有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン

 
V.推奨レベル

 
各検診方法の推奨レベル(表16)について、「有効性評価に基づくガイドライン作成手順」9)の基本方針に従い、証拠のレベル及び各検査方法の不利益を勘案し、作成委員会及び研究班での合議の上決定した。
証拠のレベル及び推奨レベルの判定に関する評価は、研究班内で全員一致した。ただし、X線検査と喀痰細胞診の併用法については、検査対象を明確にする必要があることが再認識され、討議のすえ、「非高危険群に対する胸部X線検査、及び高危険群に対する胸部X線検査と喀痰細胞診併用法」の記載で統一した。
本研究班の提示する推奨は、あくまでも死亡率減少効果と不利益に関する科学的根拠に基づいた判断である。推奨Bとされた検診方法であっても、偽陰性例・偽陽性例などの不利益があることから、実施に際しての当該検診に関する適切かつ十分な説明が必要である。なお、対策型検診は、集団の死亡率減少を目的として実施するものを示し、公共的な予防対策として行われる。一方、任意型検診は、個人の死亡リスク減少を目的としている。両者の定義及び特徴は、表1のとおりである。
推奨Iとされた検診方法は、科学的根拠が不十分なことから、対策型検診としては勧められない。これらの方法については、単なる発見率の報告などではなく、有効性評価を目的とした研究の場に限定して行われることが望ましく、一定の評価を得るまで公共政策として取り上げるべきではない。現在、対策型検診として行っている場合にも、今後の実施については、再検討することが望ましい。任意型検診として行う場合、がん検診の提供者は、死亡率減少効果が証明されていないこと、及び、当該検診による不利益について十分説明する責任を有する。任意型検診においては、受診者の価値観を踏まえ、受診選択を支援するにあたり、効果が不明であることについて正確な情報を伝達するに留めるべきである。
対策型検診及び任意型検診別に、各検診方法の推奨レベルを表17にまとめた。


表1 対策型検診と任意型検診の比較
検診方法 対策型検診
(住民検診型)
任意型検診
(人間ドック型)
Population-based screening Opportunistic screening
定義
目的 対象集団全体の死亡率を下げる 個人の死亡リスクを下げる
検診提供者 市区町村や職域・健保組合等のがん対策担当機関 特定されない
概要 予防対策として行われる公共的な医療サービス 医療機関・検診機関等が任意に提供する医療サービス
検診対象者 検診対象として特定された集団構成員の全員(一定の年齢範囲の住民など)。ただし、無症状であること。有症状者や診療の対象となる者は該当しない 定義されない。ただし、無症状であること。有症状者や診療の対象となる者は該当しない
検診費用 公的資金を使用。無料あるいは一部少額の自己負担が設定される 全額自己負担。ただし、健保組合などで一定の補助を行っている場合もある。
利益と不利益 限られた資源の中で、利益と不利益のバランスを考慮し、集団にとっての利益を最大化する 個人のレベルで、利益と不利益のバランスを判断する
特徴
提供体制 公共性を重視し、個人の負担を可能な限り軽減した上で、受診対象者に等しく受診機会があることが基本となる 提供者の方針や利益を優先して、医療サービスが提供される。
受診勧奨方法 対象者全員が適正に把握され、受診勧奨される 一定の方法はない
受診の判断 がん検診の必要性や利益・不利益について、広報等で十分情報提供が行われた上で、個人が判断する がん検診の限界や利益・不利益について、文書や口頭で十分説明を受けた上で、個人が判断する。参加の有無については、受診者個人の判断に負うところが大きい
検診方法 死亡率減少効果が示されている方法が選択される。有効性評価に基づくがん検診ガイドラインに基づき、市区町村や職域・健保組合等のがん対策担当機関が選ぶ 死亡率減少効果が証明されている方法が選択されることが望ましい。ただし、個人あるいは検診実施機関により、死亡率減少効果が明確ではない方法が選択される場合がある
感度・特異度 特異度が重視され、不利益を最小化することが重視されることから、最も感度の高い検診方法が必ずしも選ばれない 最も感度の高い検査の選択が優先されがちであることから、特異度が重視されず、不利益を最小化することが困難である
精度管理 がん登録を利用するなど、追跡調査も含め、一定の基準やシステムのもとに、継続して行われる 一定の基準やシステムはなく、提供者の裁量に委ねられている
具体例
具体例 老人保健事業による市町村の住民検診(集団・個別)
労働安全衛生法による法定健診に付加して行われるがん検診
検診機関や医療機関で行う人間ドックや総合健診
慢性疾患等で通院中の患者に、かかりつけ医の勧めで実施するがんのスクリーニング検査
注1) 対策型検診では、対象者名簿に基づく系統的勧奨、精度管理や追跡調査が整備された組織型検診(Organized Screening)を行うことが理想的である。
ただし、現段階では、市区町村や職域における対策型検診の一部を除いて、組織型検診は行われていないが、早急な体制整備が必要である。
注2) 2005年に公開した大腸がん検診ガイドラインでは、対策型検診を一元的にOrganized screeningとしたが、2006年の胃がん検診ガイドラインでは、わが国における対策型検診の現状を考慮し、現状の対策型検診(Population based screening)と対策型検診の理想型である組織型検診(Organized screening)を識別し、その特徴を明らかにした。
注3) 任意型検診の提供者は、死亡率減少効果の明らかになった検査方法を選択することが望ましい。
がん検診の提供者は、対策型検診では推奨されていない方法を用いる場合には、死亡率減少効果が証明されていないこと、及び、当該検診による不利益について十分説明する責任を有する。

