(旧版)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン
V 骨粗鬆症の治療 |
D.骨粗鬆症の薬物治療
b. 各薬剤の特徴とエビデンス
(5)ビスフォスフォネート製剤
1)エチドロネート
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エチドロネートはP-C-P骨格の側鎖がOH基とメチル基の第一世代のビスフォスフォネートである。骨粗鬆症治療薬剤として用いる場合には,石灰化抑制作用がなく,骨吸収抑制作用のみを現す低用量を選択しなければならない。エチドロネートの骨吸収抑制作用発現濃度と石灰化抑制作用発現濃度の差は第二世代(アレンドロネート),第三世代(リセドロネート)のものに比して小さい。したがって用量や投与法に工夫(周期的間歇投与)を加えて,骨吸収抑制作用を選択的に引き出している。
エチドロネートは強力な骨吸収抑制薬であるとともに,骨代謝回転抑制薬であるため,高代謝回転型骨粗鬆症が最もよい適応であると考えられる。それゆえ,閉経後骨粗鬆症などの高代謝回転型骨粗鬆症で,エストロゲン補充療法に代わる薬剤の一つである。低代謝回転型骨粗鬆症では,高代謝回転型に比して骨密度増加効果は少ないが,骨密度維持効果はみられている。
エチドロネートの閉経後骨粗鬆症に対する成績は,海外においても多く存在する101),394),395),396),397)。わが国での多施設二重盲検比較試験においては,エチドロネートは有意に脊椎骨の骨密度を増加させ,椎体圧迫骨折発生率を有意に減少させるとともに,腰背痛を改善させることが示されている398)。投与法に関しては1日1回200〜400mg(400mgは重症の場合)を食間に投与し,2週間投与10〜12週休薬する周期的間歇投与法が適当であると結論された399),400)。しかし骨密度増加効果は第三世代のビスフォスフォネートに比して少ないとの報告もある401)。国内外でのすべての二重盲検試験成績において,エチドロネート投与後,骨吸収抑制効果により骨代謝マーカーが抑制され,骨密度増加と脊椎圧迫骨折の減少が示されている。骨吸収抑制により骨代謝回転が抑制され,恒常状態に達する401)。海外での成績では最長7年までの投与成績があり,平均7.6%の骨密度増加と著しい脊椎圧迫骨折の減少が報告されている395)。さらにステロイド性骨粗鬆症に対しても,海外における二重盲検試験にて,腰椎または大腿骨頸部の骨密度増加402),403)と脊椎圧迫骨折の減少が報告されている(表49)。また,エチドロネートとHRTとの併用(図23)397),404),405)や活性型ビタミンD3との併用406)で,骨密度増加の増幅がみられる。
[エビデンステーブル] 表49 エチドロネートの主な多施設二重盲検試験成績のまとめ |
効果 | 文献 | 例数 (試験薬/対照薬) |
試験 デザイン |
成績 | エビデンス レベル |
骨折 | 407) | 1,076 | メタアナリシス(海外,400mg) | 39%リスク減少,異質性0.87 | I |
骨密度・骨折 | 399),400) | 132(200mg),134(400mg)/137(アルファカルシドール) | 無作為, 二重盲検,1年間 |
腰椎骨密度2.4%(200mg),3.4%(400mg)増加(ともに投与前および対照群0.5%減少に比較して有意に増加),椎体圧迫骨折発生率6.9%(200mg),5.4%(400mg)(400mgは対照群15.5%に比較して有意に低下) | II |
394) | 212(400mg)/211(プラセボ) | 無作為, 二重盲検,2年間 |
腰椎,大腿骨頸部骨密度増加(プラセボ群に比較して有意),新規椎体骨折数減少(プラセボ群に比較して有意) | II | |
395) | 93(400mg)/100(プラセボ) | 無作為, 二重盲検,7年間 |
腰椎骨密度増加(投与前との比較で有意),大腿骨頸部および橈骨骨密度は維持,椎体骨折発生率低下(プラセボ群との比較で有意) | II | |
(ステロイド性骨粗鬆症) | 402) | 67(400mg)/74(プラセボ) | 無作為, 二重盲検,1年間 |
腰椎,大腿骨頸部骨密度増加(投与前に比較して有意。プラセボ群とは有意差なし),椎体骨折(閉経後女性で有意に減少) | II |
骨密度・骨代謝マーカー | 396) | 75(400mg)/77(プラセボ) | 無作為, 二重盲検,2年間 |
腰椎骨密度増加(プラセボ群に比較して有意),骨代謝マーカーの有意な減少 | II |
(ステロイド性骨粗鬆症) | 403) | 59(400mg)/58(プラセボ) | 無作為, 二重盲検,1年間 |
腰椎骨密度増加(プラセボ群2.79%減少に比較して有意に増加),骨代謝マーカー変化(投与後pyridinium crosslinks の有意な減少。6ヵ月でプラセボ群に比較して有意に減少) | II |
骨密度 | 401) | 117(200mg)/118(リセドロネート2.5mg) | 無作為, 二重盲検,1年間 |
腰椎骨密度増加(投与前に比較して有意。リセドロネート群で有意に増加率大) | II |
図23 閉経後女性における骨密度の投薬2年後および4年後の変化率(Mean±SE)405) |
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HRT:ホルモン補充療法,ICE:エチドロネート間歇的周期的投与,HRT+ICE:HRT,ICEとカルシウム併用,Ca:カルシウム補充のみ,対照:特異的な治療はせず。( )内は例数。 *p<0.05,**p<0.01,***p<0.001(投与前値との比較) |
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骨密度:骨密度増加効果がある(グレードA)。
椎体骨折:椎体骨折を防止するとの報告がある(グレードB)。
非椎体骨折:非椎体骨折を防止するとの報告がある(グレードB)。
骨密度増加効果と椎体骨折防止効果についてはエビデンスがあるが,非椎体骨折の防止効果に関するエビデンスは十分ではない。
(総合評価:グレードB)