(旧版)不整脈の非薬物治療ガイドライン(2006年改訂版)
V.植込み型除細動器 |
(4)特定疾患
Brugada症候群
Class I:
- 心停止蘇生例
- 自然停止する心室細動または多形性心室頻拍が確認されている場合
- Brugada型(coved型ST上昇)心電図所見を示し,失神の既往または突然死の家族歴を有し電気生理検査によって多形性心室頻拍あるいは心室細動が誘発される場合
- Brugada型(coved型ST上昇)心電図所見を示し,失神の既往または突然死の家族歴を有し電気生理検査によって多形性心室頻拍あるいは心室細動が誘発されない場合
- Brugada型(saddle-back型ST上昇)心電図所見を示すが,心室細動・失神の既往及び突然死の家族歴を認めず,電気生理検査によって心室頻拍あるいは心室細動が誘発されない場合
Brugada症候群は右側胸部誘導(V1-3)において右脚ブロック様波形とST上昇を伴う特発性心室細動である298).Brugada症候群における右脚ブロック様波形とST上昇を“Brugada sign”(Brugada型心電図)と呼ぶ246).心電図異常はしばしば間歇的に正常化する.Brugada signは,Ia,Ic群抗不整脈薬投与により増強し,運動負荷,β受容体刺激,α受容体遮断により抑制され,β受容体遮断,α受容体刺激により増強し,過換気,運動負荷後の迷走神経反射やエドロホニウムなどの副交感神経緊張により増強し,アトロピンにより抑制される299,300).
Brugada症候群の診断基準として欧州心臓病学会では,明らかなcoved型ST上昇(0.2mV以上)を有し,かつ(1)心室細動の既往,(2)自然停止する多形性心室頻拍,(3)突然死(<45歳)の家族歴,(4)家族のcoved型ST上昇,(5)電気生理検査で誘発される心室細動,(6)失神または夜間の臨終様呼吸,のいずれかを満たす場合としている301).また,Ia,Ic群抗不整脈薬や交感神経・副交感神経作動薬に対する心電図変化もBrugada症候群の診断に有用である302).Brugada症候群では,男性が圧倒的に多く,アジア人に多く,突然死の家族歴を多く有することなどより遺伝子異常の存在が推測されてきたが,Brugada症候群の3家系の遺伝子解析により,chromosome 3にあるNaチャネル遺伝子であるSCN5Aの遺伝子に異常があることが発見され,Brugada症候群がNaチャネル異常によるイオンチャネル病である可能性が示された303).
Brugada症候群では,心電図が正常化する症例が多いことから,その正確な頻度は不明であるが,特発性心室細動のなかで最も突然死の頻度が高い.現時点ではBrugada症候群に有効な抗不整脈薬はなく299),突然死からの蘇生例では,植込み型除細動器植込みが唯一の治療法である247,299,302,304).
Brugada症候群における心室細動再発の頻度はBrugada症候群以外の正常心電図を示す特発性心室細動例に比較して有意に高率である305).症状を有する症例における3年間の不整脈イベントの再発率は約30%と報告されている304).一方,Brugada型心電図を認めても無症候性の場合,突然死の確率は低い306).ただし心室細動が確認されていない症例でも,典型的なBrugada症候群の心電図の特徴を有し,失神発作の既往,プログラム刺激による多形性心室頻拍の誘発,突然死の家族歴などによって植込み型除細動器植込みが考慮されている304,305,307,308,309).