(旧版)大腸癌治療ガイドライン医師用 2009年版
はじめに
大腸癌研究会会長
杉原健一
『大腸癌治療ガイドライン医師用2005年版』は2005年7月に出版されてから2009年5月までに31,000冊が販売されました。ガイドラインが刊行されるまでは,大腸癌治療を専門にしている医師にはコンセンサスとしての標準的な大腸癌の治療法があり,その治療成績は世界のトップであることが示されていました。一方,この25年間に大腸癌の罹患数は約4倍に増え,平成14年の大腸癌罹患数は10万5,195人(地域がん登録全国推計値)であり,平成20年の大腸癌死亡数は4万2,998人(平成20年人口動態統計月報年計)となりました。これだけ多くの方が大腸癌に罹患するようになった現在,多数の方は必ずしも大腸癌治療の専門施設・専門の医師の治療を受けているわけではないことが推測されます。大腸癌研究会はこのような状況を鑑み,大腸癌治療ガイドラインを作成することにより標準治療を普及させ,日本全国の大腸癌治療の質や治療成績の向上を目指しました。ガイドライン作成の成果は治療成績の向上で評価すべきですが,現状では,日本全体の大腸癌治療成績を適正に評価する方法はありません。しかし,『大腸癌治療ガイドライン医師用2005年版』が3万冊以上売れたことから,提示された標準治療がかなり普及しているものと思います。
ガイドラインが作成された後も,その普及のためにさまざまな活動やアンケート調査が行われました。その後,2007年7月に本版の作成のためにガイドライン作成委員会を改組し,活動を開始しました。本版の作成においては,論文検索を網羅的に行い,大腸癌研究会の委員会やプロジェクト研究の研究成果を踏まえ,大腸癌治療の専門家の討論により,標準治療を提示しています。日本と欧米では大腸癌に関する診断学および手術に対する考え方やその成績が異なること,内視鏡治療や手術ではランダム化比較試験がほとんどないこと,からエビデンスレベルや推奨度の設定がかなり困難です。このようなことから,本版では独自の推奨度カテゴリーを設定しました。
大腸癌研究会では大腸癌の診療における問題を解決するために,問題提起を行い,委員会やプロジェクト研究を通して1つずつ解決し,それを規約やガイドラインに盛り込んできています。一方,本邦でも大腸癌治療に関する大規模臨床試験がいくつも行われ,それぞれ1,000例以上の症例集積が完遂されていて,数年内にはそれらの成果も公表されるものと思います。今後も大腸癌治療ガイドラインの改訂を継続していきますが,日本と欧米との大腸癌診療の違いを踏まえたうえで標準治療の普及を目指したいと思います。
2009年6月30日