(旧版)不整脈の非薬物治療ガイドライン(2006年改訂版)
VII.外科手術 |
(1)心房細動
Class I:
- 僧帽弁疾患に合併した心房細動で,弁形成術または人工弁置換術を行う場合
- 器質的心疾患に対する心臓手術を行う場合
- 血栓溶解療法抵抗性の左房内血栓症の合併,または適切な抗凝固療法にも関わらず左房内血栓に起因する塞栓症の既往を有する場合
- カテーテルアブレーションの不成功例または再発例
- 孤立性心房細動で,動悸などの自覚症状が強く,QOLの著しい低下があり,薬物治療抵抗性または副作用のため使用不能な場合
- 薬物治療が無効な発作性心房細動で,除細動などの救急治療を繰り返している場合
- 心房及び心胸郭比の著明な拡大があり,手術を行っても洞調律復帰が困難,または洞調律に復帰しても有効な心房収縮が得難い場合
心房細動に対するmaze手術の開発と成功は1990年代初期における最も輝かしい成果の一つと言える335,336,338,339,340,341,342).その後,手術の簡略化や低侵襲化あるいはより生理的な心房興奮の回復を目的として,心房切開線の変更,凍結凝固や高周波エネルギーによる切開線の代用,あるいは切開線の簡略化などが行われてきた343,344,345,346,347,348).手術の危険性は弁膜症手術などの成人心臓手術とほぼ同様であり,適切な症例に施行すれば70〜90%で心房細動を洞調律に復帰させる.
僧帽弁疾患では心房細動をしばしば合併するが,僧帽弁形成術や人工弁置換術を行う際にmaze手術を併施することにより,術後脳梗塞の発生率低下が認められる348).特に僧帽弁逆流症に対する弁形成術とmaze手術の同時手術は,術後遠隔期の脳梗塞発生率低下だけでなく,術後心機能を改善し生存率も上昇させる349).僧帽弁手術以外の心臓手術においてもmaze手術を併施することにより,術後QOLの改善と遠隔成績の改善が期待される350,351).
maze手術では,高頻度反復性興奮が発生している肺静脈の電気的隔離と複数の心房切開線によるリエントリーの阻止が心房細動停止の基本的機序である.しかし,肺静脈隔離だけでも心房細動が停止する例もあり344),症例ごとに心房細動の電気生理学的機序が異なり352),症例によってはmaze手術の全ての切開線が心房細動停止に必要ではない可能性もある.また,maze手術の全ての切開線を行っても洞調律に復帰しない例もある.術中マッピングによる電気生理学的機序に基づいた術式の合理的簡略化は,従来の不整脈外科で行ってきた手法を踏襲するもので,更なる検討が期待される353).心房を切開せずに伝導ブロックを作成するアブレーションデバイスの臨床応用により,手術が簡略化かつ低侵襲化された346).今後は体外循環や心停止を行わずに小開胸下あるいはロボット手術を応用した心房細動手術の開発が期待される347).