(旧版)大腸癌治療ガイドライン

 
II.治療法の種類と治療方針の解説

 
5.化学療法
2)切除不能転移・再発大腸癌に対する化学療法
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(1) 全身化学療法の適応となる転移部位は肝,肺,リンパ節,腹膜,局所が多い。骨,脳などの転移は症状緩和のための放射線照射の適応を考慮する。
(2) 具体的な適応基準:化学療法実施の際には,以下の条件を参考に適応を判断することが望ましい。
 
1) 臨床診断または病理組織診断が確認されている。
2) PS0〜2を対象とする。PS3以上は全身状態を考慮して投与を判断する。
3) 主要臓器機能が保たれている。
 
1. 骨髄:白血球>4,000/mm3,血小板>100,000/mm3を原則とする。
2. 肝機能:総ビリルビン<2.0mg/dL,AST/ALT<100IU/Lを原則とする。
3. 腎機能:血清クレアチニン:施設正常値上限以下を原則とする。
4) インフォームド・コンセントに基づき,患者から文書による同意が得られている。
5) 重篤な合併症を有さない。特に,腸閉塞,下痢,発熱など。
(3) 治療実施に関連した注意点
 
治療前にはPS,体重,発熱の有無,自覚症状,血液検査結果を確認する。異常(値)を認める際には延期を検討する。
治療継続時には,原則的に当日の検査結果に基づいて抗がん剤投与・継続の可否を判断する。
前回投与時およびその後の経過において,治療関連の有害事象の有無や腫瘍関連症状の有無等を検討し,継続の可否を判断する。
治療コースを繰り返す場合には,蓄積性の有害事象(食欲不振,倦怠感,下痢,皮膚障害,味覚障害など)に注意する。必要であれば治療を中断し,回復を待つ。
治療効果判定は,CT,MRIなど適切な画像診断を用いて,奏効度(RECIST:Response Evaluation Criteria In Solid Tumorsや日本癌治療学会規準などを用いる)を判定する。
明らかな増悪がない場合は,原則として同一治療を繰り返し継続する。
腫瘍マーカーの変動は参考に留める。
前治療コースで重篤な有害事象が発現した場合は,上記の適応基準に回復した後に評価を行う。有効性が期待できれば,投与量の減量,投与間隔の延長などにて治療継続することは可能である。
原則として明らかな病状の進行,重篤な有害事象の発生,患者の拒否のないかぎり,治療スケジュールを遵守する。
(4) 大腸癌を適応症とする抗がん剤には5-FU,mitomycin C,irinotecan(CPT-11),5-FU+l-Leucovorin(LV),tegafur/uracil(UFT),5'-doxifluridine(5'-DFUR),carmofur(HCFU),UFT/LV(錠),S-1などがある。
 
