(旧版)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン
V 骨粗鬆症の治療 |
D.骨粗鬆症の薬物治療
b. 各薬剤の特徴とエビデンス
(9)現在開発中の薬物
【ビスフォスフォネート製剤】
イバンドロネート
窒素含有ビスフォスフォネート系の骨吸収抑制薬で,その骨吸収抑制作用は既知の窒素含有ビスフォスフォネート製剤のなかでも最も強力なものの一つであるとともに,急速静脈内投与が可能となった薬剤である。さらに本薬剤は,経口および注射剤ともに1ヵ月以上の長期間隔での投与による有効性が海外で示されており470),コンプライアンスの改善による治療効果の向上が期待される。すでに米国および欧州で月1回150mgの経口剤が販売されており,注射剤の間欠投与も申請中である。国内では,経口および注射剤とも開発が進行中である。
ミノドロン酸水和物
わが国で開発され,現存ビスフォスフォネートのなかで最も強力な骨吸収抑制効果を示すものの一つである。後期第II相臨床試験では,0.5,1.0,1.5mgの連日経口投与により,36週間で6%という強力な骨密度増加効果が示された471)。椎体骨折を有する退行期骨粗鬆症の患者を対象とした第III相臨床試験において,1日1回,2年間の投与により,プラセボに対する骨折予防効果の優越性が検証され,現在わが国で申請中である。
【SERM製剤】
ラソフォキシフェン
ラロキシフェンに続くSERMとして現在開発中の薬物である。閉経後女性の骨粗鬆症予防・治療適応を目的とした第II相試験において,ラロキシフェンとの直接比較を行い,骨密度の増加率,骨代謝マーカーの減少率で,ラロキシフェンを上回る効果が示されている472)。米国では,すでに骨粗鬆症の予防適応について申請している。現在,大規模国際共同試験として,骨粗鬆症治療適応を目的とした第III相試験を,わが国も参画して実施中である。
酢酸バセドキシフェン
現在,グローバル試験と同時進行で国内でも2年間の臨床試験が進行中である。
【副甲状腺ホルモン(PTH)】
ヒトPTH(1-34)(テリパラチド)皮下注射剤
骨形成促進薬としての効果が期待されているPTHは,海外において大規模臨床試験が実施され,すでに米国をはじめとする多くの国で認可されている。閉経後5年以上を経過し椎体骨折を有する骨粗鬆症患者を対象とした大規模臨床試験では,20µgのヒトPTH(1-34)の平均18ヵ月にわたる連日自己皮下注射により,新規椎体骨折の発生を対照群の14%から5%へと1/3近く低下させた。さらに,新規非椎体骨折の発生も,対照群の6%に対し3%と,1/2にまで減少させた。腰椎および大腿骨頸部骨密度の増加率は,20µgのヒトPTH(1-34)投与により9%および3%と,いずれの部位においても著明な骨密度の増加が認められた98)。以上の成績は,ヒトPTH(1-34)の連日皮下投与により,顕著な骨折率の減少が18ヵ月という短期間で得られることを示したものであり,骨形成の促進により,たとえ骨代謝回転が高まっても骨強度は増加することを臨床的に証明したものである。これらの成績をもとに,わが国でも,骨粗鬆症患者を対象としたヒトPTH(1-34)の連日自己皮下注射による臨床試験が進行中である。一方,これまでに週1回の皮下注射製剤の効果も検討されており,その第II相臨床試験の成績では,200単位(約60µg相当)週1回1年間の投与で,椎体骨密度を8.1%増加させることが示された473)。
経鼻剤
自己皮下注射では確実な効果が得られるものの,コンプライアンス面での改善を目指してわが国で経鼻剤の開発が進められている。第II相臨床試験の成績では,ヒトPTH(1-34)の1日1回1,000µgの3ヵ月間連日経鼻投与により,腰椎骨密度が2.4%増加することが示されており474),患者に非侵襲的な骨形成促進薬剤として期待される。
【活性型ビタミンD製剤:ED-71】
ED-71は,従来の活性型ビタミンDより骨での作用を強化させた化合物として現在開発中の薬剤である。前期第II相試験では,0.75µgの半年間の投与で腰椎骨密度を3%と,従来の活性型ビタミンDでは得られなかった程度にまで増加させた。さらにこの効果が対象患者のビタミンD不足に基づく可能性を除外するため,後期第II相試験ではビタミンD製剤の補充により血中25(OH)Dをほぼ全例で20ng/mL以上に維持したうえで,1年間の骨密度増加効果が検討された。その結果,プラセボ投与群の-0.7%に対して,0.75µgのED-71投与群では2.6%と高い骨密度増加効果が示された。しかも,大腿骨骨密度もプラセボ群の-0.9%に対して0.75µg投与群で0.6%と,活性型ビタミンDでは初めて増加効果が示された475)。高カルシウム血症・尿症の発現は0.75µg投与群ではわずかで,いずれも軽度であった。現在,アルファカルシドールを比較対照として3年間の骨折抑制効果を評価項目とした第III相臨床試験が実施中である。
【抗RANKL抗体:デノスマブ(AMG162)】
RANKL(receptor activator of NF κ B ligand)は破骨細胞の分化,活性化および生存に必要な主要メディエーターであり,骨吸収の異常亢進を特徴とする骨粗鬆症や悪性腫瘍の骨転移などの疾患に対する重要な治療標的である。AMG162はRANKLに対して高い親和性を有する完全ヒト型モノクローナル抗体であり,RANKLに結合し,破骨細胞形成および骨吸収を抑制する。海外で49名,国内でも40名の閉経後女性に対して,AMG162を単回皮下投与したときの安全性および骨吸収抑制効果が検討され,単回皮下投与時の忍容性は良好で,迅速,強力かつ持続的な骨代謝マーカーの抑制が認められている476)。米国を中心に施行された低骨密度の閉経後女性を対象とした第II相用量反応試験の12ヵ月までの成績も発表されており,効果および安全性が確認されている477)。これらの成績に基づき,現在海外では第III相骨折介入試験が実施されている。
【ラネル酸ストロンチウム】
ラネル酸ストロンチウムは,既存の骨粗鬆症治療薬とは異なる作用機序を有すると思われ,非臨床および臨床試験において骨形成促進と骨吸収抑制の両作用が認められている。海外で実施された椎体骨折介入試験では,本剤2gの3年間の連日投与により,新規椎体骨折の相対リスクが約40%減少している97)。さらに大腿骨折に対する効果も認められており,安全性の面でも良好な成績が得られている。