(旧版)大腸癌治療ガイドライン

 
II.治療法の種類と治療方針の解説

 
8.大腸癌手術後のサーベイランス

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(1) サーベイランスの意義
 
大腸癌治癒切除術後の再発巣発見のためのサーベイランスが予後の改善に寄与するか否かは,結論は出ていない116),117),118)。しかし,治療対象となり得る段階で再発巣を発見すれば,予後の改善が期待できるとの考えから,治癒切除術後の一定期間,一定のスケジュールに則って,再発巣発見の検査を行うことが推奨される。サーベイランスにより再発巣の切除率が向上し119),120),切除不能の場合でもがん化学療法や放射線療法により生存期間を延長し得る可能性が期待されている121)
サーベイランスの期間,間隔と検査法は,大腸癌のStage,再発の好発部位や再発発生時期等を考慮する。
(2) 再発率,再発臓器,再発時期
 
図12および表78910に,大腸癌研究会のプロジェクト研究の検討結果を示す。対象はプロジェクト参加14施設での1991〜1996年の治癒切除大腸癌症例で,追跡期間は6〜11年である。
 
1) 再発期間と再発部位(図2表7910参照)。
 
1. 再発は術後3年以内に約80%以上,術後5年以内に95%以上が出現した。
2. 術後5年を超えての再発は全症例の1%以下であった。
3. 肺再発のうち5%は術後5年を超えて出現した。
4. 吻合部再発率は低率であるが,切除率は高く,切除後の予後は良好であった123)
5. 吻合部再発の95%以上は術後3年以内に出現した。
6. 局所再発と肺再発は直腸癌に多かった。
7. 欧米の報告でも,治癒切除後の再発の約50%が術後1年以内,約70%が術後2年以内に出現し116),122),また,ほとんどの症例は5年以内に再発した122)
2) Stage別特徴(図1表78参照)
 
1. Stage 0
 
切除断端に癌が陰性であれば,再発はなかった。
2. Stage I
 
pSM癌の再発率は結腸癌,直腸癌とも約1%であった。
pMP癌の再発率は6.4%で,結腸癌では5.0%,直腸癌では8.3%であった。
術後3年以内に再発の2/3が出現し,5年を超えての再発は全症例の0.2%以下であった。
3. Stage II,Stage IIIa,Stage IIIb
 
Stageが進むにしたがって再発率が増加した。
術後3年以内に再発の78〜90%が出現し,5年を超えての再発は全症例の1%以下であった。
(3) 再発巣検索法
 
1) 問診・身体的所見
 
患者の訴えを聴取し,身体所見をとる(腹部所見,直腸指診等)。
直腸指診は,低位前方切除術後の吻合部再発や直腸子宮窩(直腸膀胱窩)再発に有用である。
2) 腫瘍マーカー
 
血清CEAとCA19-9を測定する。
3) 胸部単純X線検査,胸部CT
 
胸部単純X線検査にて肺転移を検索する。疑診例には胸部CTを行う。
胸部単純X線検査を省略して胸部CTを行う方法もある。
4) 腹部超音波検査,腹部CT
 
腹部超音波検査にて肝転移等の腹部再発巣を検索する。疑診例には腹部CTまたは腹部MRIを行う。
腹部超音波検査を省略して腹部CTを行う方法もある。
5) 骨盤CT
 
直腸癌の局所(骨盤内)再発を検索する。
再発巣と術後の瘢痕との鑑別が困難である。このため,基準となる骨盤CTを術後早期に行う方法もある。
骨盤内再発疑診例には骨盤MRI,PETを考慮する。
6) MRI(magnetic resonance imaging)
 
肝転移巣や骨盤内再発巣の確認に,MRIを考慮する。
7) PET(positron emission tomography)
 
再発を疑うが再発部位不明の場合は,PETを考慮する。
8) 大腸内視鏡検査または注腸造影検査
 
吻合部再発を検索する。
術前に狭窄のため口側大腸の検索が不十分であった場合は,術後6カ月以内に残存大腸の検査を行うことを推奨する。
異時性多発癌病巣の発見にも有効である。
(4) サーベイランスの有効性の検証
 
