(旧版)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン
V 骨粗鬆症の治療 |
D.骨粗鬆症の薬物治療
b. 各薬剤の特徴とエビデンス
(6)SERM:塩酸ラロキシフェン
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塩酸ラロキシフェン(RLX)は,選択的エストロゲン受容体モジュレーター(selective estrogen receptor modulator:SERM)として骨粗鬆症治療の適応を有する唯一の化合物である。RLXはエストロゲン受容体(ER)にエストロゲンとほぼ同等の親和性で結合し,ERのC端側ヘリックス12にエストロゲンと異なる構造変化を起こさせることで組織選択的な薬理作用を発現する。その結果,乳房や子宮ではエストロゲン様作用を発現しないが,骨などに対してはエストロゲン様作用を発揮する428)。RLXの骨粗鬆症治療効果に関する主要なエビデンスは,閉経後骨粗鬆症女性7,705例を対象として海外で実施された大規模臨床試験(multiple outcomes of raloxifene evaluation:MORE)の成績とその追加解析,および本試験成績への外挿を目的にわが国で実施されたブリッジング試験で構成される(表52)。
骨密度に対する効果
MORE試験におけるRLX60mg/日投与群(RLX060)の腰椎骨密度は,投与1年後に有意な増加が認められた後,投与期間を通じて維持されていた95),429)。大腿骨骨密度も同様な経時変化を示した。わが国のブリッジング試験205)では,RLX060群の腰椎骨密度変化率がMORE試験より若干大きかったが,開始時骨密度が低値側に偏っていたことによると考えられた430)。
骨折予防効果(椎体)
MORE試験では,RLXの新規椎体骨折発生抑制効果が,既存椎体骨折の有無にかかわらず4年間にわたり認められた。また,椎体の臨床骨折に対しても3年間で60%の抑制効果を示した95),431)。さらに,投与1年目から,すでにRLX060群における新規椎体骨折抑制効果が認められ432),しかも4年目の新規椎体骨折抑制効果は,3年目までの効果とほとんど変わらなかった429)。したがって,RLXの椎体骨折抑制効果は,開始後早期に出現し,長期間にわたり維持されるものと考えられる。さらに,多発椎体骨折の新規発生率はRLX060群で93%もの著明な低下を示した433)。わが国のブリッジング試験でもMORE試験成績と矛盾しない結果が示されるとともに,ブリッジング試験と204例の中国人患者を対象とした試験との併合解析では,RLXの臨床椎体骨折抑制効果が認められた434)。
骨折予防効果(非椎体)
MORE試験全体では,RLXの有意な非椎体骨折発生抑制は示されていない。一方,既存椎体骨折の重症度が増すほど非椎体骨折が増加することが明らかとなり,重症椎体骨折を有する症例を対象に試験後再解析が行われた。その結果,重症椎体骨折保有例ではRLXが有意な非椎体骨折抑制効果を示した324)。ブリッジング試験と204例の中国人患者での試験との併合解析では,椎体と非椎体を併せたすべての臨床骨折の発生を有意に抑制した434)。
骨代謝マーカーに対する効果
MORE試験,ブリッジング試験ともに,骨吸収・骨形成マーカーの両者がRLX投与6ヵ月後にはほぼ最大の低下を認め,投与期間を通じて閉経前の正常範囲内に維持された。
QOL,その他の効果
MORE試験の部分集団(1,395例)を対象とし,osteoporosis assessment questionnaire(OPAQ)を用いたhealth-related quality of life(HRQOL)の評価成績がある47)。またドイツでの大規模コホート試験では,RLXにより骨痛・関節痛が6週間で45.6%,6ヵ月後には77.4%もの症例で改善した。さらに6ヵ月間の服薬継続率96%,コンプライアンス100%の症例の割合75.2%と,いずれも高い436)。
[エビデンステーブル] 表52 塩酸ラロキシフェンの骨粗鬆症における主な多施設臨床試験のまとめ |
効果 | 文献 | 例数 | 試験デザイン | 成績 | エビデンス レベル |
