(旧版)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン
V 骨粗鬆症の治療 |
C.骨粗鬆症の一般的な治療(薬物以外)
c.理学療法,疼痛対策および手術
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骨粗鬆症に対する運動療法の目的は,骨量の増加,身体運動機能の改善,腰背部痛の軽減,さらにQOLの向上など多様であるため,これまで行われてきた運動療法も多彩である。筋力訓練だけでも,その種類はさまざまであり,背筋などの特定の筋力の強化を行うものから,負荷を増加させつつ全身の筋力を強化するものまで存在する。さらにストレッチングなどの柔軟運動,ウォーキングなどの有酸素運動,バランス機能改善のための運動などを加えたプロトコールも少なくない(表44)。これまでの検討では,それぞれの目的に対する少なくとも部分的な効果が認められていることから,これらの運動療法は骨粗鬆症に対して有効であると考えられる(レベルI)。
[エビデンステーブル] 表44 骨粗鬆症における運動療法のランダム化比較試験(1995年以降で参加者50例以上のもの) |
対象・年齢 | 例数 | 運動の種類 | 期間 | 成績 | 文献 | エビデンス レベル |
閉経後女性 45〜75歳,平均61歳 |
97 | 全身の柔軟運動,筋力訓練など | 4年 | 前腕骨密度の維持,背部痛の軽減 | 279) | II |
閉経後女性 58〜75歳,平均66歳 |
50 | 背筋運動 | 2年 (経過観察10年) |
運動終了後8年(経過観察10年)で背筋力の維持,腰椎骨密度減少の抑制,椎体骨折の予防効果あり | 265) | II |
椎体骨折のある閉経後女性 60歳以上,平均72歳 |
74 | 全身の柔軟運動,筋力訓練, 有酸素運動など |
1年 | バランス,症状,QOLの改善 | 280) | II |
閉経後女性 平均60歳 |
126 | 全身の筋力強化訓練または フィットネス |
2年 | 筋力強化訓練で大腿骨近位全体と転子間部の骨密度が増加 | 281) | II |
閉経後女性 40〜70歳,平均57歳 |
56 | 前腕と股関節部の筋力強化 訓練または持久力訓練 |
1年 | 筋力強化訓練で大腿骨近位と橈骨遠位部の骨密度が増加 | 262) | II |
骨粗鬆症女性 65〜75歳,平均69歳 |
93 | 全身の筋力訓練,柔軟運動 | 20週 | 動的バランスと筋力(膝伸展力)の改善 | 282) | II |
骨粗鬆症女性 65〜75歳,平均71歳 |
79 | 全身の筋力訓練,柔軟運動 | 10週 | 動的・静的バランス,筋力(膝伸展力)の有意な改善なし | 283) | II |
身体機能が低下した 高齢男女 78歳以上,平均83歳 |
119 | 全身の筋力強化訓練 | 9ヵ月 | 運動による全身,腰椎,大腿骨近位部の骨密度への効果なし | 284) | II |
閉経後女性 49〜55歳,平均53歳 |
78 | 腰部・大腿部への荷重負荷 運動(HRT併用群あり) |
2年 | 運動により大腿骨頸部骨密度の維持効果あり(HRTとの相乗効果なし) | 285) | II |
椎体骨折のある高齢女性 平均81歳 |
185 | 全身の筋力強化訓練,柔軟運動など | 6ヵ月 | 背筋力の増加,精神的症状の改善疼痛は変化なし | 286) | II |
閉経後女性 35〜45歳,平均39歳 |
65 | 跳躍運動 | 18ヵ月 (経過観察5年) |
下肢の骨密度の増加。運動終了後3.5年(経過観察5年)でも効果の持続あり | 287) | II |
閉経後女性 40〜65歳,平均56歳 |
90 | 全身の筋力強化訓練,有酸素運動,柔軟運動など (HRT併用群あり) |
1年 | HRT+運動群でHRT単独群よりも大腿骨転子部骨密度増加,腰椎と他の大腿骨近位部では有意差なし | 288) | II |
閉経後女性 60〜85歳,平均67歳 |
99 | 荷重負荷衝撃運動 | 2年 | 運動群で大腿骨近位部骨密度の増加例が多かったが骨密度値には有意差なし | 289) | II |
椎体骨折のある閉経後女性 55〜75歳,平均66歳 |
53 | 全身の筋力とバランス訓練,ストレッチングなど | 10週 (経過観察22週) |
疼痛,運動機能,QOLの改善運動終了後12週(経過観察22週)でもQOLの維持効果あり | 290) | II |
閉経後女性 平均58歳 |
51 | 腸腰筋運動 | 3年 | 腰椎骨密度減少の抑制 | 263) | II |