下記に例として示したサーベイランススケジュールは,大腸癌のStage,再発の好発部位や再発発生時期,本邦におけるサーベイランスの現況等を考慮して作成した。これは欧米のものと比較して過密である124)。このスケジュールの予後への寄与は検証されていない。
(5) 大腸癌根治度B切除後と再発巣切除後のサーベイランス
 
切除した転移巣や再発巣と同一部位の再発,再々発が多い。
推奨すべきサーベイランス期間に関する知見はない。
(6) 異時性多発癌のサーベイランス
 
大腸癌症例はStageに関係なく,異時性大腸癌発生の高リスクである。
推奨される大腸内視鏡検査間隔には,報告によって1〜5年の開きがある125)
   
図1:Stage別累積再発出現率曲線
大腸癌取扱い規約第6版による
 
 
図2:再発部位別累積再発出現率曲線
 
 
表7 大腸癌治癒切除後のStage別再発率と術後経過年数別累積再発出現率
Stage
(症例数)
再発率%
(再発症例数)
術後経過年数別累積再発出現率%
(累積再発症例数)
3年 4年 5年
術後 5年を超えて出現する
再発例が全体に占める割合%
Stage I
(1,368)
Stage II
(1,835)
Stage IIIa
(1,421)
Stage IIIb
(693)
3.7%
(51)
12.5%
(229)
24.1%
(343)
40.8%
(283)
68.6%
(35)
82.4%
(42)
96.1%
(49)
77.7%
(178)
88.6%
(203)
93.0%
(213)
82.2%
(282)
91.5%
(314)
96.8%
(332)
91.5%
(259)
95.8%
(271)
98.6%
(279)
0.15%
(2)
0.87%
(16)
0.77%
(11)
0.58%
(4)
全体
(5,317)
17.0%
(906)
83.2%
(754)
91.6%
(830)
96.4%
(873)
0.62%
(33)
(大腸癌研究会・プロジェクト研究 1991〜1996年症例)
大腸癌取扱い規約第6版による
 
表8 Stage I大腸癌再発率 (Rs は結腸癌として集計)
Stage I  症例数   再発症例数   再発率  p値
部位
結腸
直腸
 
892
476
 
25  
26  
 
2.8%
5.5%
 
 
p<0.02
深達度
sm
mp
 
715
653
 
9  
42  
 
1.3%
6.4%
 
 
p<0.0001
部位と深達度
結腸 sm
  mp
直腸 sm
  mp
 
528
364
187
289
 
7  
18  
2  
24  
 
1.3%
5.0%
1.1%
8.3%
 
 
p<0.002
 
p<0.001
(大腸癌研究会・プロジェクト研究 1991〜1996年症例)
大腸癌取扱い規約第6版による
 
 
 
表9 大腸癌治癒切除後の初発再発部位別再発率と術後経過年数別累積再発出現率
(大腸癌研究会・プロジェクト研究 1991〜1996年症例)
 
表10 結腸癌・直腸癌における初発再発部位別再発率の比較
(Rsは結腸癌として集計)
再発部位 結腸
(2,746例)
直腸
(1,323例)
p値
6.8%
(186例)
7.3%
(96例)
 
3.2%
(87例)
6.7%
(89例)
 
p<0.0001
局所
1.9%
(51例)
7.6%
(100例)
 
p<0.0001
吻合部
0.3%
(7例)
0.6%
(8例)
 
その他
3.7%
(101例)
4.4%
(58例)
 
全体
16.7%
(680例/4,069例)
 
(大腸癌研究会・プロジェクト研究 1991〜1996年症例)
 
 
〔Stage Iのmp癌およびStage II大腸癌に対するサーベイランススケジュール〕
〔StageIのmp癌およびStageII大腸癌に対するサーベイランススケジュール〕
 
〔Stage III大腸癌に対するサーベイランススケジュール〕
〔StageIII大腸癌に対するサーベイランススケジュール〕
   

 

 
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