(旧版)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン
V 骨粗鬆症の治療 |
C.骨粗鬆症の一般的な治療(薬物以外)
b.運動指導
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生活習慣の管理のなかで,栄養摂取にも増して重要なのが,運動の励行といわれている。運動の励行は閉経後女性の骨量低下を防止し,骨量の維持・増加に寄与するか。結論としては,閉経後女性において,運動は腰椎および大腿骨頸部の骨量減少予防効果があるとしてよいようである。その根拠として,1999年に報告されたメタアナリシス251)では,運動は少なくとも椎体および大腿骨頸部の骨量減少を防止すると結論づけた。さらに2000年に報告された閉経後女性を対象とした24のRCTのメタアナリシス252)では,運動群は非運動群に比べて,腰椎および大腿骨頸部の骨量が維持,あるいは増加したという。また,運動の内容についての18の介入研究におけるメタアナリシス253)では,強度が中等度の運動,なかでもウォーキング,ランニング,エアロビクスなどの身体活動が,特に腰椎における骨量低下を防止するとしている。なお,最近の報告254)でも,強度が中等度のレジスタンス・エクササイズを行うと,少なくとも8時間後には血中NTXなどの骨代謝マーカーが低下することが認められている。このことから,運動の励行は骨代謝に直接関与することが示唆される。閉経後女性を対象とした,骨密度をアウトカムとした運動の効果に関する最近10年間の介入研究の結果を表43に示した。1件を除き,増加の程度はともかく,少なくとも効果を認めている。
[エビデンステーブル] 表43 閉経後女性を対象とする運動による骨量に対する介入研究 |
運動の内容 | 強度 | 時間 | 頻度 | 期間 | 結果 | 文献 | エビデンス レベル |
レジスタンス・トレーニング | 1RMの80% | 4回/週 | 1年と3ヵ月のデイトレーニング | ● 脱× |
259) | III | |
自宅(踵上げ) | 50回(自宅) | 毎日(自宅)+1回/週 | 1年 | ● | 260) | II | |
荷重負荷運動 (歩行,ベンチ昇降) エアロビクス,柔軟体操 |
60分 | 3回/週 | 1年 | ▲ | 261) | IV | |
レジスタンス・トレーニング | 最大負荷 | 8回×3セット or 20回×3セット |
1年 | ▲ | 262) | II | |
ヒップフレクション | 5kgの負荷 | 60回 | 2年 | ● | 263) | III | |
エアロビクスと ステップエクササイズ |
2回/週 | 1.5年,個人的に8ヵ月の継続 | ● | 264) | II | ||
背筋のレジスタンス・ トレーニング |
1RMの30% | 10回×1セット/日 | 5回/週 | 2年 | 10年後に● | 265) | II |
ジャンプを主とした エアロビクスとステップ |
45分 | 3回/週 | 1年 | × | 266) | II | |
太極拳 | 45分 | 5回/週 | 1年 | ● | 267) | II |
RM:repetition maximum,●:運動による効果あり,▲:部位により運動の効果あり,×:運動の効果なし,脱:トレーニング後 |
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高齢者の骨折防止に関しては,運動と大腿骨頸部骨折との関連についてのレビュー123)によると,活発な日常生活活動が大腿骨頸部骨折の予防に効果的で,また仕事における運動よりも余暇の活動のほうが効果は大であり,最大で50%低減したという。
さらに11の論文をレビューした研究122)では,活発な身体活動は,座りがちな生活よりも大腿骨頸部骨折を20〜40%低下させるという。運動内容については,日常の活動,すなわち階段の昇降や散歩でも効果があり,それも量的依存性がある255)といわれている。また,椎体骨折防止効果については,背筋を鍛える運動群は非運動群に比べて相対リスクは2.7と,効果があるという。75±3歳(1,076例)を対象とした最近の横断研究256)にて,カルシウムの摂取と,日常活動度が高い集団は,低い集団に比べて大腿骨頸部骨折が17%減少するとの報告がある。以上から,大腿骨頸部骨折予防のために,日常生活では活発に身体を動かすように指導すべきである。
