(旧版)大腸癌治療ガイドライン医師用 2009年版

 
各論

 

1.Stage0〜StageIII大腸癌の治療方針


 1)内視鏡治療



[cM癌,cSM癌の治療方針]
cM癌,cSM癌の治療方針



適応の原則
 ・ リンパ節転移の可能性がほとんどなく,腫瘍が一括切除できる大きさと部位にある。

内視鏡的摘除の適応基準
  (1) 粘膜内癌,粘膜下層への軽度浸潤癌。
  (2) 最大径2cm未満。
  (3) 肉眼型は問わない。

 ・  本法は内視鏡的に大腸の病巣部を切除し,切除組織を回収する方法である。
 ・  治療法にはポリペクトミー注1,内視鏡的粘膜切除術(EMR:endoscopic mucosal resection)注2と内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD:endoscopic submucosal dissection)注3がある。
 ・  内視鏡治療の適応と治療法を決める際には,腫瘍の大きさ,予測深達度,形態に関する情報が不可欠であり,組織型も考慮する必要がある。


 コメント 

(1) 内視鏡的摘除の目的には診断と治療の両面がある。本法は摘除生検(excisional biopsy)であり,切除標本の組織学的検索によって治療の根治性と外科的追加腸切除の必要性を判定する。(CQ-1)
(2) SM高度浸潤癌の診断指標として,「緊満感,びらん,潰瘍,ヒダ集中,変形・硬化像」などの内視鏡所見が挙げられる4)。必要に応じて,X線造影検査,色素内視鏡観察,拡大内視鏡観察,内視鏡超音波検査所見などを参考にする5),6),7)
(3) 内視鏡的摘除後の治療方針の決定に際しては,摘除標本の緻密な組織学的検索が必須である。そのため,下記の点に留意する。
 ・  ポリペクトミー標本では切除断端に墨汁などによるマーキングを施し,切除断端を含む最大割面を観察する。
 ・  EMR標本やESD標本では摘除標本を伸展固定し,粘膜筋板と垂直な割面を作製する。
 ・  治療内容(切除法,併用療法の有無,一括切除か分割切除か,その選択理由など)と切除標本の肉眼所見を記載することが望ましい。
(4) 切除断端および最深部の癌浸潤状況を正確に診断するには,一括切除が望ましい。
 ・  ポリペクトミーやスネアEMRで無理なく一括切除できる限界は2cmである3)(CQ-2)
 ・  大腸のESDは手技の難度が高く,合併症(穿孔)の危険性が高いので,まだ一般的な治療法ではない3)
 ・  EMRCは,結腸病変に用いると穿孔の危険性が高い。
 ・  術前診断で粘膜内癌と確信できれば分割切除を行ってもよい。しかし,一般的に分割切除では不完全切除率が高く,局所再発率が高いことに留意する3)
(5) 内視鏡的摘除後は,切除局所を詳細に観察し遺残病変の有無を確認する。
 ・  遺残病変の診断には拡大観察が有用である6)
 ・  粘膜内病変の遺残があれば追加治療(内視鏡的追加切除,ホットバイオプシー,焼灼など)を行う。
(6) 内視鏡治療後の経過観察8),9)
 ・  pM癌で水平(粘膜)断端の評価が困難な場合には,半年〜1年後に大腸内視鏡検査にて局所再発の有無を調べる。
 ・  pSM癌で経過観察する例では,局所再発のみでなくリンパ節再発や遠隔転移再発の検索も必要であるが,現時点では明確なサーベイランス方法や期間についてのコンセンサスは得られていない。pSM癌内視鏡治療後の再発は3年以内であることが多い10)
 ・  異時性多発病変の検索を目的として,定期的に大腸内視鏡検査による経過観察を行う。ただし,至適な大腸内視鏡検査の間隔は確立していない(「3)異時性多重がんのサーベイランス」参照)。



 注1  ポリペクトミー   病巣茎部にスネアをかけて高周波電流によって焼灼切除する方法。主として隆起型病変に用いられる。
 注2  EMR   粘膜下層に生理食塩水などを局注して病巣を挙上させ,ポリペクトミーの手技により焼灼切除する方法。スネア法1),吸引キャップ法(EMRC:EMR using a cap)2),などがある。主として表面型腫瘍や大きな無茎性病変に用いられる。
 注3  ESD   病変周囲,粘膜下層にヒアルロン酸ナトリウム溶液などを局注して病巣を挙上させ,専用のナイフで病変周辺の切開,粘膜下層の剥離を進める手技である3)。主として,EMRで一括切除できない大きな腫瘍が適応である。



 

 
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