(旧版)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン
II 骨粗鬆症の診断 |
F.診断基準
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骨量測定方法の進歩と普及を背景に,1991年の国際骨粗鬆症会議において,骨粗鬆症は低骨量と骨組織の微細構造の破綻によって特徴づけられる疾患であり,骨の脆弱性亢進と骨折危険率の増大に結びつく疾患と定義された110)。この定義に従った診断基準がわが国でも整備され,1996年の日本骨代謝学会診断基準をもとに,2000年に改訂版が作成されて今日に至っている(表21)9)。近年,骨強度の規定因子のうち,骨密度が最も関連が強いものの,骨強度のすべてを規定するわけではないことが注目されている。骨密度以外の因子,つまり骨微細構造や骨の生化学的性質によって規定されている部分は「骨質」として表されている。National Institutes of Health(NIH)によるコンセンサスミーティングでは,「骨粗鬆症は骨強度の低下(compromisedbone strength)を特徴とし,骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患」と再定義された36)。骨質の明確な定義や評価の方法は現時点では確立されていないが,骨密度以外の主要な骨折危険因子としては,高年齢,既存骨折の有無,そして骨代謝マーカーの高値があげられる111)。このうち,既存骨折については,「脆弱性骨折の有無」という形で,わが国の診断基準ではすでに考慮されている。
表21 原発性骨粗鬆症の診断基準(2000年度改訂版) |
低骨量をきたす骨粗鬆症以外の疾患または続発性骨粗鬆症を認めず,骨評価の結果が下記の条件を満たす場合,原発性骨粗鬆症と診断する。 |
I 脆弱性骨折(注1)あり | ||||
II 脆弱性骨折なし | ||||
骨密度値(注2) | 脊椎エックス線像での骨粗鬆化(注3) | |||
正常 | YAMの80%以上 | なし | ||
骨量減少 | YAMの70〜80% | 疑いあり | ||
骨粗鬆症 | YAMの70%未満 | あり |
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わが国の診断基準で示された骨密度測定値に関する診断基準は,当初は横断調査で,2000年改訂版では縦断的調査によって,ROC解析の手法を用いて求められたものである。その値は,若年成人女性の平均値(young adult mean:YAM)との比較で表されていることが特徴である。すなわち,骨粗鬆症の診断基準値はYAMの70%であり,国際的な基準値である,Tスコアでの-2.5SDにほぼ一致する。また,「脆弱性骨折」を有する場合にはYAMの80%で診断するように規定されている。骨密度の判定において脆弱性骨折を有する場合には10%厳しく判定することになる。ここでいう脆弱性骨折とは,「低骨量を有していて」軽微な外力で発症した骨折であり,あくまでも骨粗鬆症性の骨折を指している。なお,この場合の「軽微な外力」とは,立った姿勢からの転倒か,それ以下の外力を指すことが多い。この程度の骨量差は,新規脊椎圧迫骨折のリスクとしては3〜4倍の差に結びつく。さらに脊椎圧迫骨折が一つある場合とまったくない場合に比べて,リスクは3〜4倍になることが報告されており38),診断基準における10%の差と合致している。近年,既存骨折を有することは独立した骨折のリスクとしてとらえられているが,このことがわが国の診断基準にはすでに織り込まれていたことになる。国際的に代表的な診断基準であるWHOの診断基準は,疫学的な研究によって得られた「生涯骨折危険率」をもとに設定されたものであり,骨密度のみに基づく診断基準である。この点から,わが国の診断基準は,骨強度を臨床的に把握するという点において,より実用的な診断基準であるといえよう。骨密度は骨強度と規定する最大の臨床的指標であるが,その他の因子も無視できない。なお,骨粗鬆症診断のための骨量判定において,脆弱性骨折の存在が加味される一方で,脆弱性骨折の存在のみでも,骨密度測定の結果いかんにかかわらず,骨粗鬆症としてとらえるべきではないか,という議論もある。
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骨量の評価と脆弱性骨折の有無の判定,そして鑑別診断によって,わが国の診断基準にのっとった骨粗鬆症の診断が行われる。この過程で,現在までに把握された脆弱性骨折の危険因子のうち,二つが考慮されることになる。さらに,実地診療において治療方針を決定するにあたっては,骨代謝マーカーや年齢,そして併発する疾患などを総合的に勘案することが必要である。