1. | 術前照射の利点は,手術時の播種の予防,腫瘍への血流が保たれていて腫瘍細胞に放射線感受性細胞の割合が多いこと,小腸が骨盤腔内に固定していないこと,腫瘍縮小による切除率の向上,肛門括約筋温存が期待できることである138)。 |
2. | 術前照射の欠点は,早期症例への過剰治療の可能性があること,術後合併症の増加の可能性があることである。 |
3. | 術前照射(化学療法なし)に関する12の第III相試験が報告され138),このうち5件では術前照射が手術単独に比べ局所制御率が有意に良好であった。ただし,生存率の向上を認めたのは1件のみであった139)。 |
4. | 術前照射に関する2つのメタアナリシスでは,局所制御率の向上を認め,30Gy以上の群では生存率の改善を認めた。しかし,生存率の改善に関しては議論がある140),141)。 |
5. | 1回線量5Gyによる短期照射の試験がヨーロッパを中心に行われている139),142)。放射線の晩期障害は1回線量の大きさに影響を受けることから,肛門機能,腸管障害などを含めた晩期障害を長期的に経過観察していく必要がある。 |
6. | TMEに短期照射を加える意義について,術前照射(25Gy/5回)+TMEとTME単独を比較したDutch CKVO 95-04の試験では,5年局所制御率は併用群で有意に良好であったが,5年生存率は両群で差はなかった142),143)。また,手術単独群に比し,術前照射併用群では,性機能低下,腸管障害の頻度が高かった144),145)。 |
7. | 術前照射の原発巣に対する縮小効果により括約筋温存が可能になることがある。術前照射の目的が括約筋温存である場合,腫瘍縮小のための適切な期間(放射線治療終了後6〜8週)をおいて手術を行うことが望ましい146)。 |
8. | 術前照射に化学療法併用が有用かどうかを比較する第III相試験がEORTCなど欧州で3つ施行され,術前化学放射線療法は,術前放射線療法単独に比し,急性期有害事象の頻度が有意に高いものの,pCR割合が有意に高い結果であった。局所再発率は短期照射の試験を除いた2つの試験において術前化学放射線療法群で有意に低い結果であり,括約筋温存,生存率に関しては両群に差を認めなかった147),148),149)。 |
9. | 術前化学放射線療法と術後化学放射線療法を比較する第III相試験では,5年生存率に差はなかったが,術前照射群で局所再発率が有意に低く,Grade3以上の有害事象の頻度は有意に低かった。登録時にAPRが必要と判断された症例のうち,括約筋温存が可能であった割合は術前照射群で有意に高かった150)。 |