(旧版)大腸癌治療ガイドライン医師用 2009年版

 
各論

 

6.放射線療法


 1) 補助放射線療法



 ・  補助放射線療法には,術前照射,術中照射,術後照射がある。
 ・  補助放射線療法の目的は直腸癌の局所制御率の向上,生存率の改善であり,術前照射ではさらに肛門括約筋温存率と切除率の向上も目的とする。
 ・  術前照射は「深達度cSS/cA以深またはcN陽性」,術後照射は「深達度pSS/pA以深またはpN陽性」,術中照射は外科剥離面陽性(RM+)または剥離面近傍への癌浸潤(RM±)を対象とする。
 ・  照射方法により外部照射と術中照射に分けられる。


 コメント 

(1) 術前照射(CQ-17)
1. 術前照射の利点は,手術時の播種の予防,腫瘍への血流が保たれていて腫瘍細胞に放射線感受性細胞の割合が多いこと,小腸が骨盤腔内に固定していないこと,腫瘍縮小による切除率の向上,肛門括約筋温存が期待できることである138)
2. 術前照射の欠点は,早期症例への過剰治療の可能性があること,術後合併症の増加の可能性があることである。
3. 術前照射(化学療法なし)に関する12の第III相試験が報告され138),このうち5件では術前照射が手術単独に比べ局所制御率が有意に良好であった。ただし,生存率の向上を認めたのは1件のみであった139)
4. 術前照射に関する2つのメタアナリシスでは,局所制御率の向上を認め,30Gy以上の群では生存率の改善を認めた。しかし,生存率の改善に関しては議論がある140),141)
5. 1回線量5Gyによる短期照射の試験がヨーロッパを中心に行われている139),142)。放射線の晩期障害は1回線量の大きさに影響を受けることから,肛門機能,腸管障害などを含めた晩期障害を長期的に経過観察していく必要がある。
6. TMEに短期照射を加える意義について,術前照射(25Gy/5回)+TMEとTME単独を比較したDutch CKVO 95-04の試験では,5年局所制御率は併用群で有意に良好であったが,5年生存率は両群で差はなかった142),143)。また,手術単独群に比し,術前照射併用群では,性機能低下,腸管障害の頻度が高かった144),145)
7. 術前照射の原発巣に対する縮小効果により括約筋温存が可能になることがある。術前照射の目的が括約筋温存である場合,腫瘍縮小のための適切な期間(放射線治療終了後6〜8週)をおいて手術を行うことが望ましい146)
8. 術前照射に化学療法併用が有用かどうかを比較する第III相試験がEORTCなど欧州で3つ施行され,術前化学放射線療法は,術前放射線療法単独に比し,急性期有害事象の頻度が有意に高いものの,pCR割合が有意に高い結果であった。局所再発率は短期照射の試験を除いた2つの試験において術前化学放射線療法群で有意に低い結果であり,括約筋温存,生存率に関しては両群に差を認めなかった147),148),149)
9. 術前化学放射線療法と術後化学放射線療法を比較する第III相試験では,5年生存率に差はなかったが,術前照射群で局所再発率が有意に低く,Grade3以上の有害事象の頻度は有意に低かった。登録時にAPRが必要と判断された症例のうち,括約筋温存が可能であった割合は術前照射群で有意に高かった150)
(2) 術後照射
1. 術後照射の利点は,局所再発の高リスク群を選択して照射することができることである。
2. 術後照射の欠点は,術中の腫瘍細胞の散布を防止できないこと,骨盤底に癒着した小腸に照射され合併症の頻度が高くなることである。また,術後は局所の血流は少なくなり,放射線感受性は低くなることである。
3. 術後照射は術後6〜8週までに開始することが望ましい。
4. 術後照射により局所再発は低下するが,生存率の改善をもたらさない151)
5. 化学療法との併用では,急性期有害事象が増加し,GITSGおよびMayo/NCCTG79-47-51試験では,Grade3以上の有害事象が25〜50%に発生した。
6. 補助放射線療法または化学放射線療法による腸管障害の症状として,頻便,便意切迫,排便困難感,便失禁,肛門の感覚異常などがある152),153)
(3) 術中照射
局所再発の原因であるRM不足,側方リンパ節などに対して腸管などの周囲正常組織を避けて重点的に腫瘍床に高線量を照射できる。
(4) 照射法
a.外部照射法
適応の原則は骨盤内に放射線治療歴がないことである。
[治療計画]
 ・  標的体積には原発巣と転移リンパ節(術後は腫瘍床)に所属リンパ節領域を含めることが一般的である。所属リンパ節領域として,直腸間膜(直腸傍リンパ節含む),内腸骨リンパ節領域,閉鎖リンパ節領域,仙骨前リンパ節領域とし,腹側の臓器(膀胱,前立線,子宮,膣)に浸潤する場合には外腸骨リンパ節領域も含める。
 ・  腹臥位での治療体位やベリーボードの使用を考慮するなどして,小腸を可及的に照射体積から避けるように努める。
 ・  小腸・膀胱の有害事象の発生を回避する観点から3門照射(後方および両側方)または4門照射(前後および両側方)が推奨される。
 ・  少なくとも6MV以上のX線発生装置で治療することが望ましい。また,側方からの照射は10MV以上での治療が推奨される。
[線量と分割法]
 ・  1回1.8〜2.0Gy,週5回の通常分割照射法が一般的である。
 ・  総線量は,術前照射の場合40〜50.4Gy/20〜28回,術後照射の場合50〜50.4Gy/25〜28回が一般的である。
 ・  切除不能な肉眼的病変が残存し,小腸などが照射体積内に含まれない場合には55〜60Gy程度まで線量を増加することを考慮する。
[併用療法]
 ・  術前照射,術後照射とも,化学療法との同時併用が標準的であり,併用化学療法は5-FUが標準である84),154),155)
b.術中照射法
外科的剥離断端が陽性または断端近接で局所制御の向上を目的とする。
[治療方法]
 ・  照射範囲は断端陽性,近接部位に対して設定する。
 ・  電子線照射を施行することが多いが,高線量率小線源を用いることもある156),157)
 ・  使用する電子線のエネルギーは腫瘍の深さに応じておおむね9〜15MeVなどを選択する。
[線量]
 ・  外科的剥離断端が近接または顕微鏡的に陽性の場合は10〜15Gy,肉眼的に陽性の場合は15〜20Gy照射する。


 

 
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