(旧版)大腸癌治療ガイドライン医師用 2009年版

 
この項は、改訂されていますのでご注意ください。
2009年版刊行後、新たな大腸癌治療薬の保険収載や適応拡大がなされ、「化学療法」の項を大幅に改訂した2010年版が発行されています。
最新情報は、こちらでご確認ください。




各論

 

5.化学療法


 2) 切除不能進行再発大腸癌に対する化学療法



 ・  化学療法を実施しない場合,切除不能と判断された進行再発大腸癌の生存期間中央値(MST:median survival time)は約8カ月と報告されている。最近の化学療法の進歩によってMSTは約2年まで延長してきたが,現状では治癒を望むことは難しい。
 ・  化学療法の目標は腫瘍増大を遅延させて延命と症状コントロールを行うことである。
 ・  PS0〜PS2の症例を対象とした第III相試験において,化学療法群は抗がん剤を用いない対症療法(BSC:best supportive care)群よりも有意に生存期間が延長することが示されている104),105),106)
 ・  切除不能進行再発大腸癌に対する化学療法が奏効して切除可能となることがある。

適応の原則
(1) 臨床診断または病理組織診断が確認されている。
(2) 転移・再発巣が画像にて確認可能である。
(3) performance status(PS)が0〜2である。
(4) 主要臓器機能が保たれている。
     1.  骨髄 : 白血球>3,500/mm3,血小板>100,000/mm3
     2.  肝機能 : 総ビリルビン<2.0mg/dL,AST/ALT<100 IU/L
     3.  腎機能 : 血清クレアチニン:施設基準値上限以下
(5) 適切なインフォームド・コンセントに基づき患者から文書による同意が得られている。
(6) 重篤な合併症(特に,腸閉塞,下痢,発熱)を有さない。



一次治療
 ・  国内外の第III相試験により生存期間の延長が検証されており,かつ保険診療として使用可能な一次治療としてのレジメンは以下の通りである。
(1) FOLFOX療法注1 107),108)±bevacizumab109)
(2) FOLFIRI療法注2 110),111)±bevacizumab112),113)
(3) 5-FU/LV療法注3 114),115)±bevacizumab116),117)
(4) UFT/LV療法118)

二次治療以降
 ・  二次治療以降の化学療法として以下のレジメンを考慮する。(CQ-15)
(1) L-OHPを含むレジメンに抵抗性となった場合
FOLFIRI療法±bevacizumab112),113)
FOLFIRI療法(またはCPT-11単独)±cetuximab119)
(2) CPT-11を含むレジメンに抵抗性となった場合
FOLFOX療法110),120)±bevacizumab121)またはCPT-11+cetuximab122)
(3) 5-FU,L-OHP,CPT-11を含むレジメンに抵抗性となった場合
CPT-11+cetuximab122),cetuximab単独療法123)


 注)cetuximabの保険適応が承認されているのはEGFR陽性の大腸癌である。(CQ-16)


