有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン

 
IV.結果

 
2. 検診方法の証拠

1)非高危険群に対する胸部X線検査、及び高危険群に対する胸部X線検査と喀痰細胞診併用法
証拠のレベル
非高危険群に対する胸部X 線検査、及び高危険群に対する胸部X線検査と喀痰細胞診併用法:
2+
非高危険群に対する胸部X線検査、及び高危険群に対する胸部X線検査と喀痰細胞診併用法は、最近の日本からの4報の症例対照研究により有意な肺がん死亡率減少効果が認められているが、かつて欧米で行われた2報の無作為化比較対照試験では肺がん死亡減少効果は認められていない。症例対照研究は観察研究であることから、セルフセレクション・バイアスを始めとするバイアスを完全には制御できないが、一方、欧米での無作為化比較対照試験も、非常に古い報告であり医療水準自体が現代とは異なっていること、コンプライアンスやコンタミネーションの制御が不十分であったことも指摘されており、また人種間の差異もあり得る。それらを鑑み、わが国からの5報の症例対照研究がおおむね同じ傾向を示していること、そのうち4報が有意な値であること、それぞれの研究が様々な方法でバイアスの影響を除こうと試みても肺がん死亡減少の傾向を失わなかったことなどから、現代の日本におけるがん検診のガイドラインに用いるべき証拠としては、むしろ最近のわが国からの報告を重視することが妥当と判断した。症例対照研究の質としては中等度ないし高いものが5報存在し、そのうち4報で有意差があったため2++と評価できるが、かつて行われた欧米での無作為化比較対照試験で否定的な結果があることから、証拠のレベルは1段階下げて2+とした。40-79歳の男女に対する胸部X線検査と高危険群に対する喀痰細胞診併用法は、死亡率減少効果を示す相応の根拠がある。ただし、死亡率減少効果が認められた地区は、二重読影、比較読影などを含む標準的な方法が行われていた地区であり、そのような方法によらない場合には根拠があるとは言えないことに留意すべきである。また、事前に不利益に関する十分な説明が必要である。
胸部X線検査のみによる肺がん死亡率減少効果に関しては、それのみを取り上げた症例対照研究では有意な差に至らなかった。しかしながら、喀痰細胞診との併用法において喀痰細胞診を行わない非高危険群がほとんどを占める女性のオッズ比も全体のオッズ比に遜色がなかったことなどから、併用法における胸部X線検査の寄与度は高いことが推定される。喀痰細胞診の上乗せ効果に関しては、最近の症例対照研究でオッズ比が1より小さかったものの有意差はなく、かつて行われた無作為化比較対照試験でも肺がん死亡率が約10%低いものの有意差はなかったことから、現在のところ上乗せ効果があるとする根拠はないと判断した。

 

 
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