(旧版)不整脈の非薬物治療ガイドライン(2006年改訂版)
V.植込み型除細動器 |
(2)非持続性心室頻拍・心機能低下例
心室頻拍の有無に関わらない左室収縮機能低下例
Class I:なし
Class IIa:
Class IIa:
- 冠動脈疾患または拡張型心筋症に基づく慢性心不全で,十分な薬物治療を行ってもNYHAクラスIIまたはクラスIIIの心不全症状を有し,左室駆出率35%以下の場合
- 左室駆出率が30%以下の心筋梗塞例で,その発症から1ヶ月以上または冠動脈血行再建術から3ヶ月以上経過した場合
心筋梗塞・拡張型心筋症に伴う心室期外収縮・非持続性心室頻拍は心室細動や持続性心室頻拍のトリガーとなり突然死を惹起する可能性のある不整脈であり,特に心機能低下例ではそのリスクが高い251,252,253,254,255,256,257,258,259,260).しかし,このような症例に対する I群抗不整脈薬はかえって予後を悪化させることが示されている1,261,262).アミオダロンの無症候性心室性不整脈に対する大規模比較試験では263,264,265,266),予後は改善または不変と一定しないが,メタアナリシスによると,アミオダロンは不整脈死または突然死を予防し,全死亡を減少させることが示されている267,268).
心機能低下に伴う非持続性心室頻拍では突然死のリスクは高いが,このような患者で電気生理検査で持続性心室頻拍が誘発される症例はさらにリスクが高い269).MADIT(Multicenter Automatic Defibrillator Implantation Trial)270)とMUSTT(Multicenter Unsustained Tachycardia Trial)271)は,既往に持続性心室頻拍・心室細動のないこのようなハイリスク患者に対して,抗不整脈薬と植込み型除細動器のいずれが生存率を改善するかを検討した初めての前向き無作為試験である.
MADIT270)では,貫壁性心筋梗塞患者でホルター心電図により非持続性心室頻拍を認め,左室駆出率が35%以下のハイリスク患者が対象となった.電気生理検査で持続性心室頻拍が誘発されプロカインアミド静注でも抑制されない患者を植込み型除細動器群(95例)と抗不整脈薬群(101例)に無作為割付けを行った.抗不整脈薬群では74%にアミオダロンが投与され,植込み型除細動器群のアミオダロン投与は2%であった.死亡は抗不整脈薬群の39例に対して植込み型除細動器群では15例と有意に低く, 54%の減少であった.またMUSTT271)では,電気生理検査で持続性心室頻拍が誘発されるハイリスク患者(心機能低下と非持続性心室頻拍を有する陳旧性心筋梗塞患者)に対して電気生理検査ガイド下の抗不整脈薬療法は突然死・不整脈死,全死亡を改善せず,植込み型除細動器は突然死・不整脈死,全死亡を改善することを証明した.
MADITやMUSTTの対象になった患者は,極めて厳密に選択された危険度の高い症例が対象であるが,ハイリスク例を厳格に同定できた場合には抗不整脈薬よりも植込み型除細動器の方が突然死予防に優れていることを示している.
その後,MADIT II272)では心筋梗塞後の左室機能低下例(左室駆出率30%以下),SCD-HeFT(Sudden Cardiac Death in Heart Failure Trial)273)では左室収縮機能低下(左室駆出率35%以下)を伴う症候性慢性心不全(NYHAクラスIIまたはクラスIII)症例において,心室性不整脈の有無に関わらず植込み型除細動器を予防的に植込むことが,薬物治療よりも全死亡を減少させることが示された.欧米では,これらの症例に対する植込み型除細動器の予防的植込みが容認されつつある12).しかし,冠動脈疾患における突然死の頻度が欧米よりも少ないと考えられるわが国において,左室駆出率が低いことのみで植込みの適応とするエビデンスは全くない.一方,わが国でも,左室駆出率の低下を伴う症候性慢性心不全の突然死の頻度は高いとの報告があり,植込み型除細動器の適応が考慮される274).
肥大型心筋症では死因の殆どが突然死であり,植込み型除細動器における突然死発生率は1%と著明な突然死予防効果を有する.臨床的,電気生理学的にハイリスク例を同定できれば,肥大型心筋症における予防的植込み型除細動器植込みの有用性は高い.従来肥大型心筋症 における突然死のリスクの同定には電気生理検査が有用であると報告されている275,276).突然死の家族歴,再発性失神,ホルター心電図での非持続性心室頻拍などの多数の危険因子を有する症例で,電気生理検査により心室頻拍・心室細動が誘発される症例では,予防的植込みが適切であると報告されている276).一方,本邦では予防的植込みに関する研究は殆どみられない.