(旧版)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン
V 骨粗鬆症の治療 |
C.骨粗鬆症の一般的な治療(薬物以外)
a.食事指導
骨粗鬆症の治療のための食事で大切なことは,エネルギーおよび各栄養素がバランスよく摂取できたうえで,さらにカルシウム,ビタミンD,ビタミンKなど本疾患の治療に必要な栄養素を積極的に摂取することである。また,高齢者ではタンパク質摂取量が少ない場合も多く,骨量減少を助長している可能性も報告されている233)。したがって,特定の食品やサプリメントでカルシウムのみを多く摂取するだけでなく,適切なタンパク質摂取も必要である。
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日本人の食事摂取基準(2005年版)に示されたカルシウムの摂取基準(18歳以上)を表39に示す234)。この摂取基準は,健康人を対象として策定されたものである。目安量と目標量の二つの指標があるが,骨粗鬆症の治療のためには,最低でも目安量の水準の摂取は確保すべきである(目標量は,献立作成の現場などでの,食事摂取基準の実践可能性を考慮して策定されたものである)。
表39 カルシウムの摂取基準(mg/日) |
年齢 | 男性 | 女性 | ||
目安量 | 目標量 | 目安量 | 目標量 | |
18〜29(歳) | 900 | 650 | 700 | 600 |
30〜49(歳) | 650 | 600 | 600 | 600 |
50〜69(歳) | 700 | 600 | 700 | 600 |
70以上(歳) | 750 | 600 | 650 | 550 |
(厚生労働省:日本人の食事摂取基準2005年版より) 上限量は男女ともに2,300mg/日 |
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高齢女性を対象に1日あたりカルシウム1,200mgとビタミンD800IUの投与により,1年半後の骨折の発生が抑えられたとの報告があるが222),カルシウム摂取量を増やす,あるいはカルシウム製剤を服用するだけで,骨粗鬆症の治療,すなわち骨量の増加や骨折の予防が期待できるわけではなく,カルシウム摂取はあくまでも基本的な治療と考えるべきである。ビスフォスフォネート,PTH,SERM,カルシトニンに対して,これらの薬剤の効果を最大限に期待するためには,カルシウムやビタミンD,その両者のサプリメントが有効であるとの報告がある235)。女性ホルモン補充療法の効果を高めるためにも,カルシウムの摂取量を増やす必要があるとの報告もある236)。また,骨粗鬆症や骨折の予防のためのカルシウム摂取の勧告によると,1日800mgの摂取が勧められている134),237),238)。さらに高齢女性では,腸管からのカルシウム吸収率が低下する239)ことや,血中25(OH)Dの低値の者が多い240)ことから,ビタミンDの摂取についても十分に考慮する必要がある。また,ビタミンKは,オステオカルシンの活性化を通して骨の健康に関与しており241),骨密度や骨折との関係も報告されていることから,積極的な摂取が勧められる242),243)(表40,41)。
[エビデンステーブル] 表40 カルシウム補給と骨密度,骨折に関する主な文献レビュー |
文献 | 試験デザイン | 解析対象 | 介入方法 | 成績 | エビデンス レベル |
125) | メタアナリシス | 45歳以上の閉経後女性, 15件のRCT |
Ca 400mg以上 | Ca補給のみでは骨密度に対する効果は少ない | I |
238) | メタアナリシス | 閉経後女性 16件のRCT |
Ca 300mgの増加で大腿骨骨折は4%低下 | I | |
134) | メタアナリシス | 18〜50歳女性 22件の報告 |
Ca摂取量と骨密度の間には正の相関関係あり | I | |
136) | システマティック レビュー |
9件の報告 | Ca摂取と大腿骨頸部骨折 | 有意差あり1件,有意な傾向2件,差なし6件 | I |
244) | RCT | 女性78名(平均58歳) | Ca 1,000mg 2〜4年 |
腰椎,全身の骨密度低下抑制 | II |
245) | RCT | 女性295名(46〜55歳) | Ca 1,000, 2,000mg 2年 |
腰椎骨密度低下抑制 | II |
222) | RCT | 女性3,270名(平均84歳) | Ca 1,200mg VD 800IU 18ヶ月 |
大腿骨頸部および非椎体骨折減少 | II |
[エビデンステーブル] 表41 ビタミンDと骨密度,骨折に関する主な文献レビュー |
文献 | 試験デザイン | 解析対象 | 介入方法 | 成績 | エビデンス レベル |
246) | メタアナリシス | 45歳以上の閉経後女性, 25件のRCT |
VD 400IU以上 | 椎体骨折抑制 | I |
247) | RCT | 70歳以上女性348名 | VD 400IU 2年 |
大腿骨骨密度増加 | II |
248) | RCT | 65歳以上男女389名 | VD 700IU CA 500mg 3年 |
大腿骨,椎体および全身骨密度 低下抑制,非椎体骨折抑制 |
II |
222) | RCT | 女性3,270名 (平均84歳) |
VD 800IU Ca 1,200mg 18ヵ月 |
大腿骨頸部および非椎体骨折減 | II |
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以上から,骨粗鬆症治療のために推奨される,これらの栄養素の摂取目標量を表42に示す。
表42 骨粗鬆症治療のためのカルシウム,ビタミンD,ビタミンK摂取目標量 |
カルシウム | 800mg以上,食事で十分に摂取できない場合には,1,000mgのサプリメントを用いる。(グレードB) | |
ビタミンD | 400〜800IU(10〜20µg)(グレードB) | |
ビタミンK | 250〜300µg(グレードC) |
