を勘案して行われる必要があることを重ねて強調するものである。
今回は,従来のガイドラインではなかった新たな試みとして,患者さんの1人に外部評価委員としてドラフトを評価していただき,さらに外部評価を通して得られたコメントを記載していただいた。
ガイドラインの将来的な改訂では,患者・介護者の希望を反映する取り組みについても検討する予定である。

17 アルゴリズム Algorithm
高尿酸血症の治療手段に関するアルゴリズムを第3章 高尿酸血症・痛風の治療 2 高尿酸血症の治療「図1 高尿酸血症の治療指針」に記載した。これは第1版に用いられた図を改良したものである。

18 実施における検討事項 Implementation considerations
本ガイドラインでは,原則として薬物を商品名ではなく一般名で記述している。
その主な理由は,一部の商品をガイドライン中で言及することは公平性を欠くため,後発品を完全にカバーし,その情報を更新していくことは作成委員会の作業負担が過重になるためである。


 

 
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