(旧版)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン

 
I 骨粗鬆症の定義・疫学および成因

 
B.骨粗鬆症の疫学

Research Question
骨粗鬆症患者は何人くらいいるのか

日本骨代謝学会が1996年に骨密度を加味した骨粗鬆症の診断基準を提案し,わが国における骨粗鬆症のカットオフ値は,女性では若年者(20~44歳)の平均骨密度(young adult mean:YAM)の70%未満とし,70~80%を骨量減少とした10)。2000年の改訂版では,男性の骨粗鬆症診断基準についてもカットオフ値について検討されており,それによると男性も女性同様,YAMの70%程度が骨折の判別に適当であろうと結論されている9)。1996年の診断基準を用いて,藤原らは広島住民から抽出された疫学調査集団を検討し,わが国の骨粗鬆症の有病率は,50歳以上の女性では24%であると述べている11)。また50歳以上の男性においても,若年成人大腿骨頸部-2.5SDをカットオフに使用し,4%であったと報告している11)。これを現在の人口に換算すると,2004年10月1日現在における50歳以上の推計人口は5,247万人(男性2,409万人,女性2,838万人)であるので,50歳以上の男性では96万人,女性では681万人が骨粗鬆症に罹患しているということになる。
また山本も日本骨代謝学会の診断基準を用いて,性別年代別に骨粗鬆症の頻度を求め,骨粗鬆症の有病者数を西暦2000年人口で換算し,男性226万人,女性783万人と報告している12)。年代別割合をもとにこれを2004年の人口に換算してみると,50歳以上の男性では229万人,女性では868万人が骨粗鬆症に罹患していることになる。また山本は,骨粗鬆症有病率の性・年代別分布から,男女とも年齢とともに有病率が増加し,男性より女性のほうがほぼ3倍頻度が高いと報告している(図2)。これらの結果から,もし有病率に変化がないと仮定した場合,現在のところわが国における骨粗鬆症患者数は約780万~1,100万人であると推定できる。
骨粗鬆症は年齢とともに有病者が増加する疾患であるが,総人口に占める65歳以上の高齢者の割合である高齢化率をみてみると,平成17年度の報告では19.5%であり,年々増加し続けている13)。今後も高齢者人口は増加が見込まれるが,その一方で総人口は減少に転じると考えられることから,高齢化率はさらに加速され2015年に26.0%,2050年には35.7%となると予測されている。このような高齢化率の上昇からみて骨粗鬆症の有病率が今後すぐに低下に転じるとは考えられず,近づきつつある超高齢社会を前にして,骨粗鬆症予防と骨折の予防が急務の課題であることは明白である(レベルV

図2 骨粗鬆症有病率の性・年代別分布(文献12より引用)
図2骨粗鬆症有病率の性・年代別分布


Research Question
骨粗鬆症による骨折はどのくらい発生しているのか

大腿骨頸部骨折
大腿骨頸部骨折について,わが国においては,厚生省シルバーヘルスサイエンス研究老人性骨粗鬆症の予防および治療法に関する総合的研究班(1987)14),15),厚生省骨粗鬆症の予防に関する総合研究班(1992年,班長:折茂 肇)16),17),厚生省骨粗鬆症予防のための危険因子に関する研究班(1997年,班長:折茂 肇)18),19),厚生労働科学研究長寿科学総合研究事業骨粗鬆症におけるテーラーメイド医療の確立に関する研究班(班長:折茂 肇)20)により,過去5年ごとに4回の全国規模の調査が行われてきた。2002年の第4回調査の結果によると,大腿骨頸部骨折の推定発生数は,117,900人(男性25,300人,女性92,600人)であり,前3回の調査結果よりもさらに患者数が増えている。すなわち初回(53,100人:男性13,500人,女性39,600人),2回目(76,600人:男性18,700人,女性57,900人),3回目(92,400人:男性20,800人,女性71,600人)の患者数を大きく上回っている。これを年代別でみると,大腿骨頸部骨折の発生率は年齢とともに上昇し,女性は男性より約3倍患者数が多かった(図3)(レベルV)。地域別でみると東北や北関東では少なく,九州,四国,近畿(女性)に多く,西高東低の関係にあることがわかった。

図3 大腿骨頸部骨折の性・年代別発生率とその推移(文献20より引用改変)
図3大腿骨頸部骨折の性・年代別発生率とその推移


椎体骨折
椎体骨折は骨粗鬆症に関連する骨折のなかではもっとも頻度が高いが,軽症あるいは無症状で経過することが多いため,発生率を知るためには,初回調査からある一定の期間をおいて再度同条件でエックス線調査を行う必要がある。このように椎体骨折の疫学調査は実施に困難が伴う。
椎体骨折の発生率については,広島,長崎での出生年別コホート研究が,わが国における一般住民を対象とした唯一の調査である21),22)。1958~1986年まで2年ごとに1回撮影された胸部エックス線写真を用いて,胸椎変形の有無を診断した調査の結果,女性,60歳以降に椎体骨折の発生率が急激に上昇していることを明らかにした。また,椎体骨折発生率を,出生コホート別にみると,椎体骨折の発生率は近年に生まれた人ほど低くなり,10年出生が遅いと発生率は約1/2に低下していた(図4)(レベルIV

図4 出生コホートからみた椎体骨折の発生率(文献21より引用改変)
図4出生コホートからみた椎体骨折の発生率


Additional Statement
■骨粗鬆症患者は1年間に何人くらい発生しているのか
骨粗鬆症による骨量減少は無症状で進行するため,症状によって発生を知るのは不可能である。そのため骨粗鬆症の発生患者数を知るためには,ある程度の代表性のある集団を設定し追跡調査を行うことが必要になる。今のところ,わが国において骨粗鬆症患者が年間何人発生しているかを明らかにした報告は見当たらないが,長期の縦断調査が各地で進行中であり,近い将来発生率を明らかにした報告がなされるであろう。



 

 
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