有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン
III.方法
2. Analytic Frameworkの設定
死亡率減少効果を示す指標は、直接的証拠と間接的証拠に大別される。
US Preventive Services Task Force(以下、USPSTF)のAnalytic Framework(以下、AF)の概念をもとに10)、肺がん検診のAF(図1)を作成し、直接的証拠と間接的証拠を分け、各段階の検討課題を明確にした。AFとは、検査や治療の結果を評価するために、検診、精密検査、治療の段階において、各段階における評価指標(検診によりもたらされる中間結果)を明確にし、最終的な結果である死亡率減少にどのように結びついていくかを、一連の流れとしてまとめ、直接的証拠と間接的証拠の位置づけを明確にしたものである。このため、AFの各段階に対応したリサーチ・クェスチョンを設定し、その解決のために必要な文献を収集し、証拠としての妥当性や信頼性を吟味することになる。なお、がん検診受診に関する障壁(バリア)及び経済評価に関する研究は、死亡率減少効果の検討からは除外し、別途検討した。
AFを構成する要因のうち、AF1は、死亡率減少効果を証明する直接的証拠とし、無作為化比較対照試験、症例対照研究、コホート研究、地域相関研究を抽出した。AF2-8は、検査精度(感度・特異度)、発見がんの病期、治療法、生存率、不利益などの文献を抽出した。AF1以外の研究は、個々の研究だけでは、がん検診による死亡率減少効果を証明することが困難であることから、間接的証拠とした。これらの研究については、単独では死亡率減少効果を証明することはできない。
死亡率減少効果を示す証拠として直接的証拠と間接的証拠の両者を採用するが、あくまでも直接的証拠を優先する。間接的証拠は、単独ではなく、直接的証拠のある検診方法との比較検討が可能な場合にのみ、採用することを原則とする。ある検診方法の精度が、無作為化比較対照試験により死亡率減少効果が証明されている検診方法より優れている場合などが該当する。具体的には、便潜血検査における免疫法の評価に適用されている。すなわち、大腸がん検診では便潜血検査化学法については無作為化比較対照試験により死亡率減少効果が証明されている。そのため、大腸がん検診で各種の検診方法の有効性を検討する場合、便潜血検査化学法と精度を比較することで、間接的証拠を採用することができる。一方、比較対照となる検診方法の死亡率減少効果が、次善の方法である症例対照研究やコホート研究で証明された場合は、間接的証拠として採用する論拠とはならない。症例対照研究やコホート研究においては、たとえ研究の質が高い場合でも、バイアスの制御は困難である。従って、単独の観察研究だけでは検診の有効性を示す確固たる証拠となり得ない。また、症例対照研究をはじめとする観察研究によって死亡率減少効果を証明された検査方法との精度の比較検討だけでは、直接的証拠と同等の証拠は得られないと判断する。
図1 肺がん検診のAnalytic Frameworkと対応する検討課題 |
![]() |
PDT: photodynamic therapy 光線力学的療法 |
VATS: video-assisted thoracoscopic surgery 胸腔鏡下肺葉・区域切除術 |
AF1 | 検診による死亡率を示す直接的な根拠 | |
AF2 | 適切な検診対象集団 ハイリスク群(喫煙歴など)は特定できるか? |
|
AF3 | 検査(スクリーニング、精密検査)の精度 スクリーニング検査の感度・特異度 病期別(早期・進行がん)の感度 発見がんの特性(病期・腫瘍径など) 精密検査(高分解能CT、気管支鏡、経皮的肺穿刺)の精度 |
|
AF4 | 検査(スクリーニング、精密検査)の不利益 | |
1) ・ |
スクリーニング スクリーニング検査として受容できる範囲のものか?:不利益の程度(スクリーニングに よる偶発症、偽陰性・中間期がんの検討) |
|
2) | スクリーニングによる受診者の負担 | |
3) ・ |
精検 どのような不利益があるか? どのような場合に起こりうるか?(偶発症頻度etc) |
|
AF5 | 内科的治療(放射線治療、光線力学的療法)により、死亡率を減少させる根拠はあるか? | |
1) | 外来群と検診群の比較:病期、生存率など | |
2) | 検診群が優位とすれば、その根拠(検診受診群と非受診群や一般集団との比較など) | |
AF6 | 検診プログラムにおける内科的治療の不利益 内科的治療(放射線治療、光線力学的療法)に伴う偶発症 |
|
AF7 | 外科的治療(手術・胸腔鏡下手術)により、死亡率を減少させる根拠はあるか? | |
1) | 外来群と検診群の比較:病期、生存率など | |
2) | 検診群が優位とすれば、その根拠(検診受診群と非受診群や一般集団との比較など) | |
AF8 | 検診プログラムにおける治療(外科手術)の不利益 |