(旧版)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン

 
VI 続発性骨粗鬆症

 
A.総論

Research Question
続発性骨粗鬆症とは

閉経後や高齢者にみられる原発性骨粗鬆症と異なり,骨代謝に影響を及ぼすホルモンやサイトカイン異常,不動など骨への力学的負荷の減少,骨構成細胞や物質の異常,全身的および血管障害などの局所的栄養障害によっても結果として二次的な骨量喪失が起こる。これら骨粗鬆症は原疾患に基づいて発症する続発性骨粗鬆症であるため,原疾患の適切な治療により正常化することが期待しうるが,骨代謝の正常化を期待するには不十分であることが多く,また先天性異常では改善は望めず,多くの症例で骨量喪失に対する治療を要することが多い。ステロイド性骨粗鬆症を除いて骨折率や治療法についての臨床研究は進んでおらず,今後の研究結果が待たれる分野である。


Research Question
続発性骨粗鬆症の原因疾患

表56に続発性骨粗鬆症を引き起こす代表的疾患を示した。骨代謝に影響を与えるホルモン異常,栄養障害,炎症,骨への力学的刺激低下,薬物,および先天性疾患などに分類される。個々の疾患により骨量喪失の機序や部位が異なるため,個々の疾患別に骨量喪失機序を理解する必要がある。このうち,臨床的に最も重要な骨折原因としてステロイド性骨粗鬆症があげられる。また,高齢者の骨粗鬆症で見逃してはならない最も重要な続発性骨粗鬆症の原因疾患は多発性骨髄腫である。それゆえ,高齢者の骨粗鬆症では血沈や検血などは必須検査項目となる。

表56 続発性骨粗鬆症を起こす代表的疾患
内分泌性 不動性  
  副甲状腺機能亢進症   全身性  
  甲状腺機能亢進症   臥床安静,麻痺  
  性腺機能低下症   局所性  
  クッシング症候群   骨折後  
  成長ホルモン欠乏症 薬物性  
  糖尿病   ステロイド  
  アジソン病   メトトレキセート  
  カルシトニン欠損症   ヘパリン  
栄養性・代謝性   ワーファリン  
  慢性消耗性疾患   抗ケイレン薬  
  るいそう   リチウム  
  重症肝疾患(特に原発性胆汁性肝硬変)   タモキシフェン  
  胃切除 血液疾患  
  壊血病   多発性骨髄腫  
  吸収不良症候群(セリアック病を含む)   リンパ腫・白血病  
  低リン血症   血友病  
  慢性腎疾患   慢性溶血性疾患  
  特発性高Ca尿症 先天性  
  ヘモクロマトーシス   骨形成不全症  
  アミロイドーシス   マルファン症候群  
  肥胖細胞腫   クラインフェルター症候群  
  ナトリウム過剰摂取,カルシウム摂取不足   先天性骨髄性ポルフィリア  
  ビタミンD,A過剰症 その他  
炎症性   慢性閉塞性肺疾患  
  関節リウマチ   肝・腎疾患  
  傍関節性(炎症性サイトカインによる骨吸収亢進)   関節リウマチ  
  サルコイドーシス   (妊娠)  
      高酸素血症  


Research Question
続発性骨粗鬆症の発症機序について

続発性骨粗鬆症の発症機序として骨吸収亢進型と骨形成低下型とに大別される(表57)。骨吸収亢進型としては,骨吸収促進作用を有するホルモン,炎症性サイトカイン,プロスタグランジン増加を起こす副甲状腺,甲状腺機能亢進症,関節リウマチや多発性骨髄腫,骨吸収抑制作用を有するホルモン低下を起こす性腺機能低下症,力学的刺激低下による不動症などがあげられる。骨形成低下を起こす疾患は少なく,糖尿病,ステロイド,メソトレキセート投与などが代表的なものである。ステロイドは骨吸収促進と骨形成低下の両方の機序を介して骨量減少を引き起こす。骨吸収亢進が骨粗鬆症発症の主たる機序である場合,女性ホルモン欠乏でもともと骨吸収亢進の程度が過大となる閉経後女性では,骨量喪失量が大きくなることに注意すべきである。関節リウマチでは,全身性骨粗鬆症に加え,炎症関節近傍での傍関節性骨粗鬆症の発症が特徴的である。

