(旧版)大腸癌治療ガイドライン

 
II.治療法の種類と治療方針の解説

 
6.放射線療法
1)補助放射線療法
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(1) 欧米では直腸癌に対して局所制御率や生存率の向上などを目的として,補助放射線療法もしくは化学放射線療法が行われている。国内では補助放射線療法もしくは化学放射線療法は積極的に行われていない。その理由として,手術成績が欧米に比べ良好であり,十分な郭清により局所再発率が低いこと,手術成績がやや劣る施設においては放射線治療設備の問題や消化管癌に精通した放射線腫瘍医が少ないことなどがある。
(2) 術前照射
 
1) 術前照射の利点は,手術時の播種の予防,腫瘍への血流が保たれていて腫瘍細胞に放射線感受性細胞の割合が多いこと,小腸が骨盤腔内に固定していないこと,腫瘍縮小による切除率の向上,肛門括約筋温存が期待できることである91)
2) 術前照射の欠点は,早期症例への過剰治療の可能性があること,術後合併症の増加の可能性があることである。
3) 術前照射(化学療法なし)に関する12の第III相試験が報告され91),このうち5件では術前照射が手術単独に比べ局所制御率が有意に良好であった。ただし,生存率の向上を認めたのは1件のみであった92)
4) 術前照射に関する2つのメタアナリシスでは,局所制御率の向上を認め,30Gy以上の群では生存率の改善を認めた。しかし,生存率の改善に関しては議論がある93),94)
5) 1回線量5Gyによる短期照射の試験がヨーロッパを中心に行われている。放射線の晩期障害は1回線量の大きさに影響を受けることから,肛門機能,腸管障害などを含めた晩期障害を長期的に経過観察していく必要がある。
6) TMEに補助放射線療法を加える意義は明らかにされていない。術前照射+TMEとTME単独を比較したDutch CKVO 95-04の試験では,局所制御率は併用群で有意に良好であったが2年生存率は両群で差はなかった95),96)
7) 術前照射の原発巣に対する縮小効果により括約筋温存が可能になる。
 
術前照射の目的が括約筋温存である場合,腫瘍縮小のための適切な期間(放射線治療終了後4〜7週)をおいて手術を行うことが望ましい97)
8) 短期照射では放射線治療終了から手術までの期間が4週以上の場合にダウンステージが増加するかどうかは不明であり,第III相試験が進行中である。
9) 術前照射に化学療法併用が有用かどうかを比較する第III相試験がEORTCで行われている。
10) 術前化学放射線療法と術後化学放射線療法を比較する第III相試験では,5年生存率に差はなかったが,術前照射群で局所再発率が有意に低く,Grade3,4の有害事象の頻度は有意に低かった。登録時にAPRが必要と判断された症例のうち,括約筋温存が可能であった割合は術前照射群で有意に高かった98)
(3) 術後照射
 
1) 術後照射により局所再発は低下するが,生存率の改善をもたらさない99)
2) 術後照射の利点は,局所再発のハイリスク群を選択して照射することができることである。
3) 術後照射の欠点は,術中の腫瘍細胞の散布を防止できないこと,骨盤底に癒着した小腸に照射され合併症の頻度が高くなることである。また,術後は局所の血流は少なくなり,放射線感受性は低くなることである。
4) 術後照射は術後6〜8週までに開始することが望ましい。
5) 5-FUを用いた化学療法併用が標準的とされている100),101),102)
6) 化学療法との併用では,急性期有害事象が増加し,GITSGおよびMayo/NCCTG79-47-51の試験では,Grade3以上の有害事象が25〜50%に発生した。
7) 補助放射線療法または化学放射線療法による腸管障害の症状として,頻便,便意切迫,排便困難感,便失禁,肛門の感覚異常などがある103),104)
(4) 術中照射
  局所再発の原因であるew不足,側方リンパ節などに対して腸管などの周囲正常組織を避けて重点的に腫瘍床に高線量を照射できる。

 

 
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