 コメント 

(1) 全身化学療法の適応となる転移部位は肝,肺,リンパ節,腹膜,局所などがある。骨転移,脳転移に対しては緩和的放射線療法の適応を考慮する(「6.放射線療法 2)緩和的放射線療法」)。
(2) 治療実施上の注意点
 ・  PS3〜PS4注4,あるいは高度の臓器障害を有する患者は原則的には化学療法の適応外である。あえて化学療法を行う場合はそのリスクについて十分なインフォームド・コンセントを行う必要がある。
 ・  治療前にはPS,バイタルサイン,体重,発熱の有無,自覚症状,血液検査結果,尿検査所見,身体所見等を確認し,異常を認めた場合は治療の延期を考慮する。
 ・  治療継続時には,前項のほか,前回投与時およびその後の経過における治療関連有害事象や腫瘍関連症状等を検討して抗がん剤投与の可否を判断し,また,適宜減量などを考慮する。
 ・  治療コースを繰り返す場合には,蓄積性の有害事象(神経障害,食欲不振,倦怠感,下痢,皮膚障害,味覚障害など)に注意する。必要であれば全治療,あるいは原因となる薬剤を中断して回復を待つ。
 ・  有害事象の評価には有害事象共通用語規準(CTCAE)注5を用いることが望ましい。
 ・  治療効果は,CT,MRIなどの適切な画像診断を用いて判定する。奏効度の判定には,RECIST(Response Evaluation Criteria In Solid Tumors)ガイドライン注6を用いることが望ましい。PETによる治療効果判定の評価は定まっていない。
 ・  前治療コースで重篤な有害事象が発現した場合でも,一定の基準に回復した後に評価を行い,有効性が期待できれば投与量の減量・投与間隔の延長などの対策を講じて治療を継続することは可能である。
 ・  明らかな病状の進行,重篤な有害事象の発生,患者の拒否のない限り,治療スケジュールを遵守して治療を継続することが望ましい。
(3) IFL(bolus 5-FU/LV+CPT-11)療法はかつて標準的な一次治療のレジメンであったが125),FOLFOX療法より有効性で劣ること,FOLFIRI療法より毒性が高度であることが報告されており,あえて用いる必要性は乏しい108),111),125)
(4) L-OHPを使用する際には蓄積性の神経毒性に留意が必要である。Grade3の神経毒性に至る前までに投与を控えるようにすべきであるが,治療効果が持続している場合には,OPTIMOX-1試験でも示されたように,de Gramont法,sLV5FU2法に切り替えるなどの対応を考慮する。病状が増悪し,神経毒性がGrade1以下に改善すればL-OHPの再導入を考慮する。
(5) 上記の一次治療レジメンの強度に耐容性(tolerability)がないと判断される症例に対しては,UFT/LV療法118),126),127),5-FU/LV療法(RPMI法,de Gramont法,sLV5FU2法)を考慮する。海外ではcapecitabine128),129)も使用されているが国内では未承認である。bevacizumab投与可能と判断される場合は,5-FU/LV+bevacizumab療法も考慮する116),130)
(6) 大腸癌治療におけるS-1の位置づけは今後の検討課題である131),132)
(7) 一次治療としてFOLFOX療法(±bevacizumab)を使用した場合には,FOLFIRI療法(±bevacizumab),CPT-11単独,CPT-11+cetuximab併用の順次療法,一次治療としてFOLFIRI療法(±bevacizumab)を使用した場合には,FOLFOX療法(±bevacizumab)の順次療法を考慮する110)。一次治療と二次治療において,5-FU,CPT-11,L-OHPの3剤を使い切ることにより20カ月以上のMSTが得られるとされる133)。上述の一次,二次治療(二次治療がCPT-11+cetuximabの場合は除く)以降の三次治療としては,CPT-11+cetuximabもしくはcetuximab単独療法を考慮する。レジメンの選択に際しては,効果の有無のみならず全身状態や病態(転移形式),薬物有害反応についても十分に考慮し,適切なインフォームドコンセントのもとに決定する必要がある。
(8) Gilbert症候群などの体質性黄疸や血清ビリルビン高値の患者へのCPT-11の投与には十分な注意が必要である。本剤の代謝酵素の遺伝子多型と毒性との関係が示唆されている(「サイドメモ:CPT-11とUGT1A1 遺伝子多型」参照)。
(9) bevacizumabは,直近の大手術(通常1カ月以内)や動脈血栓塞栓症の既往例(おおむね6カ月以内など)では避けるべきである。
(10) 肝転移に対する肝動注療法の腫瘍縮小率は高いが,生存期間において全身投与を凌ぐ有効性は示されていない134)(「4.血行性転移の治療方針」の項参照)。
(11) 分子標的治療薬(bevacizumab,cetuximab)の同時併用は,二次,三次治療群を対象とした比較第II相試験(BOND-2試験)で有効性も報告されているが135),その後の2つの初回治療例を対象とした第III相試験から毒性増強と効果減弱が示されており136),137),臨床試験以外では2剤併用は行うべきでない。




 注1  FOLFOX療法   infusional 5-FU/LV+L-OHP。
 注2  FOLFIRI療法   infusional 5-FU/LV+CPT-11。
 注3  5-FU/LV療法   5-FU/LV療法には,RPMI法(l-LV 250mg/m²,2時間点滴;5-FU 600mg/m²,l-LV開始1時間後に3分以内に緩徐に静注:毎週1回投与,6週連続2週休薬,8週毎繰り返す114),115)),de Gramont法(l-LV 100mg/m²,2時間点滴;5-FU 400mg/m²,l-LV終了直後に静注;5-FU 600mg/m²を22時間かけて点滴静注:これを2日間連続して行い,2週毎に繰り返す107)),sLV5FU2法(l-LV 200mg/m²,2時間点滴;5-FU 400mg/m²,l-LV終了直後に静注;5-FU 2,400〜3,000mg/m²を46時間かけて点滴静注:2週毎に繰り返す),AIO法(l-LV 250mg/m²,2時間点滴;5-FU 2,600mg/m²を24時間かけて点滴静注:6週連続2週休薬,8週毎繰り返す124))がある。なお,国内で承認されているl型ロイコボリンの投与量は欧米で使用されているdl型ロイコボリンの半量で等量となる。
 注4  PS   ECOGのperformance status(PS)の日本語訳。

この基準は全身状態の指標であり,局所症状で活動性が制限されている場合は,臨床的に判断する。
 注5  有害事象共通用語規準   Common Terminology Criteria for Adverse Events Ver 3.0(CTCAE)
http://ctep.cancer.gov/protocolDevelopment/electronic_applications/docs/ctcaev3.pdf
 注6  RECISTガイドライン   New Guidelines to Evaluate the Response to Treatment in Solid Tumors.(RECIST ガイドライン)J Natl Cancer Inst 2000:92:205-216
 「有害事象共通用語規準v3.0日本語訳JCOG/JSCO版」と「固形がん治療効果判定のための新ガイドライン(RECISTガイドライン)日本語訳JCOG版」はJCOGのホームページ(http://www.jcog.jp/doctor/index.html)からダウンロードできる(2009年4月現在)。



 

 
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