表57 続発性骨粗鬆症の原因疾患とその発症機序
骨吸収亢進型  
  副甲状腺機能亢進症  
  甲状腺機能亢進症  
  性腺機能低下症  
  関節リウマチ  
  多発性骨髄腫などの血液疾患  
  ステロイド過剰(クッシング病,薬剤投与)  
  不動  
  糖尿病  
骨形成低下型  
  糖尿病  
  ステロイド過剰(クッシング病,薬剤投与)  
  メソトレキセート投与  


Research Question
続発性骨粗鬆症の診断基準について

骨折閾値の上昇がエビデンスとして示されたものはステロイド性骨粗鬆症(次章で詳述のため割愛)のみである。その他の続発性骨粗鬆症における骨折閾値については,糖尿病性骨粗鬆症についてのみ散見されるがエビデンスレベルでの報告は存在せず,基本的には原発性骨粗鬆症の診断基準を用いる。糖尿病性骨粗鬆症については,ステロイド性骨粗鬆症同様,骨折閾値の上昇を示唆する方向が相次いでいるため,早期の治療開始を試みてもよいかもしれない。関節リウマチでの傍関節性骨粗鬆症の診断は末梢性QCTによる海綿骨部の骨量低下が特徴的である。血液透析患者での続発性副甲状腺機能亢進症による骨量減少は,腰椎正面では腹部大動脈石灰化で高値となることも多く,PTH過剰症が主体の皮質骨量減少が特徴的なことから,橈骨遠位1/3での骨量測定が有用となる。

Research Question
続発性骨粗鬆症の治療について

ステロイド性骨粗鬆症を除いて,原則的には原発性骨粗鬆症に対する治療基準を用いて,治療適応を考慮する。原疾患の治療により骨量正常化が期待できる疾患については骨粗鬆症に対する特異的な治療は行わず,経過をみることも可能であるが,治療により完全な正常化が期待できない疾患や正常化に時間がかかる疾患では骨量減少に対して治療の適応を考慮する。骨折の危険性が高い程度にまで骨量減少が進行している場合には,骨粗鬆症に対する治療をただちに並行して進める。骨吸収亢進が主たる機序で起こる続発性骨粗鬆症については骨吸収抑制薬が理にかなった治療薬となる。しかし,骨形成の低下した骨形成不全症でもビスフォスフォネート薬の有用性が報告されている(表58)。

表58 続発性骨粗鬆症に対する治療
1 第一に原疾患の治療を優先する。  
2 骨吸収亢進型続発性骨粗鬆症  
  • 原疾患治療後でも骨吸収が持続する場合―ビスフォスフォネートなどの骨吸収抑制薬
  • 原疾患治療後に骨吸収が正常化する場合―経過観察もしくは骨形成に伴う血液中から骨へのカルシウム・リン移動量を増加させる目的で活性型ビタミンD3製剤
  • 不動など骨に対する機械的刺激減少による場合―リハビリテーションによる力学的刺激の付加(骨吸収抑制薬に加えて)
  • 関節リウマチの罹患関節近傍での骨吸収亢進―局所的骨吸収促進部位にビスフォスフォネート薬が特異的に分布することから傍関節性骨粗鬆症に有効と考えられる。
  • Paget病、線維性異形成、反射性交感性異栄養症症候群(Sudan骨萎縮)に対してのビスフォスフォネート薬の有効性は確立
 
3 骨形成抑制型骨粗鬆症  
  • 明確な骨形成促進作用を有する薬剤の臨床使用は不可能
  • ステロイド性骨粗鬆症で骨吸収抑制作用を有するビスフォスフォネート薬の骨折抑制に対する有用性が確立しているため,他の糖尿病性などでの有用性が推定される。
  • 骨形成不全症に対してのビスフォスフォネート薬の有効性は確立485)
 


 

 
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