有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン

 
IV.結果

 
2. 検診方法の証拠

1)非高危険群に対する胸部X線検査、及び高危険群に対する胸部X線検査と喀痰細胞診併用法
不利益

間接撮影、直接撮影とも前投薬等は不要であり、スクリーニングにおける不利益としては放射線被曝がもっとも重要である。間接撮影の方が直接撮影よりも一般的には被曝線量が高いとされている(表10)。胸部単純X線検査の放射線被曝は、直接撮影0.04mSv、間接撮影0.07mSvと報告されている51)。ファントムを用いた測定によると吸収線量では間接撮影0.3-0.8mGy(皮膚)、0.16mGy(肺)、直接撮影0.2-0.23mGy(皮膚)、0.12mGy(肺)とされている52),53)。また実効線量では間接撮影0.065mSv、直接撮影0.021mSvとされている54)。丸山らの報告においても0.05mSvであった55)。これらは胃透視検査に比べればはるかに小さいものであり、人体への影響は極めて小さいと考えられる。
喀痰細胞診に固有な不利益は特に認められない。胸部X線検査、喀痰細胞診の両者において、スクリーニング段階で偶発症が起こる可能性はほとんどない。精密検査段階での不利益に関しては後述する。
過剰診断に関しては、Mayo Lung Projectで検診群の肺がん罹患数206人が対照群160人に比較して46人も多いことから、その罹患の差は過剰診断であると考える意見もある18),21)。しかしながら、検診群206人のうち検診期間外に発見されたもの、検診期間内だが検診外で発見されたものを除くと、検診で発見されたものは90人に過ぎず、罹患数の差46人は検診発見例の51%にあたる17)。複数の肺がん検診発見例の自然史調査によれば、臨床病期I期の非切除例の5年生存率は14.3-16.6%、10年生存率は2.4-7.4%と報告されており56),57)、過剰診断があったとしても51%になることは考えられない。

表10 肺がん検診のスクリーニング検査に伴う放射線被曝
文献NO 著者 発表年 被曝線量の尺度 胸部X線 胸部CT
間接X線 直接X線
55 丸山隆司ら 1996 集団実効線量   男性 56.4、女性57.6µGy  
53 神津省吾ら 1992 吸収線量
皮膚     300.3µGy
161.2
骨髄 63.5
皮膚     212.2µGy
117.3
骨髄 45.0
 
52 村松禎久ら 1996 吸収線量
表面 0.82mGy
中心 0.26

 
 
表面 0.23mGy
中心 0.13
シングル・ディテクター
臨床条件
表面 16.2mGy (150mA)
中心 19.0
検診条件
表面 2.2mGy (50mA)
中心 2.6
51 Nishizawaら 1996 実効線量 0.07mSv 0.04mSv
シングル・ディテクター
臨床条件 10.81mSv (150mA)
  6.04 (210mA)
  9.03 (200mA)
検診条件 3.64mSv (50mA)
54 岡本英明ら 2001 実効線量 0.065mSv 0.021mSv
シングル・ディテクター
検診条件 2.7mSv (50mA)
  1.4 (25mA)
69 Diederichら 2002 実効線量    
シングル・ディテクター
男性 0.6mSv (50mA)
女性 1.1  
71 丸山雄一郎ら 2002 実効線量    
マルチ・ディテクター(4列)
     0.43mSv (10mA)
60 Swensenら 2002 実効線量    
マルチ・ディテクター(4列)
     0.65mSv (40mA)
注)吸収線量は、局所での被曝線量を表し、実効線量は体全体の被曝線量を評価するために、放射線の種類・臓器毎のリスクで重みをつけたものである。

 

 
ページトップへ

ガイドライン解説

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す

診療ガイドライン検索

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す