(旧版)科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン 2006年版

 
 
CQ4 外科的治療法


CQ4-3 膵癌に対する門脈合併切除は予後を改善するか?

【エビデンス】
門脈合併切除は術前あるいは術中検査で門脈浸潤が疑われる,あるいは門脈浸潤陽性例に対して行う場合が多いが,門脈を膵臓の一部と考えて根治性向上を目的として予防的に行う場合がある。
日本膵臓学会膵癌登録20年間の総括によると,膵頭部癌通常型膵癌切除例における門脈合併切除と予後において,門脈浸潤ありの中で,761例の門脈合併切除非施行例と1219例の門脈合併切除例の生存期間中央値,5年生存率がそれぞれ9.7カ月,5.9%と10.2カ月,7.4%で有意差なし,同様に膵体尾部癌において,門脈浸潤ありの中で,388例の門脈合併切除非施行例と148例の門脈合併切除例の生存期間中央値,5年生存率がそれぞれ9.1カ月,9.2%と8.7カ月,8.3%で有意差なしと報告している。
門脈合併切除例と門脈合併切除非施行例を比較した9編の報告のすべてが,同等の生存率が望める1),2),3),4),5),6),7),8),9)としている。その中で,39例の切除例を対象として,門脈合併切除例は出血量が多く入院期間が長くなる1)とする報告(レベルIV)と,34例の切除例を対象として,門脈合併切除例は切除断端の癌の陰性化や予後の向上に寄与しなかった2)という報告(レベルIV)のように否定的な見解もみられたが,1,212例の豊富な症例数を対象として,治癒切除ができれば門脈合併切除等の拡大手術でも長期予後が得られる場合がある3)という報告(レベルIV),149例の切除例を対象として,門脈合併切除により治癒切除が可能であれば意義があるという報告4)(レベルIV),81例の切除例を対象として,切除断端および剥離面における癌浸潤が陰性であることが生存率に関与しているという報告5)(レベルIV),31例の切除例を対象として,手術根治度が予後と相関し,門脈合併切除の意義があるとする報告6)(レベルIV)のように同様な肯定的な見解もみられた。さらに59例の切除例を対象として,門脈合併切除例と門脈合併切除非施行例の腫瘍の生物学的悪性度を比較したところ有意差はなく,腫瘍の発生部位に起因する7)という報告(レベルIV)があった。他は43例と75例の切除例を対象として,手術時間以外に有意差を認めなかった8)とする報告(レベルIV)と,出血量以外に有意差を認めなかった9)とする報告(レベルIV)であった。
上記のような門脈合併切除非施行例との比較のない7編の報告の内6編の報告は,149例の切除例を対象として,門脈合併切除により切除率の向上と,なかには長期生存例が得られる10)とするもの(レベルIV)以外に,50例の連続症例を対象として,術前血管造影検査で門脈浸潤の程度が半周性かつ1.2cm以下で門脈合併切除の意義がある11)とするもの(レベルIV),212例の切除例を対象として,術前血管造影検査で門脈浸潤の程度を分類し,門脈浸潤が軽度であるほど切除断端および剥離面における癌浸潤の陰性率が高く予後が良好であった12)とするもの(レベルIV),282例の拡大手術例を対象として,根治度B以上ならば拡大手術の意義があるとする13)もの(レベルIV)のように門脈浸潤の程度や根治度により門脈合併切除の意義が変わってくるとする報告や,165例の血行再建例や門脈バイパスカテーテル法を用いた114例の切除例を対象として,動脈浸潤例では門脈合併切除の適応がなくなる14),15)とするもの(レベルIV)であった。さらに,門脈を合併切除することで切除断端および剥離面における癌浸潤を陰性化できる症例に限り門脈合併切除の適応となる16)との報告があった。それによると250例の切除例の内,171例(68.4%)の門脈合併切除例中,術後2年あるいは3年生存例のほとんどが門脈浸潤陽性であったにも関わらず,切除断端および剥離面における癌浸潤が陰性であった16)と報告(レベルIV)している。
結局,このCQに対するRCTは皆無であり,ピックアップした16編の報告はすべて自験例のレトロスペクティブな検討である。そのため,現時点では少なくとも予防的門脈合併切除により予後が改善するというエビデンスはないといわざるを得ない。

 

 
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