有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン
VII.おわりに
わが国及び諸外国において行われている肺がん検診について系統的総括を行い、死亡率減少効果に加え、不利益に関する評価を行い、推奨レベルを決定した。わが国におけるがん検診は、市区町村を実施主体とする住民検診で公的施策として実施されている。久道班報告書第3版では、こうした公的施策として実施されるがん検診を念頭に置いて、そのための判断基準が提供された。わが国においては、公的施策として行われるがん検診以外にも、職域の法定健診や人間ドックなどでも少なからずがん検診が実施されている。どのような実施体制であっても、死亡率減少効果の確立したがん検診であるかどうかの判断は最も重要視すべきである。このため、本ガイドラインは、がん検診に関連するすべての人々への情報提供を目的としている。
本ガイドラインは、がん検診実施を検討するすべての関係機関において活用されることを期待して作成した。様々な職種の関係者が容易に内容を理解できるように、本報告以外にも、医療従事者を対象にした簡略版、一般向けの解説書、検診受診のためのパンフレットなどを作成すると共に、情報提供のためのホームページにも本ガイドラインを掲載する予定である(科学的根拠に基づくがん検診推進のページ)。ガイドラインの解説にも、関連学会誌や学会、研修会、講演会などを利用し、がん検診に関わる医療従事者への周知に努めていく。同時に、本ガイドラインががん検診の実施に際してどのように使用されているか、またどの程度推奨に基づいた判断が行われているかについては、今後アンケート調査などで継続的にモニターし、ガイドライン更新のための情報として利用していきたい。
肺がん検診については、非高危険群に対する胸部X線検査、及び高危険群に対する胸部X線検査と喀痰細胞診併用法以外の方法は、有効性評価に関する研究が不十分な現状にある。しかしながら、同様の方法であっても、都道府県格差があることは、従来より指摘されている。肺がん検診が死亡率減少を達成するには、適切なマネジメントが必須であり、今後、生活習慣病検診管理指導協議会とも連携を図りながらの、精度管理体制の見直しが期待されている。
本ガイドラインで採用した主要な論文の多くが、肺がん検診ガイドライン作成委員会または肺がん検診レビュー委員会の委員が関与した論文であることは望ましいこととはいえず、判定の公平性を保つためには、本来、論文作成に関与していない委員のみで上記委員会を構成すべきである。そのように出来なかった理由は、わが国において肺がん検診とがん検診の有効性評価の両方について十分な知識を有する専門家の数が非常に限られていたことによる。そこで本ガイドライン作成においては公平性を保つための次善の策として、肺がん検診の専門知識はないものの他のがん検診の専門でありがん検診の有効性評価に関する知識のある専門家を上記委員会の委員に含めた。今後、がん検診の有効性評価の知識を有する専門家を十分な人数にまで育成することが緊急の課題である。
今後は、評価が保留となった方法についても、新たな評価研究が行われることに期待する。特に、胸部CTについては人間ドックを中心として普及している現状を考慮し、有効性評価に直結した研究が喫緊の課題である。現在、厚生労働科学研究費補助金 第3次対がん総合戦略研究事業「革新的な診療技術を用いたこれからの肺がん検診手法の確立に関する研究」班(主任研究者:鈴木隆一郎)において、低線量CTを用いた肺がん検診のコホート研究が進められており、その結果が待たれている。今後5年以内に見直しを行い、2011年に今回判定が保留となった方法のみならず、新たな検診方法の検討も含め再評価を行う予定である。