(旧版)大腸癌治療ガイドライン医師用 2009年版

 
Clinical Questions

 


サイドメモ:SM浸潤距離の実測法/脈管侵襲の評価法/簇出の評価法
■SM浸潤距離の実測法(写真1)
 ・  肉眼型にかかわらず粘膜筋板の走行が同定または推定可能な症例は,病変の粘膜筋板下縁から測定する。
 ・  粘膜筋板の走行が同定・推定できない部分は病変表層から測定する。
ここでいう「走行が同定または推定可能」とは,SM浸潤による「変形」,すなわち走行の乱れ,解離,断裂,断片化などがない粘膜筋板を指す。変形した粘膜筋板を起点とするとSM浸潤距離を過小評価する可能性がある。「変形」の判定は必ずしも容易ではないが,粘膜筋板周囲にdesmoplastic reactionを伴うものは「変形あり」と判定する。
 ・  有茎性病変では,粘膜筋板が錯綜し浸潤実測の始点となる粘膜筋板が同定できない場合がある。この場合のSM浸潤距離は頭部と茎部の境(粘膜における腫瘍と非腫瘍の境界)を基準線とし,そこから浸潤最深部への浸潤距離を測定する。浸潤が頭部内に限局する有茎性病変は「head invasion」とする。

■脈管侵襲の評価法(写真2〜4)
 ・  静脈侵襲の評価は,動脈に注目するのがポイントである。主病巣から離れて,動脈の近傍に存在する辺縁整な円形,類円形,長楕円形の癌胞巣は静脈侵襲の可能性が高く,周囲に静脈壁構造(内弾性板や血管周囲平滑筋)が確認されれば静脈侵襲と判定できる。しかし,静脈壁構造は癌浸潤により圧排・消失していたり,HE染色では不明瞭化していることが少なくない。
 ・  間質の空隙に存在する癌細胞または癌胞巣はリンパ管侵襲を疑う所見である。特にリンパ液,リンパ球が充満している空隙はリンパ管である可能性が高く,空隙を裏打ちする内皮細胞が確認されればリンパ管と判定できる。しかし,HE標本では内皮細胞の確認は困難な場合が多く,空隙は標本作製によるアーチファクトでも形成される。
 ・  このようにSM癌の治療方針を決める重要な指標である脈管侵襲の評価は,HE染色では困難な場合が少なくない。静脈侵襲の評価にはelastica van Gieson染色またはvictoria blue染色による静脈壁の弾性線維の同定が,リンパ管侵襲の評価にはリンパ管内皮細胞に対する免疫染色(D2-40等)が有用である。

■簇出の評価法(写真5)
[簇出の定義]201)  癌発育先進部間質に浸潤性に存在する単個または5個未満の構成細胞からなる癌胞巣。
[簇出のGrade]  簇出が最も高度な領域を選択後,20×10倍視野で癌発育先進部を観察し,簇出の個数をカウントする。
    Grade1:0〜4個
    Grade2:5〜9個
    Grade3:10個以上
 ・  簇出は,元来,癌の発育様式を表現する用語であり,癌発育先進部において,1.平均して2〜3個の幅に相当する細胞索で発育するもの,2.癌細胞が個々に遊離して発育するもの,と定義されていた208)。しかし,大腸SM癌のリンパ節転移リスク因子としては,後者の「癌細胞の遊離発育」が重要であり,後者のみを簇出と定義した。
 ・  Grade2/3のリンパ節転移率はGrade1よりも有意に高率である。Grade1をlow grade,Grade2/3をhigh gradeと分類すると,high gradeは独立したリンパ節転移の予測因子であることが大腸癌研究会の簇出検討プロジェクト委員会(2005年〜)による多施設共同研究から明らかとなった209)



■SM浸潤距離の実測法

写真1.SM浸潤距離の実測法
A:粘膜筋板の走行が同定あるいは推定可能な症例は,粘膜筋板下縁から測定する。
B,C:粘膜筋板の走行が同定・推定できない症例は,病変表層から測定する。
   無茎性病変(B)
   有茎性病変(C)
D:有茎性粘膜筋板錯綜例では,頭部と茎部の境界を基準線とし,基準線から浸潤最深部への距離を測定する。
E:有茎性粘膜筋板錯綜例で,浸潤が頭部内に限局するものは「head invasion」とする。



■脈管侵襲


写真2 静脈侵襲(Aの矢印)
 A:動脈(a)近傍に存在。
 B:victoria blue染色で静脈壁弾性線維が明瞭となる。

写真3 リンパ管侵襲(Aの矢印)
 A:間質の空隙に癌胞巣が存在する。
 B:サイトケラチンとD2-40の二重染色。癌細胞が褐色に,リンパ管内皮が赤紫に染色されている。

写真4 標本作製のアーチファクトで形成された空隙(Aの矢印)
 A:間質の空隙に癌胞巣が存在する。
 B:サイトケラチンとD2-40の二重染色。空隙部分はD2-40陰性。



■簇出


写真5 簇出(Bの矢印)
 癌の発育先進部間質に浸潤性に存在する単個または5個未満の構成細胞からなる癌胞巣。BはAの四角部分。

 

 
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