2005年に5-FUの持続静注とl-LVの併用療法(de Gramont療法71),sLV5FU2療法,AIO療法72)(参照(5))とoxaliplatin(L-OHP)が国内において承認された。これらの持続静注法はポート留置を行い,2日間にわたり持続点滴する方法で,手技が煩雑である。しかし,本療法を基礎にしたFOLFOX71),73)やFOLFIRI74)では,高い奏効率,耐容可能な有害事象,生存期間の延長が報告されており,全身状態のよい症例では第一選択となると考える。また,ポート留置を好まない場合や全身状態のやや不良な症例では,従来のRPMI法(週1回,急速静注)の5-FU/l-LV療法を選択してよい75),76)。なお,第III相試験にて延命効果が検証された急速静注の5-FU+l-LVにirinotecanを併用したIFL療法77),78)は,その後の第III相試験N9741においてFOLFOX療法に劣る成績が報告され73),さらに術後補助療法の第III相試験C89803でも治療関連死亡を含む有害事象が高いことが報告された79)
5-FU/l-LV後の二次治療としてirinotecan単独療法が用いられることが多い80)。しかし,下痢,食欲低下,白血球減少などの重篤な有害事象を発生することがあり,投与に当たっては十分な注意が必要である。今後,FOLFOXやFOLFIRIが一次治療として使用されることになると,FOLFOX→FOLFIRIあるいはFOLFIRI→FOLFOXのような順次療法が行われる可能性がある74)
経口抗がん剤では,5-FU/l-LV療法と臨床的同等性が検証された薬剤が優先的に選択されている。
国内ではUFT/LV(錠)併用療法81),82),83)が,海外ではcapecitabine(国内未承認)84),85)が一次治療として使用されている。
S-1の大腸癌治療での位置づけは今後の検討課題である86),87)
(5) 5-FU/LV療法の投与法(註:国内ではL型ロイコボリンが承認されており,投与量は欧米dL型ロイコボリンの半量で等量となる)には,RPMI法(l-LV 250mg/m2,2時間点滴;5-FU 600mg/m2,l-LV開始1時間後に3分以内に緩徐に静注:毎週1回投与,6週連続2週休薬,8週毎繰り返す75),76)),de Gramont法(l-LV 100mg/m2,2時間点滴;5-FU 400mg/m2,l-LV終了直後に静注;5-FU 600mg/m2を22時間かけて点滴静注:これを2日間連続して行い,2週毎に繰り返す)71),sLV5FU2法(l-LV 200mg/m2,2時間点滴;5-FU 400mg/m2,l-LV終了直後に静注;5-FU 2,400〜3,000mg/m2を46時間かけて点滴静注:2週毎に繰り返す),AIO法(l-LV 250mg/m2,2時間点滴;5-FU 2,600mg/m2を24時間かけて点滴静注:6週連続2週休薬,8週毎繰り返す)72)がある。
 
持続点滴の際にはポート管理や,5-FUによる皮膚症状などに留意が必要である。
(6) 欧米では,FOLFOX(infusional 5-FU/LV/oxaliplatin)71),73)やFOLFIRI(infusional 5-FU/LV/irinotecan)74),IFL(irinotecan/bolus 5-FU/LV)78) などの三剤併用療法が推奨されている。
(7) 肝動注療法は肝転移縮小率は高いが,生存期間に関しては全身投与に比較して有用性は検証されていなく,今後の課題である88)
(8) PS3〜4,あるいは高度の臓器障害のある患者は一般的に化学療法の適応となることは少ない。敢えて化学療法を行う場合はそのリスクについて十分なインフォームド・コンセントを行う必要がある。
(9) 化学療法歴を有する治療抵抗性症例に対して化学療法を行う場合は,治療効果は低く,有害反応が強くなり,十分な観察と対応が必要である。
 
 
注1)PSについて
ECOGのPerformance Status(PS)の日本語訳
 Grade  Performance Status
0 全く問題なく活動できる。
発病前と同じ日常生活が制限なく行える。
1 肉体的に激しい活動は制限されるが,歩行可能で,軽作業や座っての作業は行うことができる。例:軽い家事,事務作業
2 歩行可能で自分の身の回りのことはすべて可能だが作業はできない。
日中の50%以上はベッド外で過ごす。
3 限られた自分の身の回りのことしかできない。
日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす。
4 全く動けない。自分の身の回りのことは全くできない。
完全にベッドか椅子で過ごす。
この基準は全身状態の指標であり,局所症状で活動が制限されている場合は,臨床的に判断する。
 
 
注2)効果判定基準RECISTガイドライン:
  http://www.jcog.jp/SHIRYOU/fra_ma_guidetop.htmよりダウンロードできる。
 
注3)有害事象判定基準CTCAE(Common Terminology Criteria for Adverse Events)Ver3.0:
  http://www.jcog.jp/SHIRYOU/fra_ma_guidetop.htmより有害事象共通用語規準v3.0日本語訳JCOG/JSCO版(2004年10月27日)がダウンロードできる。

 

 
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