(旧版)科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン 2006年版
CQ2 化学療法
CQ2-2 遠隔転移を有する膵癌に対して推奨される一次化学療法は何か?
【エビデンス】
遠隔転移を有する膵癌に対する治療の目標は,延命と症状の緩和である。遠隔転移を有する膵癌に対する一次化学療法としてどのような治療が推奨されるかを検証した。
遠隔転移を有する膵癌に対しては,従来はフルオロウラシル(5-FU)を中心とした化学療法やホルモン療法を用いた比較試験が実施されてきた。5-FUをベースとした併用化学療法は,その有用性は若干ではあるが,Best supportive care(BSC)より優れていることがメタアナリシス1)(レベルI)で証明され,膵癌に対する化学療法の有用性が示された。さらに,近年は塩酸ゲムシタビンを中心とした種々の比較試験が行われている。
1.塩酸ゲムシタビン単独と他の抗癌剤との比較(表4-1)
塩酸ゲムシタビン単独と5-FUとの比較試験が行われ,塩酸ゲムシタビン群が,生存期間と症状緩和効果が有意に優れていたことが報告されている2)(レベルII)。その後,マリマスタットやBAY 12-9566(いずれもマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤)がそれぞれ塩酸ゲムシタビン単独と比較され,いずれの試験においても塩酸ゲムシタビン群の生存期間が有意に良好であった3),4)(レベルII)。
2.塩酸ゲムシタビン単独と塩酸ゲムシタビンを中心とした多剤併用療法との比較(表4-2)
塩酸ゲムシタビンは,他の抗癌剤とも併用され,塩酸ゲムシタビン単独との比較試験が実施されている5),6),7),8),9),10)(レベルII)。最近,塩酸ゲムシタビンとシスプラチン,エピルビシン,5-FUとの併用療法(PEFG療法)やエルロチニブとの併用療法では塩酸ゲムシタビン単独療法に比べ,生存期間を有意に延長したことが報告されたが,いずれの報告もその差はわずかであり,また併用群での有害事象発生頻度は高率であった11),12)(レベルII)。そのため,両併用療法を標準的治療法と位置づけるには現時点では十分なコンセンサスは得られていないと判断された。
3.5-FUを中心とした多剤併用療法の有用性を検証する比較試験
5-FUを中心とした多剤併用療法は,無治療13),14),15),16),17),18)(レベルII)あるいは5-FU単独19),20)(レベルII)やエピルビシン単独21)(レベルII)と比較され,その有用性が検証されている。少なくとも9本の比較試験が報告されており,うち3本の試験13),14),15)(レベルII)において,多剤併用療法群の生存期間が無治療に比べ有意に良好であったことを報告している。いずれの試験も比較的古いものであり,試験の質の問題が指摘されている。
4.ホルモン療法の有用性を検証する比較試験
somatostatin,luteinizing hormone-releasing hormone(LH-RH),octreotide,flutamideが3つの比較試験により有用性が検討されている22),23),24)(レベルII)。このうち,flutamideを用いた試験のみ,治療群が無治療群に比較し生存期間が有意に良好であることを報告している(50%生存期間:226日と120日)23)(レベルII)。
以上の結果から,遠隔転移を有する膵癌の一次化学療法としては,塩酸ゲムシタビン単剤治療が推奨される。
表4-1 Gemcitabineと他の薬剤(単剤)とのランダム化比較試験 |
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5-FU:fluorouracil Gem:gemcitabine |
表4-2 Gemcitabineを中心とした多剤併用療法に関する主なランダム化比較試験 |
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5-FU:fluorouracil CDDP:cisplatin CPT-11:irinotecan Gem:gemcitabine |