(旧版)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン
II 骨粗鬆症の診断 |
A.総論
c.身体所見
基本的な考え方
骨粗鬆症の診断における身体所見の有用性は,骨密度検査を必要とする骨折リスクの高い患者を選別することと,骨折リスクの低い健常者の検査を回避することである。特異度が高い(90%以上)身体所見ほど有用性が高い。
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低体重と低骨密度は関連する。しかしながら,体重のみで骨密度を予測することはできない。体重に年齢を組み合わせたアジア女性に対する骨粗鬆症自己評価指数(FOSTA)58)を活用すると,低骨密度との関連性をさらに高めることができる。
エビデンス
EPIDOS studyに参加した既存骨折のない75歳以上の女性4,638名(平均年齢80歳,骨粗鬆症罹患率50%)を対象に,体重と骨密度の関連性を検討した報告では,低体重と低骨密度には高い関連性を認めている。体重が66kg以上の人と比較して,体重が59kg未満,52.5kg未満では,低骨密度(大腿骨頸部骨密度T score≦-3.5)であるオッズ比が,それぞれ5.7倍,15.8倍と上昇していた59)(レベルIV)。
28~74歳(平均年齢50.8歳)の女性175名(骨粗鬆症罹患率4%)を対象に,低骨密度(T score<-2.5)と体格との関連を検討した研究で,体重が60kg未満だと60kg以上より低骨密度になる確率が3.6倍になると報告している60)(レベルIV)。
18歳以上の健康な女性1,873名(骨粗鬆症罹患率は8%)を対象に,体格と低骨密度(T score<-2.5)との関連を検討した研究で,51kg未満の低体重と低骨密度との関連性は,感度が22%で,特異度が97%であった61)(レベルIV)。
藤原らは,閉経後日本人女性1,127名を対象に,FOSTA58)を用いて骨粗鬆症の有病率を検討し,FOSTA=[体重(kg)-年齢(歳)]×0.2が-4未満の高リスク群が全体の25%存在し,これらの女性の43~45%が骨粗鬆症であったと報告している62)(レベルIV)
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身長の低下は,椎体骨折の診断に有効な身体所見であるが,具体的な数値については明らかにされていない。身長と体重を組み合わせたBMIでは,20kg/m2未満だと大腿骨頸部骨折のリスクが高まる。
エビデンス
FIT studyに参加した13,732名を対象にした研究では,25歳のときからの身長短縮が4cm以上のグループは,それ未満のグループと比較して,椎体骨折の相対危険率が2.8倍であったと報告されている63)(レベルII)。
EPIDOS studyに参加した既存骨折のない75歳以上の女性4,638名(平均年齢80歳,骨粗鬆症罹患率50%)を対象にした研究では,3cm以上の身長低下と低骨密度(大腿骨頸部骨密度T score≦-3.5)の関連性は認められなかった59)(レベルIV)。
前向きコホート研究による12報告では,BMIを解析した結果,BMIが20kg/m2の人は,25kg/m2の人より大腿骨頸部骨折のリスクが約2倍であると報告されている64)(レベルIV)。
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亀背と低骨密度との関連は明らかである。亀背の診断は,正確な計測を行わなくても医療面接や簡易な診察法でも十分である41)。
エビデンス
Ettingerらは71歳以上の610名の女性を対象に,亀背の程度を測定して骨密度との関連を検討し,特異度が92%であったと報告している65)(レベルIV)。しかしながら,正確な計測を行えない場合に同じような結果が得られるかは不明である。
簡易な亀背の診断法
1)Rib-pelvis test
患者を立位にして,後方から肋骨と骨盤の間に手を入れて2横指以下であれば,腰椎椎体骨折が存在する可能性が高い(図8)。781名の骨粗鬆症外来に通院する女性患者で,この診察法の感度が88%,特異度が46%で有用であると報告されている66)(レベルIV)。
図8 亀背の診断法(文献41より引用改変) |
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Reproduced from JAMA 2004;292:2890-900 with permission of the American Medical Association |
2)Wall-occiput test
患者を壁際に直立させたときに,壁に後頭部がつけられない場合に,胸椎レベルに椎体骨折が存在する可能性が高い(図8)。216名の骨粗鬆症外来に通院する女性患者で,この診察法の感度は60%,特異度が87%で有用であったと報告されているが66)(レベルIV),一方で,60名の患者で同様な診察法で診断して有用性が見出せなかったとの報告もある67)(レベルIV)
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歯数は低骨密度の指標となりうるが,対象とする年齢や口腔の衛生状態により歯数は異なり具体的な数は明らかではない。
エビデンス
190名の地域住民女性(31~79歳)を対象(骨粗鬆症罹患率11.5%)に,歯数と骨密度との関連を調査した研究で,歯数が20以上の女性では低骨密度の割合が7%であったのに対し,歯数が20未満の人では低骨密度の割合が32%と高く,感度は27%,特異度は92%であったと報告している68)(レベルIV)。一方,1,365名の白人閉経後女性(平均年齢53歳,骨粗鬆症罹患率33%)を対象とした研究では,歯数22本をカットオフ値として低骨密度との関連を検討しているが,感度は30%,特異度70%で関連性が低かったと報告している69)(レベルIV)。
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身体所見は,臨床医が個々の患者を診察して検査を行う前に,骨粗鬆症を強く疑ったり否定したりする貴重な判断材料を提供している。FOSTA-4未満,4cm以上の身長短縮,亀背などの身体所見を有する患者は,積極的に骨密度検査やエックス線検査を行うことを推奨する(グレードA)。