(旧版)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン
V 骨粗鬆症の治療 |
D.骨粗鬆症の薬物治療
b. 各薬剤の特徴とエビデンス
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(1)カルシウム製剤
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カルシウム製剤の骨粗鬆症における主な臨床試験のまとめを表45に示す。
[エビデンステーブル] 表45 カルシウム製剤の骨粗鬆症における主な臨床試験のまとめ |
効果 | 文献 | 例数・試験期間 (カルシウム/プラセボ) |
試験デザイン | 成績 | エビデンス レベル |
骨密度 | 125), (245 , 325 , 326 , 327 , 328 , 329 , 330 , 331 , 332 , 333 , 334 , 335 , 336 , 337 , 338) |
1,806(953/853) 1年以上 |
メタアナリシス | 全身骨(4RCTs): 2.05%(95%CI 0.24〜3.86)の増加(vsプラセボ) 腰椎(2年)(9RCTs): 1.66%(95%CI 0.92〜2.39)の増加(vsプラセボ) 腰椎(3〜4年)(2RCTs): 1.13%(95%CI -0.11〜2.38)の増加傾向(vsプラセボ) 大腿骨(8RCTs): 1.64%(95%CI 0.70〜2.57)の増加(vsプラセボ) 橈骨遠位1/3(6RCTs): 1.91%(95%CI 0.33〜3.50)の増加(vsプラセボ) |
I |
337) | 197(95/102) 平均4年 |
RCT | 既存椎体骨折あり群で前腕骨量の増加(vsプラセボ) | II | |
骨折 (椎体) |
125), (327 , 332 , 334 , 337 , 338) |
576 | メタアナリシス | 有意差なし(減少傾向 RR0.77(95%CI 0.54〜1.09) | I |
337) | 197(95/102) 平均4年 |
RCT | 既存椎体骨折あり群で効果あり(vsプラセボ) RR0.58(95%CI 0.35〜0.97) |
II | |
187) | 2,643(1,311/1,332) 2年以上 |
RCT | 骨折予防効果なし | II | |
339) | 3,314(1,321/1,993) 2年以上 |
RCT | 骨折予防効果なし | II | |
(大腿骨) |
125) (334 , 338) |
222 | メタアナリシス | 有意差なし,RR0.86(95%CI 0.43〜1.72) | I |
(その他) | 187) | 2,643(1,311/1,332) 2年以上 |
RCT | 骨折予防効果なし | II |
339) | 3,314(1,321/1,993) 2年以上 |
RCT | 骨折予防効果なし | II | |
骨代謝 マーカー |
338) | 177(88/89),4年 | RCT | 血清PTH18.9%,オステオカルシン11.9%, 尿中ピリジノリン32.2%の低下 |
II |
245) | 248(158/90),2年 | RCT | 血清アルカリフォスファターゼ, オステオカルシン, 1,25(OH)2D, 尿中ヒドロキシプロリン/クレアチニンの低下 |
II | |
332) | 122(61/61),2年 | RCT | 血清PTH,アルカリフォスファターゼ, 尿中ヒドロキシプロリン/クレアチニンの低下傾向 |
II | |
330) | 81(39/42),2年 | RCT | 血清PTH,アルカリフォスファターゼ, 尿中ヒドロキシプロリン/クレアチニンに有意な変化なし |
II | |
QOL | 187) | 2,643(1,311/1,332) 2年以上 |
RCT | QOLに対する効果なし | II |
339) | 3,314(1,321/1,993) 2年以上 |
RCT | QOLに対する効果なし | II |
骨密度に対する効果
治療薬剤としてのカルシウム製剤の骨密度増加効果については,有効とするものと,有意な効果がみられなかったとする報告に分かれるが,Sheaら125)はこれらの15文献245),325),326),327),328),329),330),331),332),333),334),335),336),337),338)をメタアナリシスし,わずかではあるが有意に骨密度を増加させる効果があることを報告している。
骨折予防効果
Sheaらの5文献327),332),334),337),338)のメタアナリシスの結果からは,椎体骨折についてはカルシウム製剤投与により減少傾向(p=0.14)が認められるが,大腿骨を含む他の骨折についての骨折予防効果は認められていない。Reckerら337)は,4年間にわたり1,200mgのカルシウム補充療法を行ったところ,すでに椎体骨折を有する群では有意に橈骨骨密度を増加させるとともに,椎体骨折発生頻度を有意に低下させたと報告している。しかし,最近の研究187),339)では,椎体,大腿骨,その他の骨折に対する予防効果はないと報告されている。
骨代謝マーカーへの効果
血清PTH,オステオカルシン,アルカリフォスファターゼ,1,25(OH)2D,尿中ヒドロキシプロリン/クレアチニン,ピリジノリンの有意な低下245),338),低下傾向332)があるという報告と,有意な変化が認められなかったという報告330)があり一定していない。また,最近の新しい骨代謝マーカーとの関連について,カルシウム製剤とプラセボで比較したものは報告されていない。
QOLへの効果
最近の2文献187),339)でカルシウム製剤のQOLに対する効果をSF-12を用いて評価しているが,QOLに対する効果は認められていない。
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骨密度:わずかではあるが増加効果がある(グレードC)。
椎体骨折:防止しない(グレードC)。
非椎体骨折:防止しない(グレードC)。
骨折危険性の低下,QOLの維持改善作用は他剤に比べて弱いが,わずかながら骨密度増加効果が認められる。したがって主治療薬としては勧められないが,日本人のカルシウム摂取量が少ないことを考慮すると,他の治療薬の効果を十分に発揮させるためにもカルシウム不足例において推奨される。
(総合評価:グレードC)
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【参照】
「IV 骨粗鬆症の予防 A.若年者の予防 」