(旧版)科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン 2006年版
CQ5 補助療法
CQ5-1 膵癌に対する術前化学放射線療法は推奨されるか?
【エビデンス】
膵癌に対する手術単独治療の成績が極めて不良であることから,術前治療後に膵癌を切除する方法が提唱されている。その根拠は,術前治療によって癌の進行度を下げる(down-staging)ことができれば,切除率を上げ,癌細胞が術中遺残・撒布する機会を減少させることができる。一方,術前治療中に遠隔転移が発見されたり,同治療に奏効しない例を手術適応外とすることができる(手術適応の厳格化)からである。なお,膵癌の術前治療では局所制御を目指した照射治療が主役であるが,大半は抗癌剤がradiosensitizerとして同時投与されている。
膵癌に対する術前化学放射線療法の報告は,phase I〜IIのstudyに限られており,prospective randomized studyによって長期生存率を比較したものはない。
1. | 術前照射後に膵癌切除を行っても術後合併症の頻度は増加しない(安全性の確認)と報告1),2)されているが,いずれもランダム化比較試験の結果ではない(レベルIV)。Spitzら3)は膵癌切除後の合併症発生頻度は低くないので,手術先行例の約1/4が術後化学放射線療法の機会を逸したと報告している(術前治療の方が術後治療よりも併用治療の完遂率が高い)(レベルIV)。 |
2. | 局所進行切除不能膵癌に対して化学放射線療法を施行するとdown-stagingによって切除可能となる症例がある。Hoffmanら1)は約1/3の症例が腫瘍の縮小を示したこと(レベルIV)を,Evansら2)は約40%の症例が組織学上50%以上の死滅癌細胞で置換されていたと報告している(レベルIV)。 |
3. | Snadyら4)は化学放射線療法を行った68症例(全例T3,うち20例がその後切除可能)の生存期間中央値は24カ月で,このうち切除20例の生存期間中央値は32カ月であった。これに対して切除術を先行した91例(T1,2が73%,63例が術後併用治療)の生存期間中央値は14カ月に過ぎず,術前化学放射線療法の意義を評価している(レベルIV)。ちなみに,化学放射線療法後切除例における生存期間の中央値はMD Anderson Cancer Center5)は21カ月,Fox Chase Cancer Center6)は16カ月,Ishikawaら7)は24カ月,フランス8)とStanford University9)のグループはいずれも30カ月と報告しているが,いずれもランダム化比較試験ではない(レベルIV)。一般に化学放射線療法後の切除例は,局所再発は減少するが,肝転移再発死亡が多いと報告されている7),10)(レベルIV)。 |