有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン

 
要旨

 
推奨のレベル

非高危険群に対する胸部X線検査、及び高危険群に対する胸部X線検査と喀痰細胞診併用法は、肺がん検診として死亡率減少効果を示す相応な証拠があるので、対策型及び任意型検診として実施することを勧める。低線量CTは、肺がん検診として死亡率減少効果の有無を判断する証拠が不十分であるため、対策型検診としては勧められない。任意型検診として実施する場合、がん検診の提供者は、死亡率減少効果が証明されていないこと、及び、当該検診による不利益について十分説明する責任を有する。その説明に基づく、個人の判断による受診は妨げない。ただし、死亡率減少効果が不明である方法については、有効性評価を目的とした研究の範囲内で行われることが望ましく、一定の評価を得るまで対策型検診として取り上げるべきではない。

総括表 肺がん検診の推奨レベル
検査方法 証拠 推奨 表現
非高危険群に対する胸部X線検査、及び高危険群に対する胸部X線検査と喀痰細胞診併用法 2+ 死亡率減少効果を示す相応な証拠があるので、対策型検診及び任意型検診として、非高危険群に対する胸部X線検査、及び高危険群に対する胸部X線検査と喀痰細胞診併用法による肺がん検診を実施することを勧める。ただし、死亡率減少効果を認めるのは、二重読影、比較読影などを含む標準的な方法注1)を行った場合に限定される。標準的な方法が行われていない場合には、死亡率減少効果の根拠はあるとはいえず、肺がん検診としては勧められない。また、事前に不利益に関する十分な説明が必要である。
低線量CT 2- 死亡率減少効果の有無を判断する証拠が不十分であるため、対策型検診として実施することは勧められない。任意型検診として実施する場合には、効果が不明であることと不利益について適切に説明する必要がある。なお、臨床現場での撮影条件を用いた非低線量CTは、被曝の面から健常者への検診として用いるべきではない。
*証拠・推奨のレベルについては、下表参照
注1)標準的な方法とは、「肺癌取扱い規約」の「肺癌集団検診の手引き」に規定されているような機器および方法に則った方法を意味している。したがって、撮影電圧が不足したもの、二重読影を行わないもの、比較読影を行わないものなどは、ここで言う標準的な肺がん検診の方法ではない。


証拠のレベル
証拠レベル 主たる研究方法 内容
1++ 無作為化比較対照試験 死亡率減少効果の有無を示す、質の高い無作為化比較対照試験が行われている
系統的総括 死亡率減少効果の有無を示す、質の高いメタ・アナリシス等の系統的総括が行われている
1+ 無作為化比較対照試験 死亡率減少効果の有無を示す、中等度の質の無作為化比較対照試験が行われている
系統的総括 死亡率減少効果の有無を示す、中等度の質のメタ・アナリシス等の系統的総括が行われている
AF組み合わせ Analytic Frameworkの重要な段階において無作為化比較対照試験が行われており、2++以上の症例対照研究・コホート研究が行われ、死亡率減少効果が示唆される
1- 無作為化比較対照試験 死亡率減少効果に関する質の低い無作為化比較対照試験が行われている
系統的総括 死亡率減少効果に関するメタ・アナリシス等の系統的総括が行われているが質が低い
2++ 症例対照研究/コホート研究 死亡率減少効果の有無を示す、質が高い症例対照研究・コホート研究が行われている
2+ 症例対照研究/コホート研究 死亡率減少効果の有無を示す、中等度の質の症例対照研究・コホート研究が行われている
AF組み合わせ 死亡率減少効果の有無を示す直接的な証拠はないが、Analytic Frameworkの重要な段階において無作為化比較対照試験が行われており、一連の研究の組み合わせにより死亡率減少効果が示唆される
2- 症例対照研究/コホート研究 死亡率減少効果に関する、質の低い症例対照研究・コホート研究が行われている
AF組み合わせ 死亡率減少効果の有無を示す直接的な証拠はないが、Analytic Frameworkを構成する複数の研究がある
3 その他の研究 横断的な研究、発見率の報告、症例報告など、散発的な報告のみでAnalytic Frameworkを構成する評価が不可能である
4 専門家の意見 専門家の意見
AF: Analytic Framework
注1) 研究の質については、以下のように定義する
質の高い研究:バイアスや交絡因子の制御が十分配慮されている研究。
中等度の質の研究:バイアスや交絡因子の制御が相応に配慮されている研究。
質の低い研究:バイアスや交絡因子の制御が不十分である研究。
注2) 系統的総括について、質の高い研究とされるものは無作為化比較対照試験のみを対象とした研究に限定される。
無作為化比較対照試験以外の研究(症例対照研究など)を含んだ系統的総括の研究の質は、中等度以下と判定する。


推奨のレベル
推奨 表 現 対策型検診
(住民検診型)
任意型検診
(人間ドック型)
証拠のレベル
A 死亡率減少効果を示す十分な証拠があるので、実施することを強く勧める。 推奨する 推奨する 1++/1+
B 死亡率減少効果を示す相応な証拠があるので、実施することを勧める。 推奨する 推奨する 2++/2+
C 死亡率減少効果を示す証拠があるが、無視できない不利益があるため、対策型検診として実施することは勧められない。
任意型検診として実施する場合には、安全性を確保し、不利益に関する説明を十分に行い、受診するかどうかを個人が判断できる場合に限り、実施することができる
推奨しない 条件付きで実施できる 1++/1+/2++/2+
D 死亡率減少効果がないことを示す証拠があるため、実施すべきではない。 推奨しない 推奨しない 1++/1+/2++/2+
I 死亡率減少効果の有無を判断する証拠が不十分であるため、対策型検診として実施することは勧められない。
任意型検診として実施する場合には、効果が不明であることと不利益について十分説明する必要がある。その説明に基づく、個人の判断による受診は妨げない。
推奨しない 個人の判断に
基づく受診は妨げない
1-/2-/3/4
注1) 対策型検診は、公共的な予防対策として、地域住民や職域などの特定の集団を対象としている。
その目的は、集団におけるがんの死亡率を減少させることである。
対策型検診は、死亡率減少効果が科学的に証明されていること、不利益を可能な限り最小化することが原則となる。
具体的には、市区町村が行う老人保健事業による住民を対象としたがん検診や職域において法定健診に付加して行われるがん検診が該当する。
注2) 任意型検診とは、医療機関や検診機関が任意で提供する保健医療サービスである。
その目的は、個人のがん死亡リスクを減少させることである。
がん検診の提供者は、死亡率減少効果の明らかになった検査方法を選択することが望ましい。
がん検診の提供者は、対策型検診では推奨されていない方法を用いる場合には、
死亡率減少効果が証明されていないこと、及び、当該検診による不利益について十分説明する責任を有する。
具体的には、検診センターや医療機関などで行われている総合健診や人間ドックなどに含まれているがん検診が該当する。
注3) 推奨Iと判定された検診の実施は、有効性評価を目的とした研究を行う場合に限定することが望ましい。

 

 
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