表16 各種肺がん検診の推奨レベル
検査方法 証拠 推奨 表現
非高危険群に対する胸部X線検査、及び高危険群に対する胸部X線検査と喀痰細胞診併用法 2+ B 死亡率減少効果を示す相応な証拠があるので、対策型検診及び任意型検診として、非高危険群に対する胸部X線検査、及び高危険群に対する胸部X線検査と喀痰細胞診併用法による肺がん検診を実施することを勧める。ただし、死亡率減少効果を認めるのは、二重読影、比較読影などを含む標準的な方法注1)を行った場合に限定される。標準的な方法が行われていない場合には、死亡率減少効果の根拠はあるとはいえず、肺がん検診としては勧められない。また、事前に不利益に関する十分な説明が必要である。
低線量CT 2- I 死亡率減少効果の有無を判断する証拠が不十分であるため、対策型検診として実施することは勧められない。任意型検診として実施する場合には、効果が不明であることと不利益について適切に説明する必要がある。なお、臨床現場での撮影条件を用いた非低線量CTは、被曝の面から健常者への検診として用いるべきではない。
注1)  標準的な方法とは、「肺癌取扱い規約」14)の「肺癌集団検診の手引き」に規定されているような機器および方法に則った方法を意味している。したがって、撮影電圧が不足したもの、二重読影を行わないもの、比較読影を行わないものなどは、ここで言う標準的な肺がん検診の方法ではない。

表17 実施体制別肺がん検診の推奨レベル
検診体制 対策型検診 任意型検診
Population-based Screening Opportunistic Screening
概要 対象集団全体の死亡率を下げる 個人の死亡リスクを下げる
具体例 老人保健事業による市町村の住民検診(集団・個別)
労働安全衛生法による法定健診に付加して行われるがん検診
検診機関や医療機関で行う人間ドックや総合健診
スクリーニング方法 推奨
非高危険群に対する胸部X線検査、及び高危険群に対する胸部X線検査と喀痰細胞診併用法 ○(推奨B) ○(推奨B)
低線量CT ×(推奨I )注1) △(推奨I )注2)
注1)  死亡率減少効果の有無を判断する証拠が不十分であるため、対策型検診として実施することは勧められない。
注2)  がん検診の提供者は、死亡率減少効果が証明されていないこと、及び、当該検診による不利益について十分説明する責任を有する。
任意型検診として実施する場合には、効果が不明であることと不利益について十分説明する必要がある。その説明に基づく、個人の判断による受診は妨げない。


 

 
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