(旧版)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン
II 骨粗鬆症の診断 |
E.鑑別診断
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骨粗鬆症は原発性と続発性に分けられるが,続発性骨粗鬆症は,原発性骨粗鬆症に比べてしばしば症状が重症である。また続発性骨粗鬆症は治療戦略が原発性骨粗鬆症と異なることが多く,さらに原疾患の治療により劇的な改善が得られる場合があることから,骨粗鬆症診断における鑑別診断は極めて重要といえる36)(レベルI)
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狭義の骨粗鬆症である原発性骨粗鬆症の診断のステップは,おおむね図12のとおりである9)。まず骨粗鬆症の可能性のある患者(腰背部痛などの有症者,検診での要精検者など)の骨評価を行い,骨量の低下が疑われる患者について,低骨量をきたす他の疾患を除外する。そして骨折の有無や骨密度の評価から,骨量の低下が確認されたものを骨粗鬆症と診断したうえで,続発性骨粗鬆症が除外されたものを原発性骨粗鬆症とする。このようなステップからわかるように,骨粗鬆症の診断のステップは鑑別診断のステップでもある。すなわち原発性骨粗鬆症の診断には,骨粗鬆症の経過中にみられる症状に類似の症状を呈する疾患の鑑別(表18),低骨量をきたす疾患の鑑別(図13),最後に原発性骨粗鬆症と類似の骨の微細構造の劣化をきたす続発性骨粗鬆症の鑑別(図13)が求められる。また,原発性骨粗鬆症は加齢変化に伴い進行するものであることから,高齢者の続発性骨粗鬆症では退行期骨粗鬆症の要素が加味されている場合も多い。
したがって,骨粗鬆症の診断を進める場合には,常にこれらの疾患を念頭におく必要がある。そのために必要な医療面接上の要点を表19にまとめた(レベルIV)。また骨の評価のほかに,鑑別診断のために血液・尿検査が必須であり,検査所見における鑑別診断の要点は表20にまとめた(レベルIV)。
図12 原発性骨粗鬆症の診断手順(文献9より引用) |
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表18 骨粗鬆症に類似する臨床症状を呈する疾患 |
椎体由来の腰背部痛をきたす疾患 | 椎体以外に由来する腰背部痛 | ||||
腰痛症 | 膵炎 | ||||
変形性脊椎症 | 胆石 | ||||
椎間板ヘルニア | 胃潰瘍 | ||||
脊椎分離・すべり症 | 虚血性心疾患 | ||||
脊椎管狭窄症 | 後腹膜腔臓器疾患 | ||||
化膿性脊椎炎 | 尿路結石 | ||||
脊椎カリエス | 月経困難症 | ||||
強直性脊椎炎 | その他 | ||||
馬尾神経腫瘍 | |||||
腫瘍の骨転移 | |||||
潜在二分脊椎 |
椎体の変形や円背をきたす疾患 | ||
続発性骨粗鬆症 | ||
代謝性骨疾患(骨軟化症,原発性または二次性副甲状腺機能亢進症) | ||
Scheuermann病 | ||
脊椎異常などの骨系統疾患 | ||
椎体・椎間板の変性疾患 | ||
悪性腫瘍の骨転移や脊椎血管腫などの腫瘍性疾患 | ||
脊椎カリエスや化膿性脊椎炎などの炎症性疾患 | ||
外傷による骨折 |
図13 低骨量を呈する疾患(文献9より引用改変) |
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表19 骨粗鬆症の鑑別診断において注目すべき事項 |
医療面接 | |||||
年齢・性別 | |||||
生活様式 | カルシウム摂取量,ADL/ 運動量,飲酒,喫煙など | ||||
自覚症状 | 腰背部痛,骨痛(痛みの性状,骨折部位) | ||||
月経歴 | 初経,閉経,月経周期,男性ではインポテンスの有無 | ||||
薬物服用歴 | コルチコステロイド,抗痙攣薬,GnRH,甲状腺ホルモンなど | ||||
既往歴 | 骨折,内分泌疾患,腎疾患,尿路結石,関節リウマチ,悪性腫瘍(乳癌など),消化管疾患など | ||||
手術歴 | 卵巣,精巣,消化管,下垂体,甲状腺 | ||||
家族歴 | 骨粗鬆症,原発性副甲状腺機能亢進症,尿路結石,骨折 |
身体所見 | |||||
やせ | 甲状腺中毒症,悪性腫瘍,神経性食思不振症 | ||||
肥満 | Cushing症候群 | ||||
体毛の増加 | Cushing症候群 | ||||
筋力低下 | Cushing症候群,骨軟化症 | ||||
青色強膜 | 骨形成不全症 | ||||
性毛の脱落 | 性腺機能低下症 |
GnRH:Gonadotropin releasing hormone |
表20 骨粗鬆症の鑑別診断において注目すべき検査所見 |
白血球増多 | Cushing症候群,ステロイド内服 | ||||
貧血 | 悪性腫瘍 | ||||
高カルシウム血症 | 原発性あるいは続発性副甲状腺機能亢進症 | ||||
多発性骨髄腫 | |||||
悪性腫瘍 | |||||
低カルシウム血症 | 吸収不良症候群 | ||||
Fanconi症候群 | |||||
ビタミンD作用不全 | |||||
腎不全 | |||||
低リン血症 | 骨軟化症 | ||||
アルカリフォスファターゼ高値 | 骨Paget病 | ||||
骨軟化症 | |||||
原発性あるいは続発性副甲状腺機能亢進症 | |||||
甲状腺中毒症 | |||||
悪性腫瘍 | |||||
グロブリン高値 | 多発性骨髄腫 | ||||
高カルシウム尿症 | 原発性あるいは続発性副甲状腺機能亢進症 | ||||
多発性骨髄腫 | |||||
悪性腫瘍 | |||||
Cushing症候群 | |||||
腎性特発性高カルシウム尿症 |
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続発性骨粗鬆症の頻度に関する正確な統計はみられないが,日常臨床で比較的頻度の高い続発性骨粗鬆症は,薬剤性ステロイド骨粗鬆症と思われる。また男性では続発性骨粗鬆症の頻度が高く,ステロイド性骨粗鬆症,性腺機能低下症,慢性アルコール中毒などが多いといわれている109)(レベルIII)。
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骨粗鬆症は高齢者に多くみられる疾患であることから,高齢者の特徴である多病性,非典型的症状,大きな個人差など,診断の妨げとなる要素がみられるが,適切な治療戦略の確立のためには手順に沿った鑑別診断が求められる(グレード A)。