(旧版)科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン 2006年版
CQ3 放射線療法
CQ3-2 局所進行切除不能膵癌に対し術中放射線療法の効果はあるか?
【エビデンス】
局所進行切除不能膵癌に対する術中放射線療法は,膵癌の外照射療法で問題となる小腸など,放射線感受性の高い膵周囲の正常組織を開腹下に照射野外に待避させ,一回に大線量の電子線を病巣あるいは切除後の腫瘍床に対して照射する治療法である。海外においては放射性同位元素を手術中に病巣に刺入する試みも行われている1)。
局所進行切除不能膵癌の治療としては,術中放射線療法,外照射療法,化学療法(全身投与,動注療法)の3種類の治療法が単独または組み合わされて用いられている。一方で,それぞれの有用性を直接比較するための臨床試験は行われておらず,標準治療に関してのコンセンサスは形成されていない。
術中放射線療法の除痛効果の検討では,術中放射線療法単独または外照射療法,化学療法との併用で,50〜95%程度の有効性が報告されており2),3),4),5),6)(レベルIV),術中放射線療法非施行例と比較して除痛率が高いという報告がある2)(レベルIV)。
術中放射線療法による延命効果に関しては,除痛効果と同様に,術中放射線療法単独6),または術中放射線療法と外照射療法は5),保存療法に比べて延命効果があり(レベルIV),術中放射線療法非施行例に比べて,長期生存が可能であるとする報告はあるが1),7)(レベルIV),術中放射線療法非施行例の内訳が多様であり,外照射療法±化学療法などと比較して,より優れた延命効果があるかどうかは不明である。また術中照射(±術後照射)による局所の効果については評価が困難ではあるが,剖検所見の報告などから推測することが可能である8)(レベルIV)。
標準治療としての術中放射線療法の意義は不明なものの,術中放射線療法と外照射療法,5-FUを組み合わせた集学治療は,第II相臨床試験で良好な治療成績と安全性が報告されている9),10)。術中放射線療法を施行する際には外照射療法と併用することにより,生存期間の延長が得られること4)(レベルIV),小線源治療よりは電子線照射が副作用が少なく,生存期間が長いこと1)(レベルIV),などが報告されており,生存期間の延長を目的とする際には外照射療法を併用すべきである,というコンセンサスは形成されている。
このように術中放射線療法は局所進行切除不能膵癌に対し一定の効果があることは明らかであるが,標準的に術中放射線療法を用いるべきかどうかを現時点で決定することは困難である。また,局所進行切除不能膵癌の死因が,肝転移など局所以外の病変が主因であることが多いことも,術中放射線療法の延命効果が証明されにくい要因になっていると思われる。しかしながら,文献的考察とは別に,局所進行切除不能膵癌でバイパス手術を施行する際には,術中放射線療法を用いることにより1回で大線量を照射可能で,バイパス手術後の外照射療法の期間,入院期間を短縮できるという臨床的な利点があるため,実施可能な施設で行うことは妥当であると考えられる。その際,延命を目的とするのであれば外照射療法との併用が望ましい。
以上より,局所進行切除不能膵癌に対し術中放射線療法の有用性を支持する報告はあるものの,大規模なランダム化比較試験はなく,現段階で本治療の推奨度はCと判定する。