ビタミンDは魚類,きくらげに多く含まれている。ビタミンKは納豆,緑黄色野菜に多く含まれている。 付表にカルシウム,ビタミンK,ビタミンDを多く含む食品の例を示した。 |
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臨床の現場では,個人ごとのカルシウム摂取量をより簡便に把握することが望まれる。付表1は,カルシウムの自己チェック表として開発されたものであるが,短時間で摂取量を推定できるので有用といえる249)。習慣的なカルシウム摂取量を把握したうえで,足りない場合にはサプリメントの投与を考慮する必要がある。
付表1 カルシウム自己チェック表(文献249より引用) |
0点 | 0.5点 | 1点 | 2点 | 4点 | 点数 | |
1 牛乳を毎日どのくらい飲みますか? (1回量:牛乳コップ1杯(160mL)) |
ほとんど 飲まない |
月1〜2回 | 週1〜2回 | 週3〜4回 | ほとんど 毎日 |
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2 ヨーグルトをよく食べますか? (1回量:ヨーグルト1個(100g)) |
ほとんど 食べない |
週1〜2回 | 週3〜4回 | ほとんど 毎日 |
ほとんど 毎日2個 |
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3 チーズなどの乳製品やスキムミルクをよく食べますか? (1回量:スキムミルク大さじ1.5杯(10g),チーズ一切(20g)) |
ほとんど 食べない |
週1〜2回 | 週3〜4回 | ほとんど 毎日 |
2種類以上 毎日 |
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4 大豆,納豆など豆類をよく食べますか? (1回量:納豆1パック,煮豆小鉢1杯,きな粉大さじ2杯) |
ほとんど 食べない |
週1〜2回 | 週3〜4回 | ほとんど 毎日 |
2種類以上 毎日 |
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5 豆腐,がんも,厚揚げなど大豆製品をよく食べますか? (1回量:豆腐1/4丁,がんも小1個,厚揚げ小1枚) |
ほとんど 食べない |
週1〜2回 | 週3〜4回 | ほとんど 毎日 |
2種類以上 毎日 |
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6 ほうれん草,小松菜,チンゲン菜などの青菜をよく食べますか? (1回量:お浸し小鉢1杯) |
ほとんど 食べない |
週1〜2回 | 週3〜4回 | ほとんど 毎日 |
2種類以上 毎日 |
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7 海藻類をよく食べますか? | ほとんど 食べない |
週1〜2回 | 週3〜4回 | ほとんど 毎日 |
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8 シシャモ,丸干しいわしなど骨ごと食べられる魚を食べますか? (1回量:シシャモ・丸干しいわし2尾) |
ほとんど 食べない |
月1〜2回 | 週1〜2回 | 週3〜4回 | ほとんど 毎日 |
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9 しらす干し,干し海老など小魚類を食べますか? (1回量:しらす干し,干し海老1つかみ) |
ほとんど 食べない |
週1〜2回 | 週3〜4回 | ほとんど 毎日 |
2種類以上 毎日 |
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10 朝食,昼食,夕食と1日に3食を食べますか? ((1日1〜2食しか食べない(1点) 欠食することが多い(2点) 1日3食きちんと食べる(3点) |
合計点数 | 判定 | コメント |
20点以上 | 良い | 1日に必要な800mg以上とれています。このままバランスのとれた食事を続けましょう。 |
16〜19点 | 少し足りない | 1日に必要な800mgに少し足りません。20点になるよう,もう少しカルシウムをとりましょう。 |
11〜15点 | 足りない | 1日に600mgしかとれていません。このままでは骨がもろくなっていきます。あと5〜10点増やして20点になるよう,毎日の食事を工夫しましょう。 |
8〜10点 | かなり足りない | 必要な量の半分以下しかとれていません。カルシウムの多い食品を今の2倍とるようにしましょう。 |
0〜7点 | まったく足りない | カルシウムがほとんどとれていません。このままでは骨が折れやすくなってとても危険です。食事をきちんと見直しましょう。 |
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牛乳・乳製品,野菜,大豆製品の摂取量を増やすことが,カルシウム摂取量の増加につながっている250)。さらに,骨ごと食べることのできる小魚や干しえびなどを加えると,カルシウム摂取量を増やすことができる。多くの食品からカルシウムを摂取することは,カルシウム以外の栄養素の摂取にもつながり,望ましいといえる。
付表2〜4にカルシウム,ビタミンD,ビタミンKの豊富な食品例を示す。
付表2 カルシウムを多く含む食品 | 付表3 ビタミンDを多く含む食品 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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付表4 ビタミンKを多く含む食品 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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ビタミンKはこのほかに,植物油に含まれている。 五訂増補日本食品標準成分表より |
【参照】
「IV 骨粗鬆症の予防 A.若年者の予防」
「IV 骨粗鬆症の予防 B.中高年者の予防と検診」