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骨密度 | 435) | 10,199 | メタアナリシス(30mg,60mg,120mg,150mg:1〜3年) | BMD平均変化率のプラセボとの差(%) 腰椎2.51(95%CI 2.21〜2.82), 大腿骨2.11(95%CI 1.68〜2.53) |
I | ||||||||||||
95) 429) |
7,705 | 多施設プラセボ対照二重盲検試験(MORE試験),80歳以下の既存椎体骨折を有するまたは有さない閉経後骨粗鬆症,プラセボ,60mg,120mg | BMD平均変化率のプラセボとの差(%)
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II | |||||||||||||
205) | 284 | 多施設プラセボ対照二重盲検試験,80歳以下の閉経後骨粗鬆症(≧-2.5SD),プラセボ,60mg,120mg | BMD平均変化率のプラセボとの差(%) 1年後:腰椎2.9〜3.5 |
II | |||||||||||||
骨折 | 438) | 8,282 | メタアナリシス(60mg,120mg,150mg:1〜3年) | プラセボに対する骨折リスク:OR(95%CI) 60mg 0.60(0.49〜0.74),120mg/150mg 0.51(0.41〜0.64) |
I | ||||||||||||
95) 431) 429) |
7,705 | 多施設プラセボ対照二重盲検試験(MORE試験) 新規椎体骨折判定基準:椎体高20%以上および4mm以上の低下,非椎体骨折は骨粗鬆症を原因とする鎖骨,肩胛骨,肋骨,胸骨,骨盤,仙骨,尾骨,上腕骨,前腕,手首,大腿骨,膝蓋骨,脛骨,腓骨,足首,踵骨,足根骨および中足骨骨折とし,病的骨折,外傷に起因する骨折ならびに頭蓋骨,顔面,中手骨,手指および足指の骨折は除外した |
プラセボに対する骨折リスク:RR(95%CI) ・3年間(椎体・非椎体骨折)
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II | |||||||||||||
205) | 284 | 試験デザインは同上,1年間投与 新規椎体骨折判定基準:椎体高20%以上の低下 |
椎体骨折例数:プラセボ 2例,60mg 0例,120mg 1例 非椎体骨折例数:プラセボ 4例,60mg 1例,120mg 0例 |
II | |||||||||||||
骨代謝マーカー | 95) | 2,622 | 試験デザインは同上(MORE試験) MORE試験登録例7,705例中,2,622例の部分 集団で実施 |
変化率(%)の中央値(左からプラセボ,60mg,120mg)OC(-8.6,-26.3*,-31.1*),BAP(-19.7,-34.9*,-35.5*),尿中CTX(-8.1,-34.0*,-31.5*) *p<0.001vsプラセボ |
II | ||||||||||||
205) | 284 | 試験デザインは同上 | OC(-8.3,-34.5*,-35.6*),BAP(-12.1,-47.9*,-43.5*),尿中CTX(-13.2,-43.6*,-51.2*),尿中NTX(-6.8,-33.5*,-30.3*) *p<0.001vsプラセボ |
II | |||||||||||||
QOL | 436) | 5,902 | 多施設前向きコホート観察試験,閉経後骨粗鬆症(平均年齢64歳),骨痛・関節痛,治療の満足度 | 骨痛・関節痛改善率:45.6%(4〜6週後),77.4%(5〜6ヵ月後) 治療の満足度:「非常に満足」40.9%,「満足」45.6% |
IV |
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骨密度:骨密度増加効果がある(グレードA)。
椎体骨折:椎体骨折を防止する(グレードA)。
非椎体骨折:非椎体骨折を防止するとの報告がある(グレードB)。
80歳未満の閉経後骨粗鬆症で骨密度増加効果,椎体骨折防止効果のエビデンスを有するが,非椎体骨折の防止効果に関するエビデンスは不十分である。
(総合評価:グレードA)