(旧版)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン
III 骨粗鬆症による骨折の危険因子 |
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骨折の危険因子は,「骨密度低下」「骨質低下」「外力(転倒など)」に影響を与える因子である。骨折高リスク者を判定するには,骨密度測定に加えて,「骨質」「外力」に関連する危険因子を評価する必要があり,骨密度とは独立した骨折危険因子が何であるかを知っておくことがポイントとなる。
年齢,性
椎体骨折,大腿骨頸部骨折発生率は女性で高く,男女とも年齢とともに指数関数的に増加する。女性,高齢は骨粗鬆症による骨折の重要な危険因子である。年齢は骨密度とは独立した骨折危険因子で,同じ骨密度を示していても年齢が高いほど骨折リスクは高い(レベルI)。
低骨密度
低骨密度は骨折を強く予測する。大腿骨頸部骨折は大腿骨頸部骨密度が最もよく予測するが,その他の骨密度測定部位においてはほぼ同じ程度に骨折を予測し,骨密度が1標準偏差低いと,男女とも1.5倍から2倍骨折リスクは高まる77),112)。骨密度の骨折予知は男女同じで,骨密度1標準偏差低下における大腿骨頸部骨折の相対リスクは年齢が高くなるほど低下する(レベルI)112)。
骨折既往
男女とも部位にかかわらず既存骨折があると将来の骨折リスクは約2倍になる75),113)。特に,既存椎体骨折があると将来の椎体骨折は約4倍に高まる(レベルI)75)。
喫煙
非喫煙者,禁煙者,喫煙者の順に骨密度は低く114),現在喫煙している人の骨折リスクは約1.3〜1.8倍になる115),116),117)。喫煙の骨折への影響は,女性より男性に強い。喫煙は,骨密度,BMIとは独立して骨折へ影響を与える(レベルI)115)。
アルコール飲酒
1日2単位以上の飲酒で骨折リスクは約1.2〜1.7倍高い118)。骨折リスクはアルコール量が多いほど高くなり,骨密度を補正しても相対リスクはほとんど変わらず,男女で差はみられなかった(レベルI)。
ステロイド使用
プレドニゾロン換算で1日5mg以上の経口ステロイド治療は骨密度を低下させ骨折リスクを高める119)。経口ステロイド治療後3〜6ヵ月以内に骨折は増加し,使用中止後は低下する。ステロイド使用の骨折に対する影響は骨密度や既存骨折とは独立していて,ステロイド使用の骨折リスクは約2〜4倍になる(レベルI)120)。
骨折家族歴
親が大腿骨頸部骨折していると骨折リスクは2.3倍になり,その他の骨折の家族歴があると骨折は1.2〜1.5倍になる(レベルI)121)。
運動
活発な身体活動,日常生活活動は,骨粗鬆症性骨折,大腿骨頸部骨折に予防的な効果があり,骨折リスクは20〜40%,最大で50%の予防効果が認められた(レベルI)122),123)。
転倒に関連する因子
大腿骨頸部骨折は転倒して起こることがほとんどで,転倒回数,全身衰弱,麻痺,筋力低下,睡眠薬,視力低下などが危険因子として報告されている(レベルIV)。
骨代謝マーカー
骨吸収マーカーは骨折を予測するが,骨形成マーカーは骨折を予測しないという報告が多い。ただし,骨折を予測する骨吸収マーカーの種類は報告によって必ずしも一致しない(レベルI)。
体重
やせは骨密度と独立した大腿骨頸部骨折の危険因子となるが,ほかの骨折については骨密度と独立した骨折危険因子とはならない124)。すなわち,大腿骨頸部骨折以外の骨折では,低体重,低BMIによって低骨密度になり,その結果骨折リスクを上げていると考えられる(レベルI)。
カルシウム摂取
カルシウム・サプリメントは骨密度に対しては約2%骨密度を増加させる効果はあるが,椎体骨折,非椎体骨折については予防効果がない125)。カルシウム摂取量が少ないことは低骨量の危険因子になるが,骨折に与える影響は少ないと考えられる。したがって,低カルシウム摂取は低骨量を介して骨折リスクを増加させると考えられる(レベルI)。
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現在,骨粗鬆症治療開始は骨密度を基準に行われているが,同じ骨密度を示していても年齢が高いほど,表22の危険因子*をもつほど,骨折リスクは高くなる。骨密度,年齢,危険因子を総合的に考慮に入れることで,骨折リスクの高い人をより効果的に判別できる。
[エビデンステーブル] 表22 骨折の危険因子 (メタアナリシス,システマティック・レビューによる結果〔エビデンスレベルI〕のみ表示) |
危険因子 | 文献 | 成績 | ||
低骨密度 | 77) | BMD 1SD低下RR 1.5 腰椎BMD:椎体骨折RR 2.3,大腿骨頸部BMD:大腿骨頸部骨折RR 2.6 |
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112) | BMD 1SD低下で65歳男大腿骨頸部骨折RR 2.94,65歳女RR 2.88 | |||
骨密度とは 独立した危険因子 |
既存骨折* | 75) | 既存椎体骨折:椎体骨折RR 4,その他の組み合わせRR 2 | |
113) | 既存骨折:すべての骨折RR 1.86 | |||
喫煙* | 115) | 喫煙:RR 1.25 | ||
116) | 喫煙:すべての骨折RR1.26,大腿骨頸部骨折RR 1.39,椎体骨折RR 1.76 | |||
飲酒* | 118) | 1日2単位以上:骨折RR 1.23,骨粗鬆症性骨折RR1.38,大腿骨頸部骨折RR1.68 | ||
ステロイド使用* | 120) | 骨粗鬆症性骨折RR 2.63〜1.71,大腿骨頸部骨折RR 4.42〜2.48 | ||
119) | GPRD:骨折RR1.33,大腿骨頸部骨折RR 1.61,椎体骨折RR 2.6,手首骨折RR 1.09 その他:骨折RR1.91,大腿骨頸部骨折RR 2.01,椎体骨折RR 2.86,手首骨折RR 1.13 |
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骨折家族歴* | 121) | 親の大腿骨頸部骨折:大腿骨頸部骨折RR2.3 | ||
親の骨折:骨折RR 1.17,骨粗鬆症性骨折RR 1.18,大腿骨頸部骨折RR 1.49 | ||||
運動 | 122) | 大腿骨頸部骨折リスク20〜40%低い | ||
123) | 最大で50%の予防効果 | |||
骨密度を介した 危険因子 |
体重,BMI | 124) | BMDを調整しない場合,BMIが高い(1kg/m2)と骨粗鬆症性骨折RR 0.93 | |
カルシウム摂取 | 125) | カルシウム補助薬:椎体骨折RR 0.77(0.54 〜1.09),非椎体骨折RR 0.86(0.43〜1.72):有意ではない |
BMD:骨密度,RR:相対リスク,GPRD:general practice research database |