閉経後女性 50〜70歳,平均60歳 |
124 | 荷重負荷運動,柔軟運動,有酸素運動など | 1年 | 腰椎骨密度の維持,身体フィットネスの改善,背部痛の減少,健康度の増加 | 261) | II |
高齢男女 60〜83歳,平均68歳 |
62 | 全身の強度の異なる抵抗運動 | 6ヵ月 | 筋力の増強,高強度の運動で大腿骨頸部骨密度の増加 | 291) | II |
閉経前女性,平均38歳 閉経後女性,平均55歳 |
178 | 跳躍運動 | 6〜12ヵ月 | 閉経前女性で大腿骨近位部の骨密度増加あり(閉経後女性で増加なし) | 292) | II |
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物理的エネルギーによる鎮痛法は,用いるエネルギーの種類によって,温熱療法,光線療法,電気療法などに分けられる。これらの物理療法は,主に慢性期の疼痛に有効であることは数多く報告されているため268),269),270),骨粗鬆症に伴う腰背部痛に対しても有効であると考えられる(レベルIV)。
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鎮痛には,通常,非ステロイド性消炎鎮痛薬を中心とした薬剤が使用されるが,高齢者では若年者よりも合併症や副作用の発生頻度が高いため,これらの薬剤の使用は最小限にとどめる必要がある。骨粗鬆症治療薬であるカルシトニン,アレンドロネートやリセドロネートは,疼痛を軽減させる作用もあることが示されている101),271),272) (レベルII)。
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ほかの椎体疾患と同様に,骨粗鬆症患者においても,筋筋膜性疼痛があれば疼痛部位へのトリガーポイント注射が,椎間関節性疼痛があれば椎間関節ブロックや腰神経後枝内側枝ブロックなどが有効であると考えられる。これらの療法は,腰背部痛に対する標準的な治療法としての有効性が数多く報告されている273),274),275),276)(レベルIV)。
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近年,骨粗鬆症性椎体骨折に対して,経椎弓根的に椎体内にリン酸カルシウム骨セメントの注入やハイドロキシアパタイトブロックの挿入を行う椎体形成術(vertebroplastyまたはkyphoplasty)が盛んに行われるようになってきた。術後早期の除痛や椎体変形の防止などの点での有効性が多数報告されている。また,骨粗鬆症性椎体圧潰後の遅発性麻痺や脊柱変形による疼痛に対する手術療法として,主にインプラントを用いた脊椎前方固定術,後方固定術,前方後方固定術,脊椎短縮術などが行われている。いずれも短期成績はおおむね良好であるが,長期成績では骨脆弱性に起因するインプラントの脱転などの合併症の問題が解決されていない(レベルIV)。
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運動療法に関しては,多くのランダム化比較試験の結果のみならず,メタアナリシスにおいても,閉経前後の女性251),または閉経後の女性277)において,骨量減少予防あるいは骨量増加に有効であることが示されている(グレードA)。
物理療法に関しては,多くの経験的な有効性が示されているものの,ランダム化比較試験はほとんど行われていない。唯一,慢性腰痛に対する低出力レーザー照射の有効性がランダム化比較試験により示されている270)(グレードB)。
薬剤に関して,カルシトニン272),アレンドロネート271),リセドロネート101)の疼痛に対する有効性は多施設によるランダム化比較試験により明らかとなっている(グレードB)。
ブロック療法に関しては,多くの経験的な有効性が示されているが,骨粗鬆症を対象としたランダム化比較試験は行われていない。また,慢性腰痛に対するプラセボとコルチコステロイド剤による椎間関節ブロックのランダム化比較試験では,ほとんど効果に差がないという報告がある278)(グレードC)。
手術療法に関して,椎体形成術の有効性は多数報告されているが,従来から行われている保存的治療を対照としたランダム化比較試験は行われていない(グレードC)。また,インプラントを用いる各種の脊椎固定術は,主に麻痺などの重篤な症状を有する骨粗鬆症患者に対して行われる方法であるため,保存療法との比較試験を行うことは極めて難しく,適応や方法は個々の症例の状況に応じて決めざるをえないのが現状である(グレードC)。