有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン

 
IV.結果

 
2. 検診方法の証拠

2)低線量CT
不利益

低線量CT検診には前投薬・造影剤等は不要であり、食事制限も不要である。スクリーニングにおける不利益としては、放射線被曝・要精検率が高いこと・過剰診断などがあげられる。
放射線被曝については、たとえ低線量で撮影されたとしても、胸部単純撮影に比べればはるかに大きい(表10)。村松らの報告によると、検診として、管電流50mAで撮影されたシングル・ディテクターCTによる表面吸収線量は2.2mGy、中心部の吸収線量は2.6mGyとされている52)。また岡本らの報告では、50mAで2.7mSv、25mAで実効線量1.4mSvとされている54)。これらは胸部単純撮影に比べて吸収線量で約3-10倍、実効線量で20-40倍に相当するが、最近のDiederichらの実効線量の報告によると、50mAでも男性0.6mSv、女性1.1mSvとかなり低い線量が報告されている69)。マルチ・ディテクターCTについては、管電流を軽減させることが可能であるため、実効線量で0.43-0.65mSvと報告されている60),71)。一方、通常の臨床条件では、管電流150mAで撮影されたシングル・ディテクターCTによる表面吸収線量は16.2mGy、中心部の吸収線量は19.0mGyとされている52)。なお、臨床現場で胸部に通常用いられる撮影条件(150-200mA)においては、検診用の低線量CTに比べて吸収線量で約8倍52)、実効線量で約3-4倍51)という非常に高い被曝線量が報告されている。これらは胃透視検査の直接撮影・間接撮影のそれぞれ2-3倍、10-15倍に相当する。西澤は、CTによる国民被曝量は年間2.3mSvと推計している72)。また、Bulsらによれば56歳から毎年胸部CTを受けることによる過剰死亡は、低線量では0.1%、通常線量では0.5%と推計している73)。通常線量によるCTは放射線被曝の観点からも検診には適さないと考えられているが、これに関しては考察の不利益の項で述べる。
表13にCT検診による過剰な検査の頻度一覧を示した58),59),60),61),62),63),64),65),66),68),69)。低線量CT検診の場合、検査陽性率が胸部X線写真と比較して一般的に高率となり、結果として偽陽性率(1-特異度)が高くなると考えられているため、本来なら精査の不要な良性結節に対して過剰な精査が行われる不利益が胸部X線写真による検診に比較して増大すると考えられてきたが、Gohagan et alによるCTと胸部X線の無作為化比較対照試験において、気管支鏡検査、CT生検、手術などの精査の割合は両群間に差を認めなかった58),59)。ただし、本研究は、CTによる発見肺がんのI期割合がベースラインにおいて53%、1年目において25%と低頻度で、本邦の報告からの乖離が認められる。Nawa及びSobueの報告からは、CT陽性例中の良性結節に対する精査割合は、各々、2%、3.7%で、一方、CT陽性例中の肺癌発見割合は、各々、2.7%、2.6%となっている62),68)。すなわち、繰り返しCT検診が行われると、検査陽性例に対する発見肺がん数割合と良性結節に対する気管支鏡検査、CT生検、手術などの精査数割合は同程度になることが示されている。
胸部CTにおける過剰診断に関する報告としては2報があげられる。Dammas et alは、死亡前2ヶ月以内に胸部CTを撮影した187人の病理解剖報告書において、CT上1個以上の腫瘤影を認めた28人中19人が解剖報告書においても腫瘤についての記載を認め、内2人は死亡前未診断の肺がん(扁平上皮がん)であったと報告している74)。即ち187人中、少なくとも2人(1.1%)は死因とは直接関係のない肺がんをCTにて発見されたことになり、胸部CTにおける過剰診断の可能性が窺われた。Kodama et alは、CT上陰影の全体がすりガラス状陰影(pure ground-glass opacity)を呈した19人の2年以上の経過観察を報告した75)。8人(42%)が陰影変化せず、この内3人に組織学的確定診断が得られ1人が肺がんであった。また10人には手術が施行され5人(50%)が肺がんと診断されたと報告した。即ち、2年以上陰影が変化しないpure ground-glass opacityでは少なくとも12.5%(1/8)が肺がんと診断されたことになり、胸部CTの過剰診断の可能性が示唆された。

