(旧版)科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン 2006年版
CQ4 外科的治療法
CQ4-2 膵頭部癌に対しての膵頭十二脂腸切除において胃を温存する意義はあるか?
【エビデンス】
膵頭部癌に対しては従来,2/3の胃切除を伴う膵頭十二指腸切除(PD)が広く行われてきた。臓器機能温存の考えの普及とともに幽門輪と胃を温存する幽門輪温存膵頭十二指腸切除(PPPD)を行う施設が多くなってきている。PPPDとPDの比較では膵頭十二指腸領域癌(膵頭部癌,総胆管癌,乳頭部癌などを含む)の検討が多く,膵頭部癌に限った検討は少ない。また,検討は拡大手術と通常手術の比較の中で,1つの検討項目として胃切除の有無を検討しているものがRCT1)においても,retrospectiveな分析2),3),4)においても多い。その際,他の因子(リンパ節や後腹膜郭清の程度など)の影響も除外できない。
1. | PPPDとPDの比較のRCTは4つの報告(レベルII)があるのみである(表5)。それぞれ16対15例,37対40例と87対83例,64対66例と例数は少ない。 1つは台湾よりの報告(レベルII)である。Linら5)のRCTでは16例のPPPDと15例のPDが比較された。対象は膵頭癌の他に乳頭部癌なども含んでいる。手術合併症,手術死,手術時間,出血,輸血に違いはなかったが,胃排泄遅延がPPPDに多かった(6/16対1/15,P=0.08)。しかし,予後の検討はなされていない。 1つはスイスよりの報告(レベルII)である。Seilerら6)のRCTでは37例のPPPDと40例のPDを比較している。彼らも対象として膵頭癌の他に乳頭部癌などを含んでいる。PPPDは有意に手術時間が短く,出血量が少なく,輸血量が少なかった。手術死亡に差はなかったが,PDでやや合併症が多かった。胃排泄遅延には差はなかった。予後では再発率,生存率に差はなかった。以上より,PPPDは広義や狭義の膵頭部癌として選択し得る術式であると述べている。しかし,予後の検討では経過観察期間は平均1.1年とやや短い。 1つはオランダからの多施設検討(レベルII)である。Tranら7)は膵癌や傍十二指腸乳頭部癌に対して多施設による前向き試験を行った。年齢,性,腫瘍原発,stageなどの背景因子に2群間で差はなかった。出血量,手術時間,胃排泄遅延は両群間に差はなかった。手術関連死亡は5.3%であった。切除断端陽性はPDの12例,PPPDの19例に認めた(P=0.23)。長期生存に2群間に差はなかった(P=0.90)。以上よりPDもPPPDも膵癌や傍十二指腸乳頭部癌に対して同様に有効な治療であると結論付けている。 もう1つはスイスからの報告(レベルII)である。Seilerら8)は1996年6月より2001年9月に66例のPDと64例のPPPDを対象とした。膵頭部癌以外の傍十二指腸乳頭部癌も含まれている。周術期の合併症,長期の生存率,QOL,体重変化に差はなかった。しかし,術後早期のQOLはPPPDがPDより良好であった。PPPDとPDは膵頭十二指腸領域癌の治療で同等に有効であった。 |
2. |
その他の報告はretrospective analysis(レベルIV)である。それらを以下にまとめる。 根治性の意味では両者の違いは胃周囲リンパ節(幽門輪)郭清と胃切除が問題となる。膵頭部癌の胃周囲リンパ節への転移は膵癌取扱い規約では6番が2群に,5番は3群となっている9)。リンパ節転移頻度は日本膵癌全国集計では6番が6.1%,5番が1.5%と報告(レベルIV)されている10)。PPPDでも6番郭清は可能で,PPPD術後胃周囲リンパ節再発はないとする報告(レベルV)がある11)。胃切除の有無に関わらず,PPPD後十二指腸再発(断端再発)はないとする報告(レベルV)があり12),根治度は変わらないとする報告(レベルV)が多い。 術中や周術期の因子についての検討(レベルIV)がなされている。PDはPPPDより手術時間は長く13),出血量が多い13)とする報告(レベルV)がある。入院日数はPPPDがPDより短い13)とする報告(レベルV)がある。しかし,手術時間,出血量,輸血量,入院日数に違いがないとする報告(レベルV)も多い。 術後合併症13),手術死13)については差がないとする報告(レベルV)が多い。術後合併症としてPPPDで最も問題となる胃排泄遅延であるが,胃排泄遅延の定義が異なって断定的なことはいえない。PPPDで術後早期の排泄遅延が多いとの報告(レベルV)もあるが14),ないとする報告(レベルV)もある13),15),16)。 PPPDとPDの術後QOLの比較ではPPPDのほうがscale of social activity17)や体重の変化13),16),17),18),Alb値16),18),Hb値18),総コレステロール値18)が良いとする報告(レベルV)があるが,一方,PS11),19),体重の変化11),14),19),Alb値14),Hb値14),総コレステロール値14)に差はないとする報告(レベルV)もある。 根治性の意味で最も問題となるのは予後である。再発率,再発形式においては差がないとする報告(レベルV)が多い11),20)。生存率は両者で違いがないとする報告(レベルII,V)が多く3),6),11),14),15),16),19),20),21),22),1つのみPPPDがPDより不良とする報告(レベルV)がある23)。 |
表5 胃非温存PDと胃温存PDに対する4つの前向き臨床試験
報告者 | Lin PW and Lin YJ | Seiler CA, et al | Tran KT, et al | Seiler CA, et al | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
|
|
|
|
N.D.:not different, N.A.:not available, min:minute, m:month, S:survival, DFS:disease free survival, QOL:quality of life |