高齢者において,運動の効果によって骨折防止が可能であるとするならば,転倒予防を介しての効果が加わっていると考える必要がある。転倒因子に対しても多くの研究があり,その結果をもとに多くの転倒予防プログラムが考案されている。これらの運動プログラムによる介入研究はあるが,その効果は十分に証明されていない。このことは,骨折を生じる転倒は全転倒の10%程度にすぎないこともあり,転倒イコール骨折ではないので,骨折抑制をendpointとした介入研究でも有意な結果が出にくいことによるものと思われる。しかし,Robertsonら177)によるメタアナリシスでは,筋力強化とバランス改善プログラムにより,転倒は35%減少したというが,重度の外傷発生に関しては効果がなかったという。
また,Graggら257)の,65歳以上の白人女性9,704人を対象として行ったコホート研究では,日常の活動性が高いと,年齢・栄養・転倒・機能健康状態を補正したうえでも大腿骨頸部骨折の発生頻度は低いという。この研究における日常活動性とは週ごとの消費カロリーを基準に5段階に分けており,いわゆる運動負荷だけによるものではないが,活動性があると大腿骨頸部骨折を防止できるというものである。ただし,椎体骨折や前腕骨の骨折防止効果はないという。このことから,非運動性が骨折の危険因子となることは間違いないようである。骨粗鬆症の予防・治療には運動プログラムも不可欠であり,今後,転倒予防を視野に入れた骨折予防に関する介入研究が急務である。
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運動処方の具体的内容とは,運動の種類,強さ,時間,頻度があげられる。そこで健康な対象者に対する骨粗鬆症の一次予防,すなわち骨量の維持・増加を目的とした運動の介入のあり方について以下に記載する。
閉経前の若年成人を対象とした介入研究における運動内容は,比較的重い負荷によるレジスタンス・トレーニングや,
閉経周辺期から閉経後女性を対象とした介入研究は最も数が多く,各種の運動について検討されている。その内容は,若年者の運動に比べ,強度はより低く,1回の時間が1時間弱とより長く,頻度は週に2〜3回の実施で,骨粗鬆症の一次予防というよりはむしろ,健康全般の維持や生活習慣病の予防のための運動処方に近い内容のことが多い。近年はレジスタンス・トレーニングによる研究も多いが,これらは1RM(repetition maximum)の40%で15〜20回,または80%で8回を,それぞれ3セット実施しているものが多い。またレジスタンス・トレーニングの内容は,骨密度の測定部位に合わせて,大腿,躯幹,上腕をトレーニングするものが多い。その結果,運動により骨量減少が抑制されたとする研究は多いが,トレーニングを中止すると,いずれも運動の効果は消失している。
Wallaceら252)のメタアナリシスでは,閉経後女性の腰椎骨密度は,エアロビクスなどの衝撃性の強い運動でも,ウェイトトレーニングなどの衝撃性のない運動でも,増加効果は認められている。しかし,大腿骨密度に対しては,衝撃性のある運動では骨密度減少の防止効果が認められたが,衝撃性の少ない運動では,研究数が少ないこともあって明確な結論は得られていない。
Dalskyら258)の縦断研究では,55〜70歳の特に運動をしていない女性を対象に,
すなわち,短期であっても長期であっても,荷重負荷運動は腰椎骨密度を増加しうる。しかし,運動を中止すると,その効果は消失し,閉経後に始めた骨量の維持運動は,少なくとも継続が必須であることが示唆されている。
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運動の励行は骨量低下を防止し,骨量の維持・増加に有効である(グレードB)。
運動の励行は骨折防止に対して有効である(グレードB)。
具体的な活動としては散歩などでよい。また高齢者の椎体骨折予防のためには背筋を鍛えるような運動が望ましいとされている。
【参照】
「IV 骨粗鬆症の予防 B.中高年者の予防と検診」