(旧版)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン
V 骨粗鬆症の治療 |
D.骨粗鬆症の薬物治療
b. 各薬剤の特徴とエビデンス
(4)ビタミンK2製剤
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骨代謝におけるビタミンKの役割
ビタミンKは,その名のKがドイツ語の“Koagulation”に由来するように,正常な血液凝固に必要なビタミンとして発見された。生理的に重要なビタミンKは主に植物に由来するビタミンK1(phylloquinone)と,微生物などに由来するビタミンK2(menaquinones)に分けられるが,骨粗鬆症の治療薬として応用されているものは後者に含まれるMK-4である(図22)。
このビタミンと骨代謝との関連を示す報告は,動物実験における骨折治癒促進作用に関するものが最初であった384)。1980年前後には骨基質中にビタミンK依存性蛋白質が見出され,骨代謝とビタミンKとが生化学のレベルでつながり,研究に発展がみられた。そのビタミンK依存性蛋白質の一つとして代表的なものであるオステオカルシンのうち,グラ化が進んでいないもの(undercarboxylated osteocalcin)が多いほど,骨粗鬆症に基づくと思われる骨折の頻度が高いことが示されている241),385)。
また,わが国においても,脊椎圧迫骨折を有する高齢女性において血中ビタミンK濃度が対照よりも低いことが報告され386),骨代謝におけるビタミンKの重要性には疑う余地はないといえよう。
図22 ビタミンK2 |
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Menaquinones(MK-1〜14) |
骨粗鬆症治療薬としてのビタミンK2(メナテトレノン)
本製剤開発時の治験においては,メナテトレノンの単独投与で骨密度増加作用を有することが,二重盲検試験においてRA(MD)で確認された387),388)。また,治療前後の骨代謝マーカーの測定により,骨形成促進作用が発揮されていることが示唆された。一方,in vitroの研究成果より予測される骨吸収抑制作用に対する臨床データからの裏づけは乏しい。RA(MD)法を用いた骨密度に対する影響の検討は,Satoら389)によって脳卒中による片麻痺患者についての無作為オープンラベル試験でも確認されている。
Shirakiら243)はメナテトレノン製剤が閉経後骨粗鬆症患者の腰椎骨密度を維持・増加させ,脊椎圧迫骨折の発症頻度を低下させることを報告した。骨密度増加効果が軽微であるにもかかわらず骨折予防効果を発揮する点は,活性型ビタミンD3製剤とも共通する臨床的特徴である。
脊椎圧迫骨折の発症抑制をエンドポイントとした大規模前向き市販後研究(OF study)が行われた。本研究は,合計4,000症例を対象に骨折予防効果やQOLの改善を指標とした大規模臨床試験である(http://www.eisai.co.jp/news/news200505.html)。カルシウム製剤単独投与群(以下,カルシウム単独群)と,カルシウムとメナテトレノン併用群(以下,メナテトレノン併用群)の2群に分けて36ヵ月間服用し,その後12ヵ月間の追跡観察を行った。主要な統計解析において,椎体骨折の新規発現抑制効果については,カルシウム単独群とメナテトレノン併用群との間に差は認められなかった。一方,椎体骨折の新規発現に関する層別解析では,「椎体骨折5個以上」を有する進行した症例において骨折発現が減少した。また,「閉経後30年以上」,「年齢75歳以上」,「椎体骨折5個以上」の症例において身長低下が減少し,高齢あるいは重症骨粗鬆症患者における有用性が示唆された。歩行,安静時における腰背部痛の程度および持続の項目において,改善の割合が増加した。さらなる解析も進行している。
なお,Cockayneらのメタアナリシス390)はビタミンK2の骨量減少抑制作用と骨折発症抑制作用を支持している。
続発性骨粗鬆症治療薬としてのビタミンK2
ビタミンK2は,いくつかの続発性骨粗鬆症についても,試験規模は大きくないものの,その効果が検討されている。Yonemuraら391)はメナテトレノンがプレドニゾロンを服用している慢性腎不全患者における骨密度減少を抑制することを示した。またShiomiら392)は肝硬変患者における骨密度減少抑制効果を報告した。
[エビデンステーブル] 表48 ビタミンK2の骨粗鬆症における主な多施設臨床試験のまとめ |
効果 | 文献 | 例数 (試験薬/対照薬) |
試験デザイン | 成績 | エビデンス レベル |
骨密度 | 387) | のべ562 | アルファカルシドール(1.0µg/日)を対照とした多施設二重盲検試験 | アルファカルシドール群を有意に上回る骨密度増加効果 | II |
388) | のべ80 | 無作為プラセボ対照 多施設二重盲検試験 |
RA(MD)法による第二中手骨の骨密度増加 | II | |
389) | 脳卒中による片麻痺患者についてビタミンK2群54,対照群54 | 無作為オープンラベル | RA(MD)法による第二中手骨の骨密度増加 | II | |
243) | のべ241 | 無作為オープンラベル | 腰椎骨密度増加 | II | |
393) | パーキンソン病患者についてビタミンK2群60,無治療群60 | 無作為オープンラベル | RA(MD)法による第二中手骨の骨密度増加 | II | |
391) | プレドニゾロンによる治療を受けている慢性腎不全患者60名をビタミンK2,1α(OH)D3,両者併用,対照の4群に割付 | 無作為オープンラベル | プレドニゾロン服用者における骨密度維持効果 | II | |
392) | 肝硬変および肝炎ウイルス感染を有する女性50名をビタミンK2群と対照群に割付 | 無作為オープンラベル | 肝硬変を有する女性患者の骨密度減少を有意に抑制 | II | |
骨折(椎体) | 390) | (408/401) | メタアナリシス(国内,45mg) | OR(95%CI):0.40(0.25〜0.65) | I |
(大腿骨) | (226/221) | メタアナリシス(国内,15mg,45mg) | OR(95%CI):0.23(0.12〜0.47) | I | |
(非椎体) | (408/407) | メタアナリシス(国内,45mg) | OR(95%CI):0.19(0.11〜0.35) | I | |
(椎体) | 243) | のべ241 | 無作為オープンラベル | 椎体圧迫骨折の発症抑制 | II |
(非椎体) | 393) | パーキンソン病患者についてビタミンK2群60,無治療群60 | 無作為オープンラベル | 非椎体骨折の発症抑制 | II |
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骨密度:わずかではあるが増加効果がある(グレードB)。
椎体骨折:椎体骨折を防止するとの報告がある(グレードB)。
非椎体骨折:非椎体骨折を防止するとの報告がある(グレードB)。
骨密度の増加を介さない骨折予防効果が期待される。疫学的データもビタミンK2による骨折予防効果を支持するものの,さらに骨折やQOLをエンドポイントとした前向き研究が望まれる。
(総合評価:グレードB)