表10 肺がん検診のスクリーニング検査に伴う放射線被曝
文献NO 著者 発表年 被曝線量の尺度 胸部X線 胸部CT
間接X線 直接X線
55 丸山隆司ら 1996 集団実効線量   男性 56.4、女性57.6µGy  
53 神津省吾ら 1992 吸収線量
皮膚     300.3µGy
161.2
骨髄 63.5
皮膚     212.2µGy
117.3
骨髄 45.0
 
52 村松禎久ら 1996 吸収線量
表面 0.82mGy
中心 0.26

 
 
表面 0.23mGy
中心 0.13
シングル・ディテクター
臨床条件
表面 16.2mGy (150mA)
中心 19.0
検診条件
表面 2.2mGy (50mA)
中心 2.6
51 Nishizawaら 1996 実効線量 0.07mSv 0.04mSv
シングル・ディテクター
臨床条件 10.81mSv (150mA)
  6.04 (210mA)
  9.03 (200mA)
検診条件 3.64mSv (50mA)
54 岡本英明ら 2001 実効線量 0.065mSv 0.021mSv
シングル・ディテクター
検診条件 2.7mSv (50mA)
  1.4 (25mA)
69 Diederichら 2002 実効線量    
シングル・ディテクター
男性 0.6mSv (50mA)
女性 1.1  
71 丸山雄一郎ら 2002 実効線量    
マルチ・ディテクター(4列)
     0.43mSv (10mA)
60 Swensenら 2002 実効線量    
マルチ・ディテクター(4列)
     0.65mSv (40mA)
注) 吸収線量は、局所での被曝線量を表し、実効線量は体全体の被曝線量を評価するために、放射線の種類・臓器毎のリスクで重みをつけたものである。


表13 低線量CT検診による過剰検査頻度
グループ 文献No 良性結節に対する気管支鏡、CT下生検数/CT検査陽性数(%) 良性結節に対する手術数/CT検査陽性数(%) 良性結節に対する精査合計数/CT検査陽性数(%) 発見肺がん数/CT検査陽性数(%)  
初回 繰り返し 初回 繰り返し 初回 繰り返し 初回 繰り返し  
Gohagan
(LSS)
58 16/325(4.9) 6/360(1.7) 23/325(7.1) 10/360(2.8) 39/325(12) 16/360(4.4) 30/325(9.2) 8/360(2.2) CT群
59 5/152(3.3) 0/115(0) 8/152(5.3) 1/115(0.9) 13/152(8.6) 1/115(0.9) 7/152(4.6) 9/115(7.8) CXR群
Swensen
(Mayo)
60 不明 不明 7/782(0.9) 不明 不明 不明 31/782(4.0) 不明  
61                  
Sobue
(ALCA)
62 6/186(3.2) 23/721(3.2) 2/186(1.1) 4/721(0.6) 8/186(4.3) 27/721(3.7) 13/186(7.0) 19/721(2.6)  
                   
Sone
(信州大)
63 不明 不明 7/279(2.5) 5/173(2.9) 不明 不明 22/279(7.9) 25/173(14.5)  
64                  
Henschke
(ELCAP I)
65 不明 1/137(0.7) 4/130(3.1) 1/137(0.7) 不明 2/137(1.5) 34/130(26.2) 15/137(10.9)  
66                  
Nawa
(Hitachi)
68 28/2,099(1.3) 1/148(0.7) 15/2,099(0.7) 2/148(1.4) 43/2,099(2.0) 3/148(2.0) 36/2,099(1.7) 4/148(2.7)  
                   
Diederich
(Munster)
69 1/350(0.3) N/A 2/350(0.6) N/A 3/350(0.9) N/A 11/350(3.1) N/A  